単に地震や火山噴火、津波などの災害の様子を描くだけという本はよくありますが、この本ではそれだけでなく地球科学的な学説からの説明を背景に小説としています。
こういった手法のものでは、2002年に出版された石黒耀氏による「死都日本」という作品がありました。
こちらは巨大カルデラ噴火が南九州を襲うというもので、その迫真の描写が話題となりました。
どうしてもこの「炎の環」もその「死都日本」と比べてしまいそうになります。
さてこの本はどのようなものでしょうか。
冒頭はアフリカ北西部沿岸のカナリア諸島での海底火山爆発から始まります。
マグマが海底から直接海水に接触してしまうために激しい水蒸気爆発を引き起こし、周囲に強い衝撃波を発し破壊していきます。
さらに台湾での大地震、朝鮮半島白頭山の噴火、ジャワ島東のケルート山噴火、フィリピンミンダナオ島のアポ山噴火と立て続けに災害が連発していきます。
ここまではドキュメンタリーのような書き方です。
そして日本では、主人公が地球科学研究者という小説仕立てで話が進行していきます。
主人公の父親も世界的な地球科学者、しかもマントル対流運動が専門ということです。
その父親が世界的な異常災害の発生に関連しアイスランドの大学に招聘され、そこでの検討内容がマントルの運動の変化が地上での火山爆発や地震多発として現れるのかという問題でした。
結論ははっきりとは示されませんが、活動は激化しているということは言明されます。
その頃、息子である主人公は勤務先の研究所(神奈川県小田原)で地震の兆候の検討を続けています。
日本の地震対策の状況では、南海トラフや首都圏直下地震への注目がどうしても大きくなり、そのどちらからも端と見られる小田原足柄地方は重要度が低いと考えられがちです。
しかし実際にはここは3つのプレートの会合点に近く複雑なプレート運動に影響される場所であり、大正関東大震災でも死者が東京で多かったためにそちらに意識が向けられがちですが、非常に大きな揺れで被害も大きかったところでした。
そして小説の中ではそこに内陸型では巨大と言える地震が発生するのです。
震源は神奈川県西部で震源の深さが30㎞、マグニチュード7.9。
小田原などで震度7の揺れが起きます。
そして描写はそれに巻き込まれた人々の運命に移っていきますが非常に悲惨なことになるのは言うまでもありません。
小説の最後は主人公やその同僚の研究者たちが、東アジア全体で地震や火山の活動が活発化していくということを語り合うことで終わります。
そしてその全体が「炎の環」であるということで結ばれます。
本書の中でも解説されていますが、プレートテクトニクス理論は現在ではほとんど疑う人も無いような情勢ですが、そのプレートを動かす原動力となるのが何かという点ではまだ疑問の部分が残っています。
それを解決しようというのがマントル対流運動を扱う仮説で、マントルプルームテクトニクス理論などと言われるものですが、こちらはまだ学界の主流となるまでには至っていないようです。
それがこの「炎の環」生成の原因であるとは本書で明記はされていませんが、ほのめかされているとは言えるでしょう。
その点が少し危なっかしく感じられるところでしょうか。
おそらくこの記述ではプルームと火山爆発、地震多発というものが関係するということを読み取れる人はあまりいないのではないかと思います。
冒頭で触れた「死都日本」での災害は巨大カルデラ噴火というものですが、これは約1万年おきに日本列島を襲うというもので、これまでにも何十回も起きているものであり、その発生もすぐか、1万年先か、10万年先かは分かりませんが、いずれは必ず起きると考えられるというものです。
それをすぐ先の未来での話として描くということは小説として十分妥当な設定と言えるでしょう。
しかし本書の「マントルプルーム」は確かにこれまでも大災害を引き起こした原因かもしれませんが、それでも数千万年から数億年に一度のようです。
ちょっと長すぎるのではと思わせられます。
まあ、「地震はいつ起きても不思議じゃないので備えておいてね」という意味であれば良いのかもしれません。