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意外にも発散する級数について

今日はじゃぱねっとアドカレ2025の記事として、数学の小話を投稿します。たまに妻と布団の中で数学小話をすることがあり、今日の記事もその一つです。

級数について

級数とは、数列の和のことです。高校数学で扱う有名な級数として、等比級数があります。これは等比数列の和にあたります。例えば初項 1 公比 \frac{1}{2} の等比級数

\displaystyle\sum_{n = 0}^{\infty} \dfrac{1}{2^{n}}
= 1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{4} + \dfrac{1}{8} + \cdots
と表されます。この等比級数は収束し、\frac{1}{1 - \frac{1}{2}} = 2 になります。

級数には収束しないものもあります。例えばずっと 1 を足していく級数

\displaystyle\sum_{n = 0}^{\infty} 1 = 1 + 1 + 1 + \cdots
を考えると明らかにこれはいくらでも大きくなります。これは正の無限大に発散します。

収束しそうで発散する級数

1 をずっと足す級数が発散するのは当たり前です。なぜなら、同じ数字を足し続けたら、いくらでも大きくなるに決まっているからです。収束してほしいなら、足す数はどんどん小さくする必要があります。

じゃあ小さくし続ければ収束するのか?というと、実はそうではありません。自然数の逆数、つまり 1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3}, \dots と足す級数

\displaystyle \sum_{n = 1}^{\infty} \dfrac{1}{n}
を考えると、これは実は発散します。この級数は重要なので「調和級数」という名前がついています。

妻曰く「高校の授業でこれが発散するというのは習った気がするけども、いまいち腑に落ちていない」とのことでした。なぜ発散するのでしょうか?

自然数の逆数の和はよくわからないので、ざっくり積分で置き換えてみましょう。和も積分もざっくり見れば足し算なので、似たようなものだからです。

\displaystyle\sum_{n = 1}^{\infty} \dfrac{1}{n} \approx \int_{1}^{\infty} \dfrac{dx}{x}
この積分が発散することを確認します。積分範囲を 1 から R としたものをまず計算してみます。
\displaystyle\int_{1}^{R} \dfrac{dx}{x} = \left[ \log x \right]_{1}^{R} = \log R
その後、R \to \infty の極限を取ると、発散します。
\displaystyle\lim_{R \to \infty} \log R = \infty
つまり調和級数は発散します*1。つまり調和級数\log ぐらいのスピードで発散する、というわけです。

もっと収束しそうで発散する級数

実はもっと収束しそうなのに発散する級数があります。自然数よりももっと早く大きくなる列として、素数の列を取ってみます。素数は小さい順に並べると 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, \dots となりますが、これを順に p_{1}, p_{2}, p_{3}, \dots と名付けます。これを使って、素数の逆数の和

\displaystyle\sum_{n = 1}^{\infty} \dfrac{1}{p_{n}}
を考えてみます。実はこれも発散することが知られています。

素数が無限個存在することの証明

ここで妻から「素数が無限個あることって証明されてるの?」と質問がありました。そもそも有限個しかないなら、和は有限回しか行われないので、発散するわけもないわけですから。せっかくなので、素数が無限個あることを証明してみましょう。

背理法により示します。もし素数が有限個だったとして、それを p_{1}, p_{2}, \dots, p_{N} とします。これらを用いて

M = p_{1} \times p_{2} \times \cdots \times p_{N} + 1
という自然数 M を考えると、M はどのような素数でも割り切れないことが分かります。つまり Mp_{1}, p_{2}, \dots, p_{N} とは異なる素数であるか、または M を割り切る p_{1}, p_{2}, \dots, p_{N} とは異なる素数が存在することが分かります。これは素数が有限個しかないとした仮定に矛盾します。したがって素数は無限個存在します。

素数の逆数和が発散することの証明

では最後に、素数の逆数和が発散することを証明します。この証明については妻には話していなかった (というより、その時点で自分が証明を覚えていなかった) ので、新情報になります。本格的な証明になるので、少々長くなることをご了承ください。

背理法により示します。素数の逆数の和が収束すると仮定して、その和を \alpha とします。

\displaystyle\alpha = \sum_{n = 1}^{\infty} \dfrac{1}{p_{n}}

\displaystyle\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n} が発散するので、十分大きな自然数 M を取れば

\displaystyle\sum_{n = 1}^{M} \dfrac{1}{n} > e^{2\alpha}
が成り立ちます。M 以下の素数p_{1}, p_{2}, \dots, p_{N} とします。M 以下の自然数をすべて素因数分解し、各 p_{n} が最大で何乗で出てくるか調べます。この最大値のうちもっとも大きいものを K とします。

例えば M = 8 の場合は N = 4 (素数2, 3, 5, 7) です。さらに 8 以下のすべての自然数素因数分解すると

\begin{aligned}
2 &= 2, \\
3 &= 3, \\
4 &= 2^{2}, \\
5 &= 5, \\
6 &= 2 \times 3, \\
7 &= 7, \\
8 &= 2^{3}
\end{aligned}
となることから、K = 3 となります。

突然ですが、以下の量を考えます。\prod\sum の掛け算バージョンです。

\begin{aligned}
&\hphantom{{}={}}\prod_{n = 1}^{N} \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} \\
&= \left( 1 + \dfrac{1}{p_{1}} + \dfrac{1}{p_{1}^{2}} + \dots + \dfrac{1}{p_{1}^{K}} \right) \\
&\hphantom{{}={}} \times
\left( 1 + \dfrac{1}{p_{2}} + \dfrac{1}{p_{2}^{2}} + \dots + \dfrac{1}{p_{2}^{K}} \right) \\
&\hphantom{{}={}} \times \cdots \\
&\hphantom{{}={}} \times
\left( 1 + \dfrac{1}{p_{N}} + \dfrac{1}{p_{N}^{2}} + \dots + \dfrac{1}{p_{N}^{K}} \right)
\end{aligned}
右辺を頑張って展開してみると、いずれの項も \frac{1}{p_{1}^{e_{1}} p_{2}^{e_{2}} \cdots p_{N}^{e_{N}}} の形をしていることが分かります。この分母はそれぞれ異なる値になっており、各 e_{n}0 から K のすべての値を取ります。よって K の取り方から、右辺の項には必ず 1, \frac{1}{2}, \dots, \frac{1}{M} が含まれていることが分かります。よってそれ以外の項をすべて無視すれば値は小さくなるので
\displaystyle\prod_{n = 1}^{N} \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} > \sum_{n = 1}^{M} \frac{1}{n} > e^{2 \alpha} \qquad \cdots \bigstar
が成立します。

一方で、等比級数の公式を用いれば

\displaystyle\sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}}
< \sum_{k = 0}^{\infty} \dfrac{1}{p_{n}^{k}}
= \dfrac{1}{1 - \frac{1}{p_{n}}} = \dfrac{p_{n}}{p_{n} - 1} = 1 + \frac{1}{p_{n} - 1}
が成り立ちます。辺々の自然対数を取れば
\displaystyle\log \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}}  < \log\left( 1 + \frac{1}{p_{n} - 1} \right) < \dfrac{1}{p_{n} - 1}
が得られます。ここで x \neq 0 に対して \log(1 + x) < x となることを用いました。さらに p_{n} \geqq 2 なので
\displaystyle\dfrac{1}{p_{n} - 1} = \dfrac{1}{p_{n}} \cdot \dfrac{1}{1 - \frac{1}{p_{n}}} \leqq \dfrac{1}{p_{n}} \cdot \dfrac{1}{1 - \frac{1}{2}} = \dfrac{2}{p_{n}}
が成り立ちます。以上から
\displaystyle\log \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} < \dfrac{2}{p_{n}}
が得られました。したがって
\begin{aligned}
&\hphantom{{}={}}\log \prod_{n = 1}^{N} \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} \\
&= \sum_{n = 1}^{N} \log \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} \\
&\leqq \sum_{n = 1}^{N} \dfrac{2}{p_{n}} \\
&< \sum_{n = 1}^{\infty} \dfrac{2}{p_{n}} = 2 \alpha
\end{aligned}
が成り立ちます。これより
\displaystyle\prod_{n = 1}^{N} \sum_{k = 0}^{K} \dfrac{1}{p_{n}^{k}} < e^{2 \alpha}
が得られますが、これは \bigstar と矛盾します。

以上から、背理法の仮定が誤りとわかったので、素数の逆数和が発散することが示されました。

*1:ちなみに、この議論を厳密化するには、\frac{1}{x} が単調減少であることから以下の不等式を導き、n について和をとればOKです。詳細は読者の演習問題とします。

\displaystyle\dfrac{1}{n} \geqq \int_{n}^{n + 1} \dfrac{dx}{x}




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