はじめに
「今夜は NGC*** を1時間露光しましょうね。」
と決めたとき、では 1フレームあたりの露光時間をどれくらいにするか? という問題が出てきます。
1分 × 60枚、2分 × 30枚、3分 × 20枚、……、60分 × 1枚。
いろんなパターンがあるわけですが、これは天体写真愛好家の間ではすでに手垢のついた古典的問題で、これまでに実にさまざまな議論が交わされてきました。
10数年前、主にデジカメで天体写真を撮っていた頃は、ISO の設定問題も重なって議論はかなり混沌としていました。カメラの画像処理エンジンがブラックボックスだったことも理由です。
しかし天体専用 CMOS カメラが普及してからは、メーカーが Read noise や GAIN のデータを公表し始め、状況は一気にクリアに。さらに Sam さんのブログ記事や、あぷらなーと氏の一連の分析のおかげで議論は収束し、現在では
「まあ、だいたい結論は出たよね」
という雰囲気になっています(と思う)。
その“結論”はどんなものかと申しますと、
- 夜空の明るさ
- 光学系の性能
- 架台の追尾精度
によって 最適な1フレームあたり露光時間は異なるので、各自がんばって最適を探してね、です。それでは困る? ならまあ、短くて1分、長くて6分くらいでいいんじゃね?
というところに落ち着いています。
ちなみに顧問はというと、2〜3分露光で撮っていますが、これはなんとなくで根拠はありませんでした。
今回は色々考えていたときにふと思い立ち、これまでの自分の撮影データから“適切な1フレームあたりの露光時間”を探ってみることにしました。
検証の方法
ポイントは、撮影した1枚のライトフレームから、ひとつのピクセルに入射した単位時間あたりの電子の数を算出することです。その値から、任意の露光時間のデータについて背景(スカイ)のショットノイズを推定できます。つまり、わざわざ1分60枚、2分30枚・・・と撮影をしなくても、任意の露光時間設定についてノイズの大きさを計算できるわけです。
さらに天体 CMOS を扱うサイトに掲載されているダークノイズ・リードノイズのグラフから、スタック後の画像の全ノイズに対してダークノイズとリードノイズがどれだけの割合を占めるかを計算します。
これらをもとに、総露光時間を 1 時間に固定し、1フレームの露光時間を変化させたときに、スタック後のマスター画像のノイズ比がどう変わるかをグラフ化しました。
計算方法は Sam さんのブログに詳しいので、ここでは省略します。興味がある方はそちらをご覧ください。
結果
1.自宅庭と神割崎(主な遠征先)での撮影で比較

この結果からわかるのは次の3つです:
- 単秒多数枚では、リードノイズの寄与が大きくなり、ノイズ比は増加(=スタック後のノイズは増える)
- 1フレームの200秒程度でノイズ比は十分下がり、スカイショットノイズが支配的になる
- 自宅庭は空が明るいためノイズ比は小さく、1フレームの露光時間は短くしてもよい*1。
2.チリリモート、通常のLフィルターとナローバンドフィルター使用時の比較
撮影カメラはASI294MM、センサー温度は0℃冷却*2。F5.6 の光学系で総露光 60分を仮定。L は gain120、Hα は gain200。他条件は同じ。

おわりに
この記事では、顧問の撮影環境に基づく結果を示しました。最初のグラフに登場した神割崎・自宅の条件は比較的一般的だと思われ、多くの人にとって 3〜6分程度の露光時間が適切 ではないでしょうか。
もちろん、露光をさらに長くすればノイズ比は下がります。しかしその分、
- 風による追尾エラー
- 人工衛星の写り込み
などのリスクが増えます。こうした“評価しにくい要素”が絡むところが、この問題の難しさでもあります。
のこった課題は、今回のデータに撮影対象の淡さをどう反映させるかです。天体信号の強さを元に SN 比をプロットすれば可能で、特に分子雲のような淡い対象で算出できれば面白そうです。どういう手順で行うのがいいか、現在検討中です。