『中世ヨーロッパの都市の生活』
ジョゼフ・ギース/フランシス・ギース 訳:青島淑子
タイトルの通り、中世ヨーロッパの暮らしを描きます。
舞台は1250年のトロワ。
シャンパーニュ伯領の中心都市であり、当時の交易路の中心地でもあったのがトロワ。名物の夏市(なついち)、冬市で賑わった商業都市。異民族(フン族やヴァンダル族やヴァイキング)に襲われた歴史から学んだ結果の城塞都市。ユダヤ人とその共住地区ゲットーを包含するキリスト教徒の街。イタリアが都市国家化(ヴェネツィアやフィレンツェの都市共和国・コムーネ)した時代、シャンパーニュ伯領でありつつ「特許状」をもらい「コミューン」化、市民の自由の気風が強い街。それが1250年のトロワです。
そんなトロワを舞台に、当時の「裕福な家庭の暮らし」「主婦の生活」「出産」「結婚」「職人」「教育」「教会」「市政」「シャンパーミュ大市」などのデータや実情をスケッチする一冊。
私は前半の「日々のこと」が想像できるパートが好きかなあ。
窓ガラスは高級品なので、窓は大抵はただの開口部。家を複数持っている貴族は、居住地を移動する際にガラスの嵌った窓枠も一緒に移動したそうです。おもしろい。ボタンホールはまだ発明されていないけれど、飾りボタンはあったとのこと。かわいいな。オシャレ。
この頃には、高尚なラテン語本だけでなく、フランス語方言の「物語」も広がったようです。狐のルナールが主人公の『狐物語』(ゲーテの『ライネケ狐』の原典で百閒先生の小ネタに登場する)や「アーサー王と円卓の騎士」の流行など。
教育や教会の事情もおもしろいです。1250年と言えば十字軍国家の黄昏の頃。
十字軍前期には、イェルサレムやコンスタンティノープルから大量の聖遺物がヨーロッパに流入したとか。最もポピュラーかつ大量にあるのが、キリストの磔刑に使われた十字架のカケラ。カルヴァン曰く「大きな船一隻がいっぱいになるくらい」あるそうです。でっけえ十字架である。「キリストのかぶったイバラの冠」はパリに3つあり、バプテスマのヨハネの頭部は2つある。…頭が2つだと?
トロワの大聖堂は大きすぎて、資金が尽きると工事も止まる。これ、絵本でも読んだやつだ。完成まで300年以上かかりましたが、ヴォールト、フライング・バットレス、ステンドグラスなどの発明&進化で壮麗なゴシック建築様式が完成。
「中世」って意外と長くて、西ローマ帝国滅亡(476年)から大航海時代の始まり(1492年のコロンブス)までらしいのですが(諸説あり)、何はともあれ1000年って長すぎじゃないか?
なんとなく「暗黒時代でしょ?」としか思ってなかったのですが、そもそも暗黒時代と言われているのは中世ではないとか、そんなに暗黒でもないとか、まあ、諸説あるそうです。難しいんですけど。
まあ、難しいことはさておき、1250年トロワにフォーカスを当ててNHKドキュメントみたいにじっくり覗いてみると、当時の暮らしや気分が垣間見れて、たのしい。この<中世ヨーロッパ>シリーズはたくさん刊行されているので、しばらく楽しもうと思います。