音というのは空気の振動であり物理現象です。
しかし人間が聞く「音」というのは決してそれだけに止まるものではなく、人間の脳が深く関与して受け取っているもので、物理現象の音波そのものとは異なります。
そうして、その音を使って組み立てる音楽というものも、脳の働きによってできているともいえるものです。
こういった内容について、脳科学者の伊藤さんが詳しく解説していきます。
なお、伊藤さんはアマチュアながらオーケストラでクラリネットを吹くということで、趣味の分野に専門の脳科学を取り入れていることになります。
本書は物理学の範囲の音波の話から徐々に心理学分野に進み、さらに音楽へと広がっていきます。
第1章は「音波と音」として物理学と心理学の関わりについて。
第2章は「音の誕生」、これは人間の耳の仕組みが深く関係してきます。
第3章は「音から音階へ」、聴覚心理学という分野の話。
第4章は「ドレミの誕生」、ドレミファソラシドという音階の構造は。
第6章は「調性音楽の登場」和声というものはさほど古いものではありません。
第7章は「音楽のしくみ」情報理論と楽式論
第8章は「音楽と脳」脳科学
第9章は「音楽とは何か?」として総合的なまとめとしています。
音は脳が聞こうとしなければ音ではないということは意外な気がします。
そういわれて初めて純正律と平均律との違いも分かることとなります。
脳が気持ち良いと感じる音というものは必ずしも物理的に割り切れる値のものではないということなのでしょう。
音色というものは音の大きさや音の高さといった比較的物理量から考えやすいものと異なり、はっきりと分かっているわけではありません。
音波の波形やスペクトルと見ることでどのような音色かということが分かるように思えますが、アタック、ディケイ、サステインといった要素がどのような音色と対応するのかも分かっていません。
音楽で音色を表現するのに、細い音、太い音、芯のある音、薄い音、ざらざらした音、尖った音などという表現を使うことがありますが、それらがどういったスペクトルに対応するのか、はっきり決まっていないのです。
完全5度の音程にこだわり、その周波数比を3:2と考えてすべての音階音を決めていくと、五度以外の音程に歪みが生じます。
ごくわずかな差なのですが、1.014倍となりそれをピタゴラスのコンマと言います。
この差でも人の耳は違いを聞き取れるようです。
音楽とは人の脳が欲しがる情報を聴覚で与えるものだということです。
その情報とは音楽を聴いた時の弛緩と緊張の心の動きです。
それが音楽の感動につながります。
ただしこの緊張は最初に聞いた時には大きくてもだんだんと慣れてくれば小さく感じられより大きな緊張を求めるようになります。
ハイドンの「驚愕」も初めて演奏された時には聴衆の緊張を大きく呼び起こしたのでしょうが、徐々に慣れると大したものではないように感じてきます。
そこからさらに何らかの方向に進んでいくのが音楽というものなのでしょう。
なかなか面白い視点の連続で、知らなかったことが多かった本でした。