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星像のサイズを計算してみよう! SJH-75UFを例に深掘りする分解能の話

この記事の概要

この記事では、星像の大きさを決める三つの要素——スポットダイアグラム、エアリーディスク、シーイング——を整理して、それらを合成した最終的な星像のサイズを見積もる方法についてまとめました。

この方法を用いると、口径の異なる光学系を分解能(秒角)を指標として同列で比較できます。そこで、今月(2026年2月)に発売予定の「SJH-75UF」を例にして、他の高性能光学系との比較を交えて議論します。(とくに批判的な意図はございません。結論を先に申せば「スポットダイアグラム、小さければ小さいほどイイよね」っていう話です)

はじめに

今回の記事の執筆は、次のニュースがきっかけでした:

国産鏡筒「SJH-75UF」を発売します | 株式会社サイトロンジャパン

残念ながら顧問としてはとても手が出ない価格帯なのですが、サイトロンジャパンからの新鏡筒SJH-75UFは、フルサイズの全面にわたってスポットダイアグラムの直径が回折限界を下回る、という恐るべき性能で設計されています。現時点で、同クラスの世界最高レベルの光学系でしょう。これが、最近海外に押され気味の国内メーカーから販売されるとは胸が熱くなる話です。

しかし同時に、自分を含めて

「スポットダイアグラムが回折限界を下回るってどういうこと?実際の星像はどうなるの?」

と疑問に思っている方もおられるのではないでしょうか。この記事ではこの疑問について考えていきます。

星像の大きさを決める3つの要素

準備として、スポットダイアグラム、エアリーディスク、シーイングの影響について確認しておきます。ご存じの方は読み飛ばしてください。

スポットダイアグラム(幾何光学的な要素)

ここ数年、「超」が付くほどの高性能な屈折鏡筒が相次いで販売され話題になっています。国内ではVixenのVDS90ssや今回のSJH-75UF、海外ではAskarのSQAやWilliamOpticsのULTRA-CATなどのシリーズです。それら光学系の性能を判断するのに引き合いに出されるのが「スポットダイアグラム」です。

ASKAR FRA300Proのスポットダイアグラム(シュミットサイトより引用)

スポットダイアグラムは、望遠鏡の対物レンズに入射した平行光が、センサー上のどの位置に入射するかを各色ごとにプロットしています。マス目に表示された点の集まりはレンズの形状と屈折率から決まり、小さくまとまっているほど星はシャープに写り分解能も高いことを意味します。図の下段に書き込まれている二つの半径の値はそれぞれ次のような意味です

  • RMS(Root Mean Square) Radius それぞれの点の中心から距離を2乗してから平均し平方根をとった値
  • GEO(Geometry?) Radius 一番外側の点の半径

一番外側はほとんど光が到達しないので星像を評価するのにGEO Radiusが使われることはあほとんどりません。以降はRMS Radiusを参照しますので、これをRsと書きます。

エアリーディスク(波動光学的な要素)

光の波としての効果は、開口端での回折として生じます。それによる像のボヤケをあらわすのが、波動光学的なエアリーディスクです。その広がりの半径をRaとすると、それは光の波長λと光学系のF値を用いて

 R_a=2.44\lambda F

と表されます。この大きさは、原理的に実現可能なもっとも小さい星像を表すためレイリー限界と呼ばれています。

シーイングディスク(大気による乱れの要素)

大気のゆらぎによって星像はさらに大きくボケます。そのボケの大きさを表すのがシーイングディスクです。これを R_{seeing}と表します。これは波動光学的に導出されるので、大気が全く揺らいでいない理想的な状態では、シーイングディスクはエアリーディスクに一致します。

 R_{seeing}の大きさを具体的に見積もる方法については、次の過去記事をご覧ください

 

実際の星像は、これらのボケを全て合成した結果になります。その大きさはどのように表されるのでしょうか?

3つのボケを合成して、実際の星像径を見積もる

もう一度まとめますと、最終的にセンサー上に投影される星像の大きさは、三つの要素を合成した結果です

  • 幾何光学的なスポットダイアグラム  ~R_s
  • 波動光学的なエアリーディスク ~R_a
  • 大気の揺らぎによるシーイングディスク ~R_{seeing}

もし大気の揺らぎが全くない理想的な状態なら、合成後の星像の大きさは

 R = \sqrt{{R_a}^2 + {R_s}^2}~~~~(1)

と計算することが出来ます(二つの要素の重ね合わせが二乗和の平方根になるのがポイントです。その理由は記事の末尾に付録として説明しました。興味があればご覧ください)

大気のシーイングを加味した場合、星像の大きさは次のようになります:

 R = \sqrt{{R_{seeing}}^2 + {R_s}^2}~~~~~~(1')

もしシーイングが非常に悪い場合( R_{seeing}\gg R_s)は R\simeq R_{seeing}となり、星像の大きさは望遠鏡の性能に関係なくシーイングディスクだけで決まることになります。

以上の計算を簡単に行うことが出来るページを星沼会のサイトに公開しています。ご自分の光学系に適したカメラを選定するときなどに役に立つと思います。

最近の高性能屈折鏡筒の比較

では、上の計算結果をもとにして、SJH-75UFと同クラスの屈折鏡筒の性能を見積もってみたいと思います。メーカーからRMS半径が公表されている同クラスの鏡筒としてULTRACAT76、ひと回り大きいSQA106を比較対象にピックアップしました。日本での標準的なシーイングを仮定して、光の波長は525nmとして計算しています。

日本での標準的なシーイング(フリード長=5cm)の場合で計算

まず、ほぼ同じ焦点距離と口径をもつULTRACAT76とSJH-75UFを比較してみます。これはスポットダイアグラムの違いがそのまま結果に表れていて、SJH-75UFはセンサー上での星像は0.74μm小さく、また分解能は0.5秒角上回っています。しかしながら、両者の価格が2倍強開いていることを考えると、どちらが「コスパ」で優れているのかは微妙なところです。

そのあたりのモヤモヤは、一回り口径が大きいASKARのSQA106と比較してみると晴れるかもしれません。星像の大きさは、焦点距離が長いほど大きくなるので比較になりませんが、両者の分解能はほぼ同じ計算結果でした。つまりいわゆる「口径の暴力」がスポットダイアグラムの小ささで埋められているわけです。

SQA106も口径10cmクラスでは言わずと知れた最高峰の光学系ですので、この結果は驚くべきことではないでしょうか。分解能が同じなら望遠鏡は小さい方が良いです。SJH-75UFはSQA106に比べて半分近く軽くて小さいので、温度順応は早く、同じ赤道儀に乗せた時の追尾精度も高くなるでしょう。それらを考慮すれば、両者の値段の差(SJH-75UFの方がお高い)は埋まっていると言えるのではと思いました。

終わりに

長い記事になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

実は記事を書く前は「レイリー限界より小さいスポットダイアグラムなんて、意味ないんじゃないの?」という先入観がありました。どうもスミマセン。ちゃんと考えて調べ計算してみたらそうではありませんでした。

いうまでもなく望遠鏡の性能を語る上では、周辺減光や迷光の生じにくさ、星ワレの有無、筒の剛性、フォーカス部の精密さなども重要になります。この記事では分解能だけに着目して議論していますので、その辺りはご注意ください。

また、もう一つ重要なのは組み合わせるカメラのピクセルピッチです。たとえばASI2600MCだとこれは3.76μmで、上でピックアップした屈折鏡筒と一緒に利用する場合はややアンダーサンプリング(=ピクセルピッチが大きすぎる)なところです。これについては、もっとピッチの小さいカメラが望まれるところですが、それはそれでノイズが大きくなるので難しい。。。その辺りは、Drizzle&BXTで幸せになれるのかもしれません。(おわり)

付録:「ボケの合成則」の導出

畳み込み積分

スポットダイアグラムのボケの分布を f_s(x)、とエアリーディスクのボケの分布を f_a(x)とします。この二つのボケの合成は、次の積分で表されます

 f(x) = \displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}f_a(y)f_s(y-x)dy

これは畳み込み積分と呼ばれています。

ボケの合成がこのような積分で表される理由を直観的に考えて見ます。光子が無限遠から飛んできて望遠鏡のレンズで曲げられ、カメラセンサーのある点に到達したとします。理想的には中心に到達すべきところを、光学系のボケによって中心からxだけズレたとしましょう。いま、このズレが二つの要因で発生しているとしていました。ひとつは幾何光学的なズレx_s、もう一つは波動光学的なズレx_aです。このとき単純に

x=x_s+x_a

という足し算が成立していなければなりません。ボケの分布 f_s(x) f_a(x)は、光子が中心からxズレる確率を表していると解釈できるので、二つのズレx_sx_aが発生する同時確率は両者の積になります。

f_s(x_s)f_a(x_a)

これをひとつ前の式を使って

 f_s(x-x_a)f_a(x_a)

と変形しておきましょう。ところで、最終的に中心からxズレたという前提なので、途中の位置であるx_aはどんな値でも構いません。つまりxズレる確率は上の式をx_aについて積分したものになります

\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty} f_s(x-x_a)f_a(x_a) dx_a

以上で、畳み込み積分が現れる理由が理解できました。

ボケが正規分布である場合は、合成側が簡単になる

畳み込み積分を計算すれば、合成後のボケの大きさが分かります。しかし、ボケの形によってはその計算は簡単ではありません。特別な場合として、ボケが正規分布表されている場合は、簡単な合成の規則を得ることができます。

そのとき畳み込み積分は、

 f(x) = \displaystyle\int_{-\infty}^{\infty} e^{-y^2/{R_a}^2}e^{-(y-x)^2/{R_s}^2}dy

と表されますが、この指数の肩をxについて平方完成したりしながらゴニョゴニョ計算していくと

 f(x) = \displaystyle e^{-x^2/({R_a}^2+{R_s}^2)} \int_{-\infty}^{\infty} (\cdots)dy

のような形に変形出来て、確かに半径^2が{R_a}^2 + {R_s}^2正規分布が出てきます。つまり(1)式はボケが正規分布で表されるときに限って正しい式になっています。

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