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宮野優『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』感想

宮野優『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』感想

とても面白かった。「永遠の「今日」を繰り返す」というループする同一世界を舞台にした五話の物語。
特に第一話と五話が対になりもしていわゆる連作短編集としてひとまとまりの味わいも持ちつつ、全体および各話それぞれがあるいは「ループもの」というジャンルの様々なバリエーション(例えばケン・グリムウッド『リプレイ』、北村薫『ターン』)を作者なりに翻案するようでもあり。
「ループ」した世界をある種の閉鎖環境と捉えそのジャンルの名作をやはり翻案するようでもある(例えばウィリアム・ゴールディング『蠅の王』と第二話「ナイト・ウォッチ」、夢野久作「瓶詰地獄」と第五話「プリズナーズ」)。
以下、ここまで書いた話について、それぞれ少し。

 

ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』と第二話「ナイト・ウォッチ

世界がある1日を繰り返すループに閉ざされることで、通常の法や倫理が相当程度に破綻し、限られた時間の中で自ずから行動範囲にも制限があり……元々学校という閉ざされた世界が生活の多くを占めていた高校生たちはそんな世界になったからこそ通っていた学校に集い、固まって、狭い社会を構成したりする……その在り方は大戦争の最中の疎開中に孤島に不時着し子どもたちだけの生活を送ることになった『蠅の王』の世界にも少し、似ている。

ただ、完全に孤立しているのではないといったことに加え、『蝿の王』の状況とは何かが/誰かが異なるのかもしれず、そこが大きな違いになるのかもしれず……実はそうなっている。
その誰かがこだわり、自身の在り方として守るべきと考え、そして守り抜く。その価値を問う物語でもあるかと思うし、その誰かの価値に他の誰かが気づく物語でもある。
ちなみにその「誰か」に関する仕掛けは最近読んだ白井智之の某ミステリ小説とも重なるものがあったりもして、少し面白くもあった。一応念の為書くとそういう状況を扱うならそれはそうして重なることもあるだろう……という話なので、別にそこはそれ以上でも以下でもないけれど。


また「ナイト・ウォッチ」はそのまま夜警という意味だけれど、同時に『氷と炎の物語』及びそのドラマ版『ゲーム・オブ・スローンズ』のナイツ・ウォッチも連想されたりもする。

壊れ狂った世界において、その世界からあるいは厄介者としてあるいは罪人や逃亡者、異端者として弾き出されつつ……にも関わらず世界の秩序と倫理を文字通り命を懸けて守り抜く戦士たち。その象徴にして頭目たるジョン・スノウ。

 

夢野久作「瓶詰地獄」と第五話「プリズナーズ

青空文庫「瓶詰地獄」(青空文庫なので無料で全文読むことができる)

(作中ではっきり題名を出して触れられている通りシオドア・スタージョン「孤独の円盤」との関連にこそまず触れるべきなのかもしれないけれど、まあ……)。


「瓶詰地獄」が「文語訳の「新約聖書(バイブル)」を「精神の骨肉と化していた」太郎の「脳髄の地獄」(ここらへんの解釈は北村薫『ミステリは万華鏡』第三章「『瓶詰地獄』とその《対策》、そして」を参照して貰えると話が早い。ここでは割愛する)であったように。

醜形恐怖に囚われ本の世界、活字の海に耽溺し閉じこもることを選んだ視点人物にとって、ループによって世界は変貌してもいずれにせよ世界とはまず自身の「脳髄の地獄」なのかもしれないと思う。

そしてそういう人間だからこそ「脳髄の地獄」……自分自身の閉じた精神の苦しみ「ではない」、それと対照的な他者の「身体の傷」「痛み」「ただ痛みの信号を発し続けるだけの肉体という牢獄」にある種のコンプレックスも重ねつつ、関わり続けずにはいられない。その上でその関わりから生じる罪悪感(まさに「瓶詰地獄」に通じる)を自身の「脳髄の地獄」に加え、苦しむことにもなる。

 

ところで石川啄木の「人といふ 人のこころに 一人づつ 囚人がゐて うめくかなしさ」も主として「脳髄の地獄」を想定したものかと思われる所、ここで提示される「ただ痛みの信号を発し続けるだけの肉体という牢獄」はそれと対置することもある意味では重ねることも出来るのかもしれない

 

 

あと、これは余談だけれど。

夢野久作「瓶詰地獄」は最近他にも小田雅久仁「越境者」(『小説現代2024年1・2月合併号』掲載)でも作品と重なる存在として提示されていたりもした。

そちらではある人物……人の心が本人が望む望まざるに関わらず覗け、読めてしまい。黒い煙となって何にも阻まれず誰にも知られずどこにでも入り込み忍び込めてしまう存在にとっては世界全体が自己とのあるべき境目のないものとなってしまっており、それはある種、世界全体が己の「脳髄の地獄」となってしまっているともいえる……という話なのかなとぼんやり思った(いつものことながら、とんでもない読み違いかもしれないけど)。

ともあれなんというかみんな(?)夢野久作大好きだし、特に「瓶詰地獄」は愛されているなあ、と思えたりもする。

アイデンティティーの問題、倫理の問題……冒頭に「瓶詰地獄」を収録した『日本探偵小説全集<4>夢野久作集』は他の収録作や全体の構成諸々含めてあるいは『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』の良い副読本……とまでは言いすぎかもしれないにしても、作品が提示する諸問題?について考えるなり思いを馳せるなりする上で併せ読むとなかなかに面白い一冊かもしれないとも思う。

 

北村薫『ターン』と第三話「ブレスレス」

北村薫『ターン』も『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』と同じくやはり"同じ一日を繰り返す"ループもので。

『ターン』においてそのループ(「くるりん」)は作中において確かに発生している現象であると共に、同時に作品全体が明確に人が普遍的に感じる、日々の生活のひいては人生の無為、虚無、徒労感といったもの……文庫版の作者による「付記」にいう「時の《魔》」の暗喩であって。それから抜け出るために必要な意思や繋がり、また、虚無に囚われそうな中でも守るべき倫理について、そしてそれを踏みにじってしまうような存在の罪とそれへのかくあるべき、あって欲しい罰について描かれた物語。
そういった在り方全体が『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』全体と色々と重なるものでありつつ、中でも特に第三話「ブレスレス」とよく重なるものでもあるかと思う。

そんなこともあり「ブレスレス」は収録された五つの物語の中でも特に好感を持った一篇だった。


ところであまり格闘技に詳しくないのでこういうのもなんなのだけれど。

なんかいろんな前提ふっ飛ばしてジョルジュ・サンピエールVSエメリヤーエンコ・ヒョードルという一戦が観られるものならそりゃあ観てみたかったなとは思う。

 

 

■宮野優『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』と森バジル『ノウイットオール あなただけが知っている』

なるほど、確かに共通点は多いのかもしれないなと思った。

ついでに。




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