自転車を中心に、主人公「僕」とその一族の100年に渡る物語。
そこから派生する寓話のようなエピソードたち。
壮大で不思議なお話しがてんこもりで、しかし歴史背景の土台はしっかりしている。大作です!
父とともに失踪した「幸福」印自転車(台湾の自転車ブランド)をひょんなことから見つける。20年に渡る自転車の歴史を辿れないか。
というのが大筋ですが。
しかしまあ、自転車の現オーナーが見つからない。芋蔓に人と出会い、自転車にまつわる(まつわらない?)人生の物語を聞く。
不思議な連なりが続く。
最初に会うのは、レトロ自転車を展示していた元カフェオーナーの写真家。彼が出会った自転車と兵役の話し。
山奥の村で出会った老人と廃屋の地下の水溜まりに潜るエピソードはエリアーデ『ムントゥリャサ通りで』を連想しますね。
写真家からは銀輪部隊(第二次世界大戦で日本軍が編成した自転車部隊)にいた父親の話しに繋がります。
写真家の元カノの友人からは、蝶にまつわる小説が送られてくる。なんで?
戦前台湾の輸出品として蝶は外貨を稼いでいたらしい。
本筋と関係ない小ネタなんですが。アメリカでダイレクトメールの小窓に蝶をいれると開封率が上がったらしく、キレイな蝶の大量輸出先となったと。ヤギの睾丸を移植する医者の時代だ。
現在の「幸福」自転車オーナーからは動物園で自転車を譲ってくれた謎のおじいちゃんムー隊長、そしてムーさんの恋人静子さんへ。静子さんからは戦時中の動物園の話しを聞く。毎章ごとに、話しが核心に迫っているのか、遠ざかっていくのかわからない笑
でもどのエピソードもおもしろい。
と思ったら、動物園にいたゾウさん、銀輪部隊にいたアッバス(写真家)の父ちゃんが出会った兵站ゾウ部隊のゾウさんじゃない?
ムーさん、中国軍側でゾウさんゲットした人?
ムーさんが海辺で出会ったの、主人公の父ちゃん?
あれ?繋がった?そうでもない?よくわからん…!
となるけど、大事なのはプロット解明ではないのだ(とはいえ読めば大体わかる構成になっています)。
それぞれの人生にそれぞれの自転車と物語がある。すこし不思議(SF)もある。めちゃ良い小説。
あと台湾の文化を知るのも楽しい。
台湾文化に触れるなら、東山彰良『流』も超絶おすすめです。
補足ですが、
自転車に関しては、注釈も少なめなので(訳者のスタンスらしい)、ちょっとわかりにくいところもある。
「鉄馬(ティーべ)」は台湾語で「自転車」。ちなみに香港ではバイクのことになる。
戦前の自転車は今で言う高級車レベルで、庶民の高嶺の花。
1930年代に日本から輸入された「富士覇王号」(FUJIのロゴがつく)が有名。
主人公が探している「幸福」号は、1954年から台湾国内で生産された自転車ブランド。城中幸福自転車。
「尚武車」は自転車のタイプ。商用で使われるゴツいやつ。対するのは「礼文車」。女性でも乗れるシティサイクルタイプのこと。
名詞と固有名詞がわからなくてちょっと混乱した。
歴史年表的なメモ。
1895年下関条約で台湾は日本へ割譲。1945年終戦で中国が接収。その後が中国国内の国共内戦(国民党と共産党の戦い)。
補足の補足ですが、この訳者さん、ご当地料理については丁寧な注釈をつけてくれます(そういうスタンスらしい)。
豚とろみ汁(赤肉羹)とかサバヒー(白身魚で台湾南部でよく食べられる)とか。おいしそう!台湾行きたい。