『中世ヨーロッパ: ファクトとフィクション』
ウィンストン・ブラック/監訳:大貫 俊夫
「中世のイメージって何?」
と聞かれたら、どう答えます?
私は
「暗黒時代で、魔女裁判があって、風呂がなくてペストが流行っていて、何がなんでもタイムスリップしたくない時代」
です!
で、
そう言い切るのは間違い!というのが本書。
出典はこれだ!と一次資料の補足までしてくれます。
骨太〜。
「あちこちで魔女裁判&火炙り」とか「1212年こども十字軍を派遣」とか、「それはフィクション!」と一刀両断できるテーマもあれば
「教会が科学を抑圧していた」「中世は風呂入らない」には「そう断言するのは間違いよ、まあ、一概にはそう言えないっていうか…」という歯切れの悪いテーマもある笑
このキレの悪さ、誠実で良いじゃないか。
腐った肉の臭いを消すために香辛料の需要が高い、という中世あるあるがありますが。
11世紀に香辛料貿易が盛んになったのは高価かつ軽量で、あくまでも富裕層ビジネス。下層民は腐る前に食べるか塩や酢でベーコンをつくる。
そりゃそうだ。腐肉しか買えないなら、香辛料も買えないわ…。
一次資料もいらずに論破である。
19世紀アメリカでは同時期にふたりのアンチ教会おじさんが登場したそうで。(ジョン・ウィリアム・ドレイパー『宗教と科学の闘争史』、アンドリュー・ディクソン・ホワイト『キリスト教世界における科学と神学の闘争史』)
どちらもカトリック教会(中世の権威)が科学・医学を抑圧した、宗教と科学は闘争・敵対関係にある、という闘争史観の創始者だそうです。
(ふたりの名前をとってドレイパー=ホワイト・テーゼという)
彼らの著作は「英米プロテスタンティズムの影響下にあり、カトリックと大陸(ヨーロッパ)に対するあからさまな敵愾心に縁取られている」とのこと。
「教会が科学を抑圧」「中世医学は迷信」の2テーマは、この闘争史観の影響が大きいな。
あとおもしろかったのは、中世イメージのものが意外と中世じゃない!というもの。
ペストの治療をする医者が鳥みたいなマスクをつけているイメージありますよね。
漫画でよく見るやつ。あれの初出は17世紀、啓蒙時代!
魔女裁判&火刑のピークも15世紀半ばから17世紀末。ルネッサンス!
ちなみにペストマスクのくちばしみたいなとこにはハーブが詰まっているらしい。
空気感染に対するフィルター。かしこい!
この本は前書きでカナダ・アメリカの学生向けと書かれているように、中世あるあるで
「そのあるあるは知らないです…」というものもあります。
女教皇ヨハンナは全く知らなかった(女謙信みたいな?)。
ペストの歌「バラのまわりを輪になって」も知らないので怖さもわからず。
そして知ったかぶりしましたが、こども十字軍も初耳。
と思ったら、塩野七生『十字軍物語』に記載されてた!記憶喪失!
なにはともあれ一次資料満載なので、手元にあると役立つ一冊!
中世あるあるを会話で使う機会があるかわからんけど。