始めに
この記事ではFMCおける新たな概念であるAR (別名・JZP) について解説する。
筆者の知る範囲では日本語での解説はこれが初となる。
ARについては筆者含め世界中のFMCerにとってまだまだ研究中の段階であり、将来的にこの記事の内容は非常に初歩的な教養になるためタイトルは「入門」としているが、実際のところ筆者がARについて現在解っているほぼ全てを解説する。
回転記号、前提など
この記事では以下の略号を用いる。
- X* ……… X または X'
- Xⁿ ……… X または X2 または X'
「DR」のような略語などとの区別を明示するため、この記事では回転記号は全て太字で表す。
また、特に表記がなければ「EO」「DR」はそれぞれ「F/B軸EO」「U/D軸DR」を意味するものとする。
○○M
○○ Minus の略。○○にはDRなどのステップ名が入る。「○○になっていないパーツ、及びその数」を表す。
○○MがエッジX個、コーナーY個の場合、「○○-XeYc」(○○マイナスエックスイーワイシー) とも表す。
(例)左の状態のHTRMはエッジ4個、コーナー2個だ。右の状態はU/D軸がDR-2e4c、R/L軸がDR-4e2cだ。

揃っていないエッジを単にbad edgeなどと言う事もあるが、それではどの軸についての話なのかが分かりにくいので、○○Mという言葉を普及させたいと筆者は思っている。
ARの定義・性質
ARとは
Axial Reduction の略*1。
リダクションの順番としては、EO→AR→DR→HTR→FR→Finish となる。
ARが完成した状態とは、「{R, L, U2, D2, F2, B2} のみ*2を用いてDRを作ることが可能な状態」のことである。
{R, L, U2, D2, F2, B2} とはつまりR/L軸のDR-moveであるが、DR後の (U/D軸の) DR-moveと区別するため、これを「(R/L軸の) AR-move」(エーアールムーブ) と名付ける。

EO後のDRの軸は2通りあるので、ARの軸も2通り存在する。それぞれ
F/B軸EO → R/L軸AR → U/D軸DR
F/B軸EO → U/D軸AR → R/L軸DR
というルートになる。この記事では特に表記がなければ「AR」とは「F/B軸EO後のR/L軸AR」のことを指すものとする。
ARの重要な性質として、一方の軸がARになった後にNISSをするともう一方の軸がARになるというものがある。これは後の「 NISSによるARMの変化」の項で詳しく説明する。
ARMの数え方
とあるパーツがARになっている、とは次の条件を全て満たしていることとも考えられる。
エッジの場合
- EOが合っている
- U/D面色を含まないエッジの場合 → R/L層にある(E層エッジがM層にあると、いくらAR-moveをしてもM層のままなのでDRを作れないため)
- U/D面色を含むエッジの場合 → どこにあってもよい
コーナーの場合
- U/D面色ステッカーがU/D/F/B面にある(コーナーがR/L面を向いていると、いくらAR-moveをしてもR/L面のままなのでDRを作れないため)
従って、ARM(ARになっていないパーツの数)を数えるには、
- エッジ ……… M層にあるU/D面色を含まないエッジの数
- コーナー ……… R/L面にあるU/D面色の数
を数えればよい。
M層にあるエッジは4つ、R/L面にあるコーナーは8つなので、ARMは0e0c~4e8cの45通りの可能性があることになる*3。
(1) R U
(2) R U R U


正解 → *4
単位手順によるDRM/ARMの変化
EO後に使える回転 {Uⁿ, Dⁿ, Rⁿ, Lⁿ, F2, B2} によるARM(とついでにDRM)の変化を以下の表に示す。各回転の前後で保存する(変化しない)ものが「O」、変化する可能性があるものが「X」である。

単純にDR-moveではDRMが変化せず、AR-moveではARMが変化しないというだけである。何故そうなるのかはDRやARの定義から自明なので説明は省く。
ここで注意すべきなのはHTR-move、つまり180°回転ではDRMもARMも変化しないという点だ。つまり、一度キューブを DR-XeYc/AR-ZeWc にしてしまえば、180°回転のみで DR-XeYc/AR-ZeWc のDRトリガーにセットアップできる可能性があるということである。
(セットアップできない可能性もあるが、その辺りの事情は少しばかり難しい話なので割愛する。*5)
ARとfake AR
さて、これでARMの数え方などは分かったが、そもそもARMが0e0cなら本当にAR-moveだけでDRを作ることが出来るのだろうか?
答えは否である。
HTR-0e0cであってもHTR-moveでは揃えられないfake HTRがあるように、AR-0e0cであってもAR-moveではDRを作れないfake ARという状態が存在する。
与えられた状態がfake ARではなく (真の) ARであるための必要十分条件は、以下の2つを両方満たすことである。
- ARMが0e0cである
- コーナーのDRMが偶数である
なぜコーナーのDRMが奇数だとfake ARになってしまうのかを軽く説明するが、読み飛ばしてもらって構わない。
R* または L* をすると、U/D面にあったものはF/B面に、F/B面にあったものはU/D面に移動する。つまり全てのコーナーがU/D/F/B面のどれかを向いた状態なら、DRだったパーツがDRMに、DRMだったパーツがDRに、という反転が4パーツ同時に起きるのである。
F* や B* をしたときのEOの変化を思い浮かべれば理解しやすいかもしれない。偶数個のパーツが同時に反転するとき、揃っているものの総数の偶奇は常に不変なのだ。
従って、コーナーのDRMが奇数個だといくらAR-moveをしても奇数個のままなのでDR-0e0cにはなり得ないのである。
逆に言えば、AR-0e0cはDRMさえ偶数であれば必ずAR-moveでDRを作ることができる。どのようにするのかは「AR後のDRの作り方」で説明する。
とりあえずAR-0e0cのときは、DR-Xe偶数cならAR、DR-Xe奇数cならfake ARだということさえ分かればOKである。

実戦で使う
ARの作り方
ARへのアプローチの仕方は幾つか存在する。
が、ここまでARについて解説してきて申し訳ないが、ここではそれを1つも紹介しない。
何故なら、EOが揃っただけの何も無いところから、わざわざARを作ってからDRを作るというのは多くの場合において非効率だからである。
つまり、ARをソルブで使いたかったら、ひたすら多くのEOをチェックしてARskip、もしくは数手でARになるのが一目瞭然なEOが出るのを待つのが得策である。
AR後のDRの作り方
AR-moveでDRを作るとは、つまり「 {R, L, U2, D2, F2, B2} を用いて、F/B面側にあるU/D面色パーツを全てU/D面に集める」ということである。
これを読んで何か気づくことはないだろうか?
そう、これはR/L軸のDRからHTRを作るのとやっていることが全く同じなのである。
ゆえに、ARからDRを作るのは簡単だ。以下のようにしてR/L軸ARをR/L軸DRに読み替えて疑似的なHTRを作ればよい。
- R/L面にあるF/B面色 (緑/青) ステッカーをR/L面色 (赤/橙) だとみなす
- U/D/F/B面にあるR/L面色ステッカーをF/B面色だとみなす
- 疑似HTRをつくる
なお、U/D面にU/D面色が集まればそれで良いので、この疑似HTRはfake HTRでも何でもよい。QTも都合の良いように解釈して構わない。
(例) スクランブル : R' U' F D R2 U2 L' U F2 L2 R B' L2 D U' L R2 D2 B2 R2 U2 R' U' F
既にARまで完成している。現実にはまずあり得ないラッキースクランブルだ。
このRL軸ARを疑似R/L軸DRに読み替えると右の図のようになる。ついでに白と黄、緑と青、赤と橙もそれぞれ同一視している。


HTRMだけをみるとこうだ。これは B2 R' U2 L' U2 D2 L や D2 L' F2 B2 R B2 R などでHTRを作れる。

(解答例)
// AR
B2 R' U2 L' U2 D2 L // DR
B2 D R2 B2 U R2 D' // HTR
F2 U2 R2 // finish
NISSとの関係
NISSによるARMの変化
NISSした際、ARMはDRMのように不変……とはならないが、変化の仕方に特徴がある。
結論から述べると、スイッチ前のU/D軸のARMがスイッチ後のR/L軸のARMになり、スイッチ前のR/L軸のARMがスイッチ後のU/D軸のARMになる、というように軸が入れ替わった形になる。

いま一度ARMの定義を思い出してみよう。とあるパーツがR/L軸ARになっていないとは次のことだった。
- エッジ ……… E層エッジがM層にある
- コーナー ……… U/D面色がR/L面にある
つまり、E層エッジ → M層、あるいは U/D面コーナー → R/L面 という移動を果たしたパーツの数がR/L軸ARMとして数えられている。

ではここでスイッチをするとどうなるか。
スイッチすると全てのパーツの移動が逆方向になるので、元のR/L軸ARMの数だけ M層エッジ → E層、あるいは R/L面コーナー → U/D面 という移動が起こる。

これはそっくりそのままU/D軸のARMの定義と同じだ。
(U/D軸のARMの定義が分からない人はキューブをz持ち替えしてみればよい。U/D面 ↔ R/L面、E層 ↔ M層 というように入れ替わるのでU/D軸ARMは
- エッジ ……… E層にあるM層エッジの数
- コーナー ……… U/D面にあるR/L面色の数
になることが分かるはずだ。)
従って、スイッチするとR/L軸ARMがU/D軸ARMになるというわけだ。同様に、U/D軸ARMもR/L軸ARMになる。
また、このことから一方の軸がAR-0e0cならばスイッチ後の他方の軸がAR-0e0cになることまでは分かるが、それがfakeになるかどうかは実際にその他方の軸のDRMを確認してみないと分からないように思えるかもしれない。
が、実際は単純にスイッチ前がARならスイッチ後もARに、スイッチ前がfake ARならスイッチ後もfake ARになる。
これはAR後の解答の構造を考えれば分かりやすい。
最初に示したARの定義は「{R, L, U2, D2, F2, B2} のみを用いてDRを作ることが可能な状態」だった。
言い換えれば、ARとは
{R/L軸DR-move} {U/D軸DR-move}
のように2つの軸のDR-moveを掛け合わせた形の解が存在する状態のことだ。
そしてこれは反対側から見れば
( {U/D軸DR-move} {R/L軸DR-move} )
という解でもあるので、当然ノーマル側がARならばインバース側から見てもARになっているのである。
そしてfake ARはこのように2軸のDR-moveの積で表される解が存在しない状態なので、ノーマル側とかインバース側とか関係なくfake ARなのである。
NISS判断とARM
前述したように、ARにさえなっていれば簡単にDRが作れるが、狙ってARを作るのはあまり得策ではない。
ではARMとは一体何の役に立つのか? 実はARMは、EO後あるいはRZP後のNISSをすべきかどうかの判断材料になりうるのだ。
下の表は、DR-4e4cが各ARMにおいてどのくらいの確率で6手以内にDRを作れるかを表している。*6
DR-4e4c → DRのsub7率
ARMによってかなりの差があることが一見して分かるだろう。
AR-0e0cが47.53%と最も高く、次いでAR-2e4c, 1e2c, 2e3c, 0e1c, ……となっている。この表をまるまる覚える必要はないが、
- 25%を超える、「比較的良いケース」が0cから4cに1つずつあり、表を斜めに占めている(コーナーが増えれば増えるほどエッジも増える)
- コーナーが同じ個数なら、エッジの個数が「比較的良いケース」から離れるほど「比較的悪いケース」になっている
などは覚えておいて損はない。
また、よく観察すればこの表がAR-1e2cを中心におおよそ回転対称形となっていることにも気付くだろう。こういった性質は偶然ではないが、なぜそうなるのかは読者自身で考えてほしい。全てを説明していたらキリがないので。
このように、どのARMが「比較的良い」のかさえある程度暗記していれば、わざわざ全てのパーツをNISSトレースしなくても、スイッチ後のARMの情報だけで良し悪しを判断できるのだ。
もちろん全てのNISSを確認できればベストだが、FMCは時間との戦いである。少しでも効率よく探索するため、優先順位をつけられるのならそうすべきだろう。
ということで最後に、多くの人が使っているだろうDR-4e4c, DR-2e4c, DR-2e3cのそれぞれについて
①6手以内でDRを作れる確率 ②平均最少手数 ③最も手数が少ないパターンの一例
を掲載する。
何を覚えて何を覚えないかは任せるが、前述したように「比較的良いパターン」を知っておくときっと役に立つだろう。
DR-4e4c
①6手以内でDRを作れる確率 (再掲)
②平均最少手数
③最も手数が少ないパターンの一例
DR-2e4c
①6手以内でDRを作れる確率
②平均最少手数
③最も手数が少ないパターンの一例
DR-2e3c
①6手以内でDRを作れる確率
②平均最少手数
③最も手数が少ないパターンの一例