以下の内容はhttps://shioring78.hatenablog.com/entry/2025/03/06/130914より取得しました。


演劇という「体験」の可能性は無限大!〜日本の演劇を明るく照らす「花と龍」の感想文

 ほーーーんと、新年早々ビッグ後悔!!!!!めちゃくちゃ良い舞台を見たんだけど、好きな役者さんの色気*1脳細胞を焼かれすぎて関東・富山公演期間中に全然まともな感想を紡げなかった。本当はもっとTLにいる演劇好きに足を運んでもらいたかったんだけど(自分が感想を吸いたいので)叶わなかったので、地方公演前*2に若干布教ブログの要素も含みつつな感想文をまとめます。とはいえ、主たる側面は己の感想まとめです!!!おたくの言語感覚で全編まとめておりますので読みづらさをご愛敬で。

 とりあえず、前半ネタバレなし後半ネタバレありで書こうかなって思ってるのでよろしくお願いしまーす。ちなみに何で今更になったかというと、3回見てやっと推しの色気に頭が慣れてきてまともな言語化をできるようになったからです!!!致死量の色気はIQを奪うから気をつけろ!!!!!

 

目次

 

公演概要

「花と龍」

【神奈川公演】2025/2/8(土)~2025/2/22(土) 神奈川芸術劇場

※公演終了

【富山公演】2025/3/1(土)・2(日)  オーバード・ホール

※公演終了

兵庫公演】2025/3/8(土)・9(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定:8,800円

福岡公演】2025/3/15(土)・16(日) J:COM北九州芸術劇場 中劇場

一般:7,500円 ユース:3,500円 ティーンズ:1,500円

www.kaat.jp

 

【あらすじ】

明治時代の終わり、「黒いダイヤ」とまで呼ばれる石炭産業で活況に沸く北九州の若松港。港から船へ石炭を積み込み、積み下ろす荷役労働者「ゴンゾ」を生業とする男・玉井金五郎と、女・マン。惹かれ合い夫婦となった2人は、大いなる夢を胸に日々命懸けで働く。金五郎は腕と度胸、正義感で港の抗争を切り抜けゴンゾを束ねていき、マンの器量と愛の深さがそれを支えていた。しかし、のし上がっていく者の陰には必ず、それを妬む者がいるのであった…。さらに、金五郎の前に、壷振りのお京という一人の女が現れる。
欲望と希望渦巻く北九州と、そこから飛び立つ夢を抱く男と女の、たぎる生命力の物語。

(公式サイトより引用)

 

ネタバレなしの話

舞台上に現れた「屋台街」で遊ぶ稀有な体験

 もう何と言っても最大のトピックはこれに尽きるわけ。もぎりの後に案内されるのは客席ではなく舞台上。舞台の上は屋台でいっぱい!

何とこれ、舞台上&セットの中なのです!

 焼きそばや焼き鳥の香ばしい香り、ビールやラムネを開ける景気の良い音。なんと開場~開演までの時間舞台の上にある屋台街でお買い物をして、舞台セットに腰掛けながら&芝居を見ながら座席で飲食が出来てしまう!!!*3本当にすごい!!!劇場に来たはずの私たち観客は一気に祭りのような喧騒に飲まれていくのです。もうこの時点で物語に巻き込まれているのよ。

舞台見ながらビールと焼きそば

 お祭りの夜のような気持ちで皮串と小瓶ビール片手にふらふらと。そして八百屋舞台に腰掛けつつ、顔をあげればそこには見慣れた真っ赤なKAATの客席。さらにはこの屋台の賑わいを自由に歩き回る衣装を纏ったキャスト陣。公演グッズ屋台の前で呼び込みをしたり、ビールの品出しを手伝ったり、ラムネ片手に片っ端からお客さんと乾杯をしたり……。まじで非日常!!!想像したことすらない光景!!!KAAT芸術監督・長塚圭史が演出家であるが故のやりたい放題!!!!!

 しかもこの屋台村は「建具ざらえプロジェクト」協力のもと、能登半島地震によって被災した家屋から救い出された建具を借りて作られた舞台美術なのです。www.chunichi.co.jp

 本物の年月を重ねた木の深み、時代を感じるあたたかみのある形状、すべてが物語の世界にぴったりで素晴らしかった!この試み、めちゃくちゃ感動してしまったよ。SDGs叫ばれる昨今にも相応しいし、時代の再現美術としても強いし、悲しい思い出が少しでも前向きなものに進化する、という意味でもいいことづくしのプロジェクトだよね……。他の公演でも再利用を行うケース増えたら良いのになって思います。

建具ざらえプロジェクトの案内と該当の美術

 眩い照明を浴びながら舞台の上の浮足立つ空気と荘厳なふかふか座席を交互に眺めてると、毎回胸が震えて。本当に3回見てもその度にこの試みへ感動していた……。

 しかもこの屋台、KAATのあるお膝元・元町の商店街の皆さんが出店されていたんだよね。公演きっかけでお店のファンになった人が再び訪れることもあるだろうし*4地域との共生という意味では公共劇場としてめちゃくちゃ強い取り組みとなった気がする。公共劇場の取り組みとしてこれ以上ってなかなかないんじゃないでしょうか?

 ただやっぱり舞台の上に屋台を出す、って生半可なことではないので(衛生基準の許可取りとか)、パンフレットの「舞台に屋台が並ぶまで」というレポートを読んで超超興奮しちゃった!!!神奈川芸術劇場ってまじですごい!!!公共劇場の制作課に屋台担当者が生まれたこと、舞台芸術の歴史に絶対残ってほしいよ!!!!!

 振り返ってもこの試み、本当に良かったのでKAAT芸術監督兼「花と龍」の演出家である長塚圭史さんには敬服するばかり。本当に思い返してもなんというか、夏休みに田舎のおじいちゃんおばあちゃんのおうちに帰省したとき行った夏祭りの真ん中に鎮座する「旅の芝居小屋」っていう雰囲気なんだったんだよね。まあ実際、そんな体験したことないんだけど(笑)そうだな、近い記憶は近所のお祭りに来ていた移動式お化け屋敷とか、花園神社の酉の市にやって来る見世物小屋のテントを見つけたときのわくわくかな。そういう自然とノスタルジーを呼び起こす仕掛けが作品の雰囲気と相まって超超良かった。観劇した景色や音はもちろん、匂いや味を伴うことで記憶は更に多層になる。演劇って更なる体験型へと進化できる道が残ってたんですね!!!主催の新ロイヤル大衆舎は「日本の演劇を明るく照らす」をスローガンにしているけど、本当に演劇の可能性って無限大だね!!!

 

脚本演出キャストvs時代

 これはね、1952年の北九州が舞台だからどうしても原作の価値観が令和に合わないところがあるのよ。男尊女卑文化が根強い土地・時代の話だからやっぱり私もウッてなるところが完全になかったとは言い切れないし、フェミニズム思想がしっかりしてる友人は結構心臓ぎゅってなってた。だけど、それでも褒め称えたいのが限りなく世界観を損なわないように令和ナイズされた脚本演出と配役の妙&キャストの技。かなり唸らされました。その時代ごとに価値観ってあるから時代劇と受け止めて楽しめって言われたら当然そうなんだけど、反射的にウッってなっちゃう人はいると思うんだよね。でもそれって決して悪いことじゃないじゃん?うちらがアップデートされてるってことなので。そしてそのアップデートされてる私たちの感覚に、可能な限り制作陣が寄り添ってくれてるように感じてすごくすごく誠実だった。そこにも演劇の可能性を私は感じたんだよね。価値観が令和に合わなくてもやっぱり名作ってあって。今回もウッてなるところはあっても、疫病で周りの人が消えていく命の虚しさとか、職業格差による差別とか、この人と生きていきたいと感じたときの眩い強さとか、前を向いて生きようと藻掻く人々の生命力とか……そういう人生の普遍性ってやっぱりどんな時代であってもエネルギッシュで創作物として魅力的なんだよね。

 価値観の不一致を理由に名作の上演が避けられてしまうよりは、試行錯誤しながらも上演にチャレンジしてほしいって気持ちが私にはあって。そこに果敢に挑み最大限物語にも観客にも寄り添ったスタッフやキャストの手腕はまじで演劇の未来の形だな~って感動しちゃった……原作にも観客にも誠実だったと思う。

 今回は特にキャストが時代背景・価値観の架け橋になっていたと感じたんだけど微妙にネタバレになりそうだから、後述のキャスト感想に盛り込みたいと思います。

 

ネタバレありの感想

 積極的にネタバレするというよりは、ネタバレを意識せず好きに書き殴った感想です。観る前に見どころを知っておきたい人もいると思うので観劇前に見るのは自己責任インターネットで。

 

特に印象的だったキャストへの感想

 結局キャストに準じて話すのが人に憑く妖怪としては話しやすいので、まずはキャスト別でダーッと語ります。良いも悪いもあくまで全て個人の感想なのです。

 

福田転球/玉井金五郎

 いやもうね、このキャスティングが令和の価値観で「花と龍」をやるにあたっての肝だったと個人的には感じている。転球さんが持つ少年性や柔らかいまるみのある軽やかな雰囲気が北九州・激動の明治時代終盤~昭和初期を荒々しく生きた男を良い具合にファンタジーな仕上がりにしていたと思うんだよね。*5何というか転球さんの持つ良い意味でのチャーミングさというか、おとぼけ力(ぢから)というか……毒気が少なくどこか可愛らしいから、あの時代に蔓延る台詞や思想の男尊女卑的な側面のキツさを緩和していたと思う。

 もちろんキャラクター性だけじゃなく、この成功は確かな芝居の上手さで裏打ちされたもの。ただのファンタジーのままだと物語の根幹に揺らぎが出るし、締めなきゃいけない台詞もふわふわしちゃうけど、転球さんの丁寧な芝居が柔らかいキャラクター性に引っ張られすぎることな芝居の力でグッと渋く一本柱を通してくれていたのが、めちゃくちゃ大きかったと思う。女性に対するこの時代の一貫した状況・言動の中でも転球さんの玉井金五郎は根底に一途にマンを想う愛がストレートに伝わってきて、いつの時代も変わらない好きな人を大切に想う気持ちのシンプルな強さが客席との架け橋になったな、と感じました。

 何が起きても前を向いて明日を信じ行動し、愛する人と仲間に寄り添う金五郎は男女関係なく惚れてしまうヒーロー!転球さんはパンフレットで「こんなにモテる役をやることはないかも」とおっしゃっていたけど、転球さんだからこそ色事に限らない類モテの人物像が出来上がったと思ってて。

 磯吉親分と一騎打ちのあと、転換する舞台の上で涙を零す転球さんの揺れ動く横顔が焼き付いて忘れられない。技術改革の波に取り残されるか、それでも仲間を守るか、その葛藤と決意の重さを言葉なく演じる姿に強く打たれたな。あんな愛情深い人は誰でもついていきたくなるし、同時に守りたくなっちゃうよ……!

 

安藤玉恵/谷口マン

 おきゃんでキュートで自由奔放で、なのに健気で抱きしめたくなる安藤玉恵さんだから演じることが出来た、「ついていく」わけでも「支える」わけでもない「隣に並んで歩んでくれる」マンが本当に大好きだった。振り返るだに「花と龍」という作品に鮮やかな絵の具を塗り広げていたのは玉恵さんだなって!後ろから距離を置いて怪訝な顔してついてくることもあるし、お尻を叩いてくれることもあるし、ふいに猛ダッシュで先に行ってしまうこともあるけど、それでも覚悟を持って一緒に歩んでくれる人がパートナーって素敵なことだな、って実感させてくれる生き様だったの。旦那に献身する兄嫁、銃をぶっ放しながら生きるどてら婆、どちらも魅力的に演じられていたのではあるけどやっぱり極端だな、とは感じて。そんな中でマンだけは等身大でとっても魅力的に映ったんだよね。金さんの隣だけでなく、座席で物語に触れる私たちの隣にもいるような。舞台版から感じたマンの魅力って原作と大まかな行動は同じであれどかなり印象が違ったから、玉恵さんによる命の吹き込み方が大成功したんじゃないかって個人的には強く感じました!

 特に大好きだったのは懐中ランプを海に投げるシーン。最初の「百円積まれたってやらん!」のとこは売り言葉に買い言葉的な勢いもあったんだろうけど、直後に自分のせいで新さんがボコボコにされていることが耐えられない気持ちと、それでも大好きな金さんから初めてもらった思い出のプレゼントを誰にも渡したくない気持ち、その両天秤の葛藤が繊細な表情から伝わって。一転、グッと強く口唇を結んで懐中ランプを投げるところも良いんだけど、何より投げ終わったあとの「大切な思い出の品を失った悲しさ」と「大切な思い出を他者の手に渡さずに守り切った安堵」が綯交ぜになった表情がもう超超切なくて最高で!!!!!台詞ではなく表情だけで気の強いマンが内包する繊細さや情の深さを感じられるシーンで本当に大好きだったな……。

 ちょっと拗ねた表情だったり、期待に満ちたわくわくの表情だったり、衝動的な怒りの表情だったり、花を渡すときの眩い愛に満ちた表情だったり……実家のとんかつ屋さんで行われた阿部定の一人芝居「安藤玉恵による“とんかつ”と“語り”の夕べ 『切断』」*6を観たときも感じたけど、気が強いように見えて純真で愛情深い人間を演じさせたら安藤玉枝さんの右に出る人はいないと個人的には思ってます!!!大好きな女優さん!!!

 

松田凌/森新之助

 顔が良すぎることがデバフになることってあるんやな!?(褒め言葉です)(最後まで読むと完全に褒め言葉です)とびっくりした。明治~昭和時代のゴンゾにしておくにはあまりにも顔とスタイルが良すぎて、アンサンブル勢も含めたゴンゾの中で明らかに浮いているのが初見からめっちゃ気になった。芝居は全然上手いし違和感ないんだけど、まじでこの演者の中だと作画が違いすぎて顔が浮く。だからこそ、二幕で茶屋の若旦那に成り上がった(?)姿を見てめちゃくちゃしっくり来たんだよね。ああ、この人の生まれ持った美しさや品の良さは確かにこの場所に来るためのものだったんだなって。だけどさ~~~~~、クライマックスの金さんが襲撃されて復讐に燃えた殴り込みの姿を見て「この人の魂の形はゴンゾのままだった……!」と圧倒的な芝居の迫力で理解させられちゃったんだよね!!!!!一幕であんなに違和感があったゴンゾの法被が宇宙一似合いすぎていて本当に鳥肌が止まらなかった。これは勝手に芝居の凄みから背景を感じちゃった行間が好きな観劇おたくの戯言なんだけど、顔の美しい男が男臭い現場(この言葉自体がアレだけど)には似合わないっていうバリバリの偏見、当時もあったのかもしれないなぁって。時代と照らし合わせても「男オンナ!」みたいな罵声を受けていそうだし、舐められないために喧嘩っぱやくなったとかも全然ありそうだし。なんか変な話、容姿が良すぎるある種のデバフ(これは本当にバリバリ偏見なので私の良くない感じ方)す物語に昇華させる芝居のパワーが本当に本当に強くて胸が震えたなぁ。行間を感じさせてくれる役者さんの芝居って何回見ても飽きが来なくて楽しいよね!!!っていうか、そもそもシンプルにあんな剥き出しの魂の形を客席にぶつけてくれる役者さん、絶対的にワクワクしてしまうんよなぁ……。

 

稲荷卓央/吉田磯吉

※※大好きな役者さんのため冷静な感想がつぶやけません※※

 花園神社の紅テントで行われた唐組を見てから大大大好きな役者さんで、当初稲荷さんをお目当てにチケットを買いました。紅テントのお話については過去にまとめたブログを読んでね。テント芝居楽しいから「花と龍」で稲荷卓央さんと染奴ちゃん役・大鶴美仁音さんが気になった方は絶対に唐組*7を見に行こう!!!!!!!!!!

shioring78.hatenablog.com

 本題に戻りまして稲荷さん演じる磯吉親分の話です。いやさ〜〜〜〜〜艶っぽくて粋な色男/渋み・凄み・重みコントラスト!!!「行き場のないどんな奴でも受け入れる」懐の深さと、太極を見定め冷徹に"切る"ことが出来るシビアさのギャップ!!!本当に去年まで首領パッチをやっていた人と同一人物ですか!?!?*8親分(おやびんではない)、私もイロにしてください!!!!!!!!!!(ここまで一息です)

 大きく分けると3つ好きなシーンがありまして。1つ目が「鉄火場*9のシーン」。ここはね〜〜〜、洋装のべっぴん両側に侍らかしながら煙草をふかして優雅に賭け事をする親分のダダ漏れ色気にまぁ〜〜〜メロっメロメロンパンナちゃんのメロメロパンチ以外にこんなに人をメロメロさせられる技ってこの世にあるんですね。最前列で見たとき、目の前で繰り広げられる余裕のある仕草と両側の妾に向ける目線、年齢を重ねたからこそ出る滲み出るような大人の色気に脳味噌沸騰しすぎてそのまま全部液体になるかと思った。桟敷席の臨場感も相まって、手にしていた飲みかけのビールで酌をしなかった私の強固な理性に感謝します。初見、本当に色っぽくて格好良すぎて楳図かずおの漫画みたいに悲鳴をあげるところだった。なお、隣で見ていた友人は「こ、これはしおりさんが大変だぁ」って思っていたそう、致死量の色気による身の危険を案じられている。

 ほんとゴンゾ上がりのヤクザだけど妙な品と余裕があるのよ、カリカリしてる周りの取り巻きにはないズシッとした芯の通った重たさと仕草の美しさ。怖いヤクザほどカタギに対しては丁寧で優しいってあるあるなのでしょうか???煙草の燻らせ方*10や賭け事に勝ったときの喜び方、筋が通った要求にはきっちり答えて頭を即座に下げられる人間性*11、金さんに酒を勧めたときの「盃でない、普通の酒ならいただきます」に対しての「好きに取ったらええ」と笑える器のでかさ。もう何もかも全部が最高だった…………親分が両手に妾を抱えられる理由がこのワンシーンだけで伝わってくる脚本と芝居、本当に好きすぎる。こんな男、惚れるに決まってるでしょうが!!!!!

 私、稲荷さんの少しザラッとしてるのによく響いて淀みがない滑舌のがとても好きなんですけどそれまでモブ役で出られていたとき*12第一声から声の響きが全く違うのももすごい大好きで!親分のドスで!え、まだ1シーン目?すでに長いし語り足りない。

 2シーン目は「場転で煙草を燻らせてるシーン」。この何でも無い一瞬のシーンが本っっっ当に大好きで!!!!!転換で回る八百屋舞台の一番高い場所にゆっくり登ってきた磯吉親分が誰よりも高い位置で更に高いところを見つめながらゆっくり煙草を吸うだけのシーンなんだけど、この一瞬でいまの若松においてこの人物がどの位置にいるのか、醸し出す気迫とともに伝わってくるの。芝居の!!!圧!!!!!目線の遠さから視座の高さや若松のずっと未来まで見据えていることが客席にぐわっと伝わってくるのもすごい好きで!でも何より、踵を返すときに一瞬にやっとする悪い顔、私が稲荷さんの芝居で最も大好きな表情筋の動きで!!!僅かな片側だけの口角アップ、たった一つの動作で腹に一物抱えた油断できない、一筋縄ではいかない男だって感じさせるの…………。稲荷さんの繊細な表情作り、唐組の距離感だから感じるのかと思い込んでたフシがあったけど、全然、でかい箱でも僅かな表情一つで、言葉がなくたって役が背負った物語が伝わってくる……ほんと稲荷さんのお芝居が好きです……オーラと表情の魔術師。

 最後3つ目はもちろん「金五郎との一騎打ち」。もうね、毎度このシーンが痺れるほどに良かった。芝居の強い人間vs芝居の強い人間で起こった爆風に飲み込まれる瞬間って観劇してて最も気持ちの良い瞬間の一つだと思っていて。台風みたいな芝居の圧でぐちゃぐちゃになれて、毎回あのシーンのあとはぐったりしていた。強い芝居がぶつかり合った爆風って受け止める側も信じられないくらい体力が要る

 私は稲荷さんの台詞における活舌・緩急・相手との間合いが気持ち良すぎて大好きなんですけど。このシーンの長台詞は特に聞き惚れてしまう気持ち良さで!!!難しい言葉や用語、情勢、理想、意志、本位、裏腹、複雑に絡み合う要素も全部すーっと入ってくるの。いわゆる「伝える力」が抜群に鋭いんだよね。説明台詞ってどうしても聞き流してしまうことが多いんだけど、上手な人が伝えるときってきちんと情景が浮かんだり情報が整理されて脳がすっきり飲み込む。稲荷さんって説明台詞では的確に物事が仕分けられて聞こえるし、感情台詞はダイレクトに心を揺さぶってくれる。その力が大好きなんだ。活舌、緩急、呼吸、間合い、そのすべてが連続良ヒットしたときだけ生まれるフルコンボだドン!!!!!(from太鼓の達人)パワーなんだよなぁ。

 加えてこれは「やさしい鑑賞会」に行ったフォロワーさんが教えてくださったんだけど、長台詞の最中に客席がざわっとしても全くブレなかったらしいんだよね。劇場の静寂とは違うテント芝居という喧騒の場数*13を踏みまくった人間が得意とする特殊能力~~~!!!こういうエピソード、本当に助かる、おたくの命が救われます。

 芝居の技巧者による「それぞれの正義」のぶつかり合い、無遠慮に怒鳴ったり言葉遣いが荒かったりはしないのに、静かに飛び散る火花が熱くて。「情勢」と「なさけ」2つの情を両天秤に乗せながら議論を交わすあのシーンは贔屓目なくしても今作の見せ場だと思う。千穐楽、立場が下の人間でも軽んじず腹を割って議論をしてくれた吉田の親分の言葉を受けて、覚悟を決めた金さんがぶわっと涙を零して終わるのが驚くほどに美しくて心が震えた。現代にも通じる仕事の取捨選択の苦しさ、何かを切り捨てても未来を切り開こうとする、覚悟を決めた人間の強さと美しさって時代を問わず胸に響くなぁ、と何度見てもあのシーンは鳥肌が立ちました。

 本当に吉田の親分大好きな役だった。欲を言えば開演前に屋台をウロウロするときも親分の格好でウロウロしてほしかったです!!!!!!!*14だってあのグレーの着流し最高に似合ってて素敵だったんだもん。一緒にお写真撮りたかった。えーんえーん、強欲の嘆き。

 

山内圭哉/林助

 初日、開演前の屋台で知らんイケメンおじさまとすれ違ってこんな役者さん出てたっけ!?って思ってよく見たらふさふさのカツラを被った山内圭哉さんだった。そして同じことをフォロワーさんも言っていた笑

 それはさておいて、いわゆるステレオタイプ九州男性(林助は正確には九州ではないけど)*15の嫌なところ()を一手に引き受けており、しかもめちゃくちゃウッってなるのに絶妙に憎めないキャラっぽく仕立てられてるところが更にウッてなる。私個人としては林助みたいな人間が本当に苦手で見るたびにアレルギー発症しそうになるんだけど、そこまでリアリティのある男尊女卑振る舞いを芝居に出来るってマジで芝居の上手さを感じる……

 でもね、圭哉さんは個人的には河童の役が超好きで。ともすればギャグになりそうな造形の役柄なんだけど(実際どうしても登場した時は見た目のインパクトで笑ってしまう)、あまりにも物語にすーっと馴染む。まだ原作を気になるシーンだけ搔い摘んだ流し読みしか出来てないんだけど、河童って原作には出てこないよね!?これは明言はされていないけど、河童の夢って多分金さんが三途の川を渡りかけてる比喩だと思ってて(幼少期も死にかけたんじゃないかなぁ)。もちろんラストで明確に死にかけている事実はあれど、そう感じた一番の理由を挙げるなら私は最初は出オチ要因かと思った圭哉さんの河童が不思議とどんどん神聖な生き物に感じたからなんだよね。妙に聖らかであると同時にうすら怖い空気もまとっているから、行きつく先に死の臭いがするの。なんていうか、圭哉さんが喋るとふんわりとピンクの靄がかかる気がして怖かった……あんな出オチな恰好なのに巧みに連れていかれそうな怖さをずっと感じてた。そのインパクトがずっと残ってます、笑うとこだったら申し訳ないんだけど!!!笑 まあ、感じ方は人それぞれなので…………演劇って自由だなぁ…………

 

大堀こういち/語り手・猫

 私的今作のMVPは大堀さんだと思っていて。本っっっ当に冒頭と幕間後の語りが凄かった。やっぱ舞台上で屋台をやって客席でも飲食可能だとめちゃくちゃ客席が浮つくんですよ。開演ベル鳴ってもふわっふわ(笑)客電もまだついたままのステージに颯爽と現れた大堀さんは登場人物と言うよりまるで前説担当のように軽やかで、お客さんと境界線がないように感じる位置・温度感で話し始めてくれたの。だけどさ、複数回見て気付いたのは話してる内容が毎回きっちり同じなの。アドリブで話しているように見せてきっちり台詞であり芝居で、ちっともフリートークじゃないんだよね。私、こういうアドリブに見えてがっつり計算された芝居でしたパターンがほんと好きで!!!前説のフリした芝居だって見え見えに分かってしまうと萎えてしまう難しい立ち回りなのに違和感全然なくて超超凄かった。軽快な口調に引き込まれていたら浮ついていた客席は静まり返ってるし全員揃って物語の入口に立ってる。気付いたら照明も落ちて私は山口にいる。ほんと〜〜〜に役者さんだけが使えるとっておきの魔すぎて、この始まり方が大大大好きだった。港の真ん中にいたと思ったら手を引かれて今度は民家にいるし、何回見たってアドリブだと確信してしまうテンポ感の「大根!」は全部ガチガチに台詞で最高だし、山口から北九州、たまには愛媛まで連れ合って旅をしてくれるし、私の手を引いていた案内人はいつの間にかになってる。この猫になるとこまで含めて魔法使いっぽさあって好きだった。そうして最後まであらゆる場面へ手を引いて連れて行ってくれながら、案内を終えると様々なものに変身して物語に紛れ込んでる大堀さんの振る舞いがこの没入感の立役者だったなってめちゃくちゃ感じた。玉井金五郎という男の人生を覗き見させてくれる道先案内人。私は芝居の世界と客席を繋ぐ架け橋になる語り部がとっても大好き!!!!!

 で、猫ですよ!!!猫!!!私は猫飼いではないからあくまで私のイメージ上の猫にはなってしまうんですけど、おじさんがおじさんのままで演じる猫、猫すぎてあまりにもすんごい猫じゃなかった!?!?!?(語彙)出てきた瞬間から夢中になってしまった。もう釘付け。なんだろう、ちょうど良いふてぶてしさがすごく猫。のっそのっそ歩いたり足をだらしなく広げて座ったり飼い主に尻尾をいじられてジト目で一瞥したり……なんか見ているとマジでちょっと肥えた老猫に見えてくるのよ。別に着ぐるみ着てるわけでも猫耳つけてるわけでもなく、タキシードに尻尾だけつけてる丸出しの大堀さんなの。なのに毛がふわもこの猫に見てくる、高度な錯覚すぎるでしょ。あの会場全員猫が見えてた、絶対集団幻覚起きてた。本当に猫おじさん……もう一度会いたい……おじさん丸出しなのに芝居の上手さという集団催眠で見えた幻の猫……っていうか、これに関しては猫飼いの意見が聞きたい。どうです、猫でしたか????

 魔法使いみたいな語り部も、世界観に馴染む若頭や組長も、視線泥棒な猫ちゃんも、全部物語の根幹だった。転球さんが眩しい主人公なら大堀さんは物語を支える大黒柱だったな〜!

 

演出や脚本などなどへの感想

 最後に気に入った演出や脚本などなどをざざっと3つだけ。

 まず、最初に挙げたいのがね、開演5分前ベルが花火の上がる音だったのが超絶良かった。考えた人天才すぎる。本当に好きすぎて色んな友達にこの話をしていた。屋台で遊んでて最後に花火が上がって自分の席につく、その一連の流れがあまりにもノスタルジックを感じて美しい。こういう些細なギミックへのこだわり、愛してしまうよ。(あと全体的に音楽が凄く良かった)

 この開場→開演の照明も超良くて!!!普通の明るい会場建付けの照明だけじゃなく、壁面にチープなカラー電球?張り巡らしてあったのが芝居小屋感あって好きだった。大堀さんの語りが始まると通常照明が落ちた、カラーライトだけ残って強調される時間があったんだけど、すごい"小屋"っぽくて何か小さい頃に戻ったような気持ちになったんだよね。KAATってそこそこ広いのに、電球で空間が切り離されることでぎゅっと濃縮された感じになるのめちゃくちゃ面白かった。ただ、これ2階で見てたらどう感じたんだろうな〜とも思う。

 2つ目は今回の演劇化にあたり追加されたであろうが河童のエピソード。これ、原作にないはずなんだけど(だよね?後から出てくる?)すごくストーリーの雰囲気と合っていて大成功追加エピソードだと思う。最初、金さんがマンに話しているところでは単なる小さい頃に見た夢の一つって感じだったのに、死ぬ間際に実写となった瞬間すべての意味が変わって見えるの、初見のときすごい衝撃だった。とはいえ、これはあくまで私が抱いた感想であって正解とかではないと前置くんだけど、河童が渡ろうとしていたのはどう考えたって三途の川にしか見えなくて。道中で他の女は金さんを拐かすだけ、河童=死への誘いから金さんを現世にとどめたのってたった一人マンさんが呼ぶ声だったのが本当に良かったんだ。前述した通り河童の圭哉さんから発されるこの世ならざるものの空気や金さんを拐かす女たちの怪しげな雰囲気は神秘的なのに、マンさんだけがシンプルなピンスポで照らされて強く生身の命を感じたのも説得力があって大好きだった。金さんとマンさん、お互いの存在が唯一無二であることが伝わるあのシーンの存在、良かったなぁ。

 最後、今回の演劇化で最も良かったと感じたのが「花」の扱い方。前述のとおり私はまだ原作は搔い摘み&流し読み段階なんだけど、一番原作と違って良かったな、と感じた脚本演出はこの「花」にまつわるシーンで。原作ではさらっとした花を渡すだけのシーン、今回の芝居だともらった金さんが「良い香りだなぁ」とそれこそ花が綻ぶように笑って、さらには覗き込んで香ってみた新さんの「分からん」という言葉にマンさんが「あんたは分からなくていい」だなんて軽口を叩く。この段階でうっすら二人だけの世界があるのが可愛くて大好きなんだよね。二人だけに分かる花の香、という脚本の変更が私はすごく好きだった。

 多分尺の関係で、「勝手に刺青を彫られる」の後の「本格的に彫ってもらうのシーン」がカットされてるんだけど、代わりに2つ目にあげた河童のシーンの変更で花をあげたシーンがリフレインされてる。死の間際で見る夢の中でマンさんはたった一人、一筋の真っ白な光に照らされて、もう一度強く真っ直ぐな声で「金さん花をあげましょう」と三途の川を渡りかけている金さんを呼んでくれる。金さんにとってマンさんが花を渡してくれた夜の記憶は掛け替えのない大切な思い出だったことが強く伝わる。だから観客には「龍に菊を握らせる」というデザインを掘るよう依頼したのは金さんだったのではないかと存在しないシーンの情景が浮かぶ。私たちが実際に見たシーンは寝ている間に勝手に彫ってたとこだけなのに。

 「花を渡す」というシーンのリフレインが二人の強い結びつきの表現として物語に鮮やかな彩を添えるのが大好きだった。あと、これは本当に個人的な感想なんだけど毎回花を渡すシーンの安藤玉恵さんが可憐ですんごい可愛いの!!!!!隔離シーンの少し照れを含んだ恋を覚えたての表情も、走馬灯シーンでの深く強い真っ直ぐな愛情で金さんを現世へ連れ戻す声も、どちらも本当に綺麗で可愛い。あんな風に真っ直ぐ愛情を注がれたら生涯を捧げて大事にしちゃうよなぁ、と安藤玉恵さんの魅力に改めてメロメロだった……

 

 というわけで、好きなだけ感想を語りましたけどここまでで1.3万字オーバーです。長いよ。

 常識では考えられない新しい試みへの挑戦心、古い価値観の名作を令和の観客の寄り添って再構築する根気、何より在宅&安価でも十分楽しめる配信コンテンツが充実する世の中で、それでも「現場で体験する演劇というコンテンツ」の面白さと可能性を存分に再認識させてくれたことが何より最高だったな。

 同じ観客が集うことは二度となく、演者もスタッフも含め、その場に集ったその日限りの人々が巻き込まれる唯一無二の時間と空間を感じさせてくれる演劇という場が改めて好きだな、と感じられる演劇愛に満ちた作品だった。「日本の演劇を明るく照らす」に二言なし!の新ロイヤル大衆舎の新作、兵庫と九州公演間に合う方は是非駆けつけてみてください!!!(私もお金があれば行きたかったよ~~~!!!)

 

【追記】

富山公演の雰囲気、劇場公式Twitterが分かりやすかったから貼っておきます

 

 

 

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*1:唐組の稲荷卓央さんです

*2:残り兵庫・福岡公演があります

*3:KAATの場合です。1階座席は全て汚れても大丈夫なようにカバーが掛けられていました。地方によってルール違うっぽいので気を付けよう

*4:実際ウチキパンさんまじで美味しすぎたので絶対にまた買いに行きたい

*5:例えば、山内圭哉さんが同じ役をやったらタッパもあるし顔のキリッと感や声の強さも相まってかなりあの時代の男尊女卑のきつさが強く出てしまったと思うのよ。(もちろん圭哉さんの良さがプラスになる役もある)その辺のバランス感覚ってやっぱりすごく難しい。もちろん記号だけが全てではないけど、記号が与える要素が強いと思うんだよね。

*6:新型コロナウイルスの影響で宴会の減った実家の店を盛り立てるために行われたイベント。お座敷で一人芝居を観た後に美味しいとんかつが食べられる神企画。なお、安藤玉枝さんのご実家「どん平」は「孤独のグルメ」でも登場したとんかつの名店なのです!デミグラスソースが掛かってて超美味しい!

*7:二人の所属劇団

*8:昨年、稲荷さんは「ボボステ」にて首領パッチを演じられてました。嘘だろ。未だに高熱のときに見た夢だったんじゃないかと疑ってる。口座から3万円は消えていたけど。

*9:賭け事やってる場所のことだよ

*10:余談ですが私は稲荷さんの骨ばった指や手の甲、並びに筋や血管がはっきりした腕が大大大大大好きです!!!!!造形美!!!!!

*11:余談ですが、しおりんは肝心な場面でバシッと躊躇わず謝れる、というのが上に立つ人間にとっての重要スキルだと思っているので磯吉親分って上司力めっちゃ高い

*12:最初のシーンでぎっくり腰になるゴンゾ、浜尾組の組長(コレラ番の命を下す人)、懐中ランプのシーンで弁当食べてるゴンゾなどを演じられています。最初のシーンのギックリ腰から組長への早変わり好き

*13:大雨がテントを打つ日もあるし、救急車のサイレンはもちろん「バーニラ!バニラ高収入!」が響くことも全然ある

*14:初登場はモブゴンゾなので致し方なし、それでも、それでも……!!!

*15:男尊女卑、言葉が荒く声もでかい、暴力的etc




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