まだ江戸の空気を纏う祖父母に育てられ、自身は小学校卒業後すぐに小僧奉公、チップを稼いで戦前の銀座などでグルメや観劇の素養を積む。
なかなか真似できない前半生が、鬼平犯科帳など江戸小説の風景に繋がっているわけです。
10代の頃から気後れゼロで老舗に出入りしていれば、散歩ついで初見の名店にも入れる豪快健啖おじさんになるわけである。うらやましい…!
で、この切絵図散歩です。
池波御大が亡くなる前年(1989年)の一冊。
御大がお持ちの江戸切絵図(当時でもすでに高価だったらしい)の図版と、それを片手に東京中を歩き巡った思い出とが綴られています。
さらに、子供の頃の思い出と、現在(と言ってもギリギリ昭和)の東京も行き来する。ノスタルジックな気分になりますね。
切絵図がカラーで収録されているのもありがたいのですが、池波少年が描いた都内の風景画や、昭和前期中期の風景写真がめっちゃ大量に収録されています。
著者撮影の写真も結構ある。
作者が楽しみながらつくった本なんだろうな、と伝わってきて、ほっこり。
雑学もたんまり入っていて、日本橋の南鞘町は刀剣の鞘師が多く住んでいたからとか。目黒の語源は「馬畔(めぐろ)」、牧場の中の細道の意、とか。(目黒から世田谷にかけては馬や牧場にまつわる地名が多いらしい)
御殿山のあたりにあった遊女屋「土蔵相模(どぞうさがみ)」は高杉晋作らも来ていたそうですが、昭和初期には「さがみホテル」という旅館に。そして執筆時の昭和後期にはスーパーマーケット。
現在だとマンションかな?と思ってストリートビューを見たら、土蔵相模跡地の立て看板が立っています。歴史って地続きだなあ。
池波正太郎の文章って、杉浦日向子先生とはちょっと違う、江戸の空気を感じます。おもしろいですね。
文庫(しかも安い!)なので、片手に持って東京散歩をすると良い一冊です。