自分が理系出身で知人友人もほとんど理系であるため、文系の「研究者」というものがどうなのかあまり知りません。
そもそも文系で大学院に進学するというのも珍しいのでしょう。
しかし確かにそういった研究者人生を送る人がいるわけです。
そういう希望をもった学生がいたとしても、近くにその実例が無いとなかなかイメージも掴みづらく、勘違いして取る道を間違えたり遠回りをしたりということもありそうです。
この本では日本語学教授で大学院生の指導も長く行っている著者が大学院修士課程進学から始まりその後長く続く文系研究者の人生を指し示してくれます。
もしもそういった進路を希望する大学生や高校生などがいればこの本は非常に役立つものでしょう。
それ以外の人にとっても興味深いものかもしれません。
最初に「研究者すごろく」が掲載されています。
大学院受験から始まり、修士課程院生、博士課程院生、任期付き教員、非常勤教員、任期無常勤教員と進み、最後は名誉教授からご臨終となってゴール。
本書内容もこのすごろくの各部と対応しています。
自然科学系では医学や薬学などは修士課程を含む6年一貫教育が基本ですし、その他の学部でも多くの人が修士には進むことが常識のようになっています。
しかし社会科学系では修士進学が5%弱、人文科学系では5%強しかいません。
そういった進学者は「すこし変わった人」と見られます。
ただし、社会科学系では専門職大学院というものがあり、経営管理、技術経営、法科大学院などがありますが、これらは研究職ではなく実務系ですので、ここでは触れていません。
文系の研究者となることは大きなリスクとも言えます。
文系では博士号を取ってもフルタイムの仕事に就けることが少なく、2020年3月の博士課程卒業者のうち就職者が人文科学系で39%、社会科学系で56%でした。
ちなみに自然科学も含めた全体では70%ということで、自然科学系はまだ就職率が高いようです。
なお、文系の場合博士課程を卒業しても博士号が取れない場合もかなり高く、学位取得率は50%に届きません。
しかも博士課程は3年ですがそれ以上在籍する人もかなり多く、学位取得まで平均5年だそうです。
こういった現状は把握しておく必要がありそうです。
文系の場合の「研究のやり方」というのも学生ではイメージしづらいことのようで、その点についても本書では詳しく解説されています。
調査のやり方、その計画、統計的手法なども細々と示されていますが、そんなことも教えなきゃいけないのかと思わないでもないですが。
調査を企画する場合、パイロット調査やリハーサルも欠かせないということです。
これも慣れない人の場合はおろそかにしがちで、いきなり本調査で失敗ということもあるようです。
調査の失敗としては、1必要なデータが集まらない。2データが集まりすぎる。3集まったデータが使い物にならない。というものがあります。
これらを予測し適切な方法を取るためにもパイロット調査を行う必要があるということです。
文系の研究室ではゼミというものが付き物です。
ゼミとはドイツ語のゼミナールの略で、英語ならセミナーということですが、研究室で自分の研究成果を発表し討議する場ということです。
理系の研究室では研究発表会といったものは行いますのでそれと同じようなものでしょうか。
まあ研究室としてはそれが当たり前のように思いますが、文系の人にとっては取っつきにくいものなのかもしれません。
これも準備の仕方から実施方法まで詳しく解説されています。
発表を聞いて皆でコメントを言い合うのですが、その方法も示されています。
「価値の低いコメント」もあるようで、・不勉強に基づくコメント・誤解に基づくコメント・思慮不足のコメント・評論家然としたコメントなどはたとえ先輩から貰ったものであっても気にする必要はないというアドバイスです。
私自身は理系といっても大学院には進学せず就職したため、こういった研究室の雰囲気というものは会社の研究所に勤務していた時に経験しただけです。
しかし文系の研究者という存在がほとんど近くになかったため、想像するしかありません。
まあ、大変だろうなとは思います。