伝統的経済学では、ホモエコノミカス(合理的経済人)という存在を前提に経済学を構築してきました。
合理的経済人は、利己的で高い計算能力を持ち、すべての情報に通じて合理的意思決定を行うというものです。
しかし、どうも現実の人間はそういった行動を取ることはなく、極めて不合理なことばかりしているということが分かってきました。
そして、1980年代ごろからそのようなできるだけ実際の人間の行動を考えていうという、行動経済学というものが発展してきました。
そのため、一見したところ心理学や動物行動学のように見える経済学解説が出てくるようになったわけです。
これまでに多くの成果をあげてきた行動経済学ですが、もはや理論だけではなく実際に使う段階に来ています。
著者が感じていたのは、医療分野で患者に治療方針を選択させるといった場合には、この方式が非常に役に立つのではないかということでした。
他にも、公共政策の選択にも有効な場合が多いようです。
「ナッジ」という概念が解説されています。
ナッジとは、英語で「軽く肘でつつく」という動作を表します。
政策や医療行為など、強制的にさせるのではなく対象者の意志で選択させるといった場合には、その提示の仕方で結果が大きく異なるということになります。
提示する側としては「できればこうしてもらいたい」という方向があるのですが、そこに強制するというわけには行きません。
そこでどうするかというのが「ナッジ」であり、行動経済学で結果の出ている「選ばれやすい方法」で推奨する方向に向けるということです。
例えば、最近の激化する気象災害発生にあたり、危険なところから避難させるという事態が頻発していますが、避難勧告や避難指示といったものを出してもほとんどそれに従う人は増えず被害にあうということが起きます。
この場合に、できるだけ避難をしてもらうように促すのが「ナッジ」であり、そのために「現在バイアス」や「先伸ばし」といった行動経済学の理論が応用できるということです。
避難しようとしない人に向けたメッセージで効果があったのが、「避難をしないなら身体にマジックで住所氏名を書いておいてください」だったそうです。
社会的選好、つまり人々が自由意思で選んでいると感じるものでも何らかの圧力がかかりそれに沿って選好されるということがあります。
女性の社会進出が大きく進んでいますが、まだ男女格差は大きく特に企業などで女性管理職が少ないということが言われています。
制度的な問題も大きいのは事実でしょうが、女性は競争を避ける傾向があるからとか、昇進争いというリスクを避けるからといった、行動経済学的な仮説も出されています。
この仮説によれば「男性の方が女性よりも競争に参加することが好きだ」とか、「競争に参加するというリスクに賭ける性癖がある」といったことが言われます。
しかし、この「男は競争が好きだ」ということ自体、社会それぞれの教育や文化によって形成されてきた疑いがあります。
現在の欧米や日本での研究では、確かに男性の方が競争を好み、自信過剰であるという結果が出ています。
しかし、アフリカのカシ族という母系社会の集団で同じような検討を行ったところ、女性の方が男性より競争を好むという結果になったそうです。
また、イギリスでも女子校と共学校の女生徒を比較して検討したところ、女子校の生徒は競争的なものを好むという結果が出ました。
どうやら、今の「女性的性向」というのはやはり文化的に作られたものであるようです。
どうやら、行動経済学というものはやはりかなり大きな利用対象を持っているようです。