皆様、いよいよ2025年も今日で終わりですね。今年は慌ただしくあまり体調もすぐれなかったこともあって、私自身は大したことができない一年になってしまいましたが*1、今年は日本でも世界でも大きな動きがありました。主なニュースとしては、トランプ政権誕生、トランプ関税の発動による世界経済の混乱、参議院選挙等での極右政党の伸長、高市政権誕生、台湾有事をめぐる日中関係の緊張、日銀の利上げ等があげられるでしょうが、経済面では米価高騰と貿易の混乱が続く、逆風続きの一年だったといえそうです。
世界的な潮流と言えますが、今年は排外主義的な陰謀論が猛威を振るった一年として記憶される年になるでしょう。1月に発足したトランプ政権は大統領令を乱発しながら矢継ぎ早に新しい政策を打ち出してきましたが、4月の相互関税発動は自由貿易体制を揺るがす大事件で、大きな衝撃を与えました。米国経済にも大混乱を招いたこともあって、その後トランプは関税の規模を縮小したものの、トランプ政権の予測不可能な行動には今後も強い警戒が必要です。
第一次政権では経済重視に見えたトランプ政権が米国経済にとっても不合理な関税を打ち出したことは驚きをもって迎えられましたが、ペンス副大統領をはじめとする伝統的な共和党保守派とMAGAの連立政権と言えた第一次トランプ政権と、アメリカ・ファーストを唱える新右翼を中核とする第二次トランプ政権は全く別の政権というべきです。トランプ政権の優先課題は文化戦争であり、関税は移民排斥*2同様、反グローバル化の象徴であり、経済合理性とは関係ない話です。関税はその意味でトランプ政権にとって手段というより目的であり、そう簡単にあきらめることはないはずです。
反対派メディアの報道の妨害、不都合な統計を公表した労働省統計局長の解任、FRBの独立性を脅かす露骨な介入、移民関税執行局(ICE)による超法規的な捜査と人権侵害、裁判所に対する圧力など、トランプ政権の政権運営は明らかに権威主義的な特徴を帯びています。関税をめぐる混乱から言ってもトランプ政権を有能な政権というのは無理がありますし、米国の民主主義にとって憂慮すべき事態が進行しているのは否定しがたいと思います。減税など評価できる政策もないとはいいませんが、長期的にはトランプ政権のようなポピュリズムと恣意的な行政は米国の制度的安定を脅かし、大きな政府につながっていくことになるでしょう*3。
長らく安定していて、ポピュリズムとは無縁と思われてきた日本も今年は大きな変動がありました。参議院選挙で参政党をはじめとする極右政党が大きく伸長したことが話題になりました。地方選挙でも極右的な候補者が支持を伸ばし、各地で排外主義的なデモが相次ぐなど、今年は主にネットの中の存在だった排外主義がいよいよ現実の世界にも出てきた一年でした。幸いまだ死者が出るような事件は起きていませんが、デマ情報をもとに、外国人を非人間化し激しく攻撃する風潮はこのままいけば恐ろしい事態につながりかねません。
衆議院選に続いて参議院選に敗れた石破首相は退陣し、自民党総裁選に勝利した高市氏が首相になりましたが、高市政権発足後、極右政党の支持はやや下がっています。高市氏自身が総裁選では排外主義に迎合する発言を繰り返していましたから手放しでは喜べませんが*4、証拠に基づかない排外主義的な感情論に流された政策は結局は日本経済を害することになり誰のためにもなりません*5。現実的な政策をとってくれることを期待したいと思います。
移民政策や選択的夫婦別姓等に関しては大きく意見が異なりますが、アベノミクスを継承するという高市政権の基本的なスタンスに私は反対ではありません。ただ、残念なのは高市政権が現実にやっている政策はアベノミクスと大きく逆行している点です*6。増税に頼らないと高市首相は言っていたはずですが、早速、防衛増税が決まり、金融所得課税や出国税の増税も検討しているというのはおかしな話です。防衛増税で検討されている法人税増税は、安倍政権が引き下げた世界最高水準の法人税を民主党時代のような状態に戻すアンチビジネスの政策です。高市政権はアベノミクスの何を継承したいのでしょうか。
日本経済には大胆な成長投資が必要という高市首相の持論は全くもっともです。日本には確かに投資が不足しています。しかし、その投資を政府主導の産業政策でやるというのはいただけません。産業政策は失敗の歴史です。かつて安倍元首相は「成長戦略の一丁目一番地は規制改革」だと述べましたが、サナエノミクスにはアベノミクスの第三の矢である民間投資を喚起する成長戦略、規制改革が不在です*7。増税と規制強化では日本経済の再生はおぼつかないでしょう。高市首相にはアベノミクスをしっかり継承し、安倍元首相も果たせなかった岩盤規制打破、大胆な減税を断行してほしいと思います。
12月末には日銀が利上げを実施し、政策金利は0.75%に上昇しました。物価が米価以外は(輸入物価も含めて)極めて落ち着いている上に、7-9月のマイナス成長が発表された直後としては異例の措置ですが、年明け以降も日銀は利上げ路線を継続する見通しです。少々強気すぎないか懸念されるところです。経済情勢に合わせた調整は自然なことですが、拙速な引き締めでアベノミクスの第一の矢である金融緩和が揺らげば、サナエノミクスの成功はおぼつかないでしょう。相変わらず、金融政策決定会合前であるにもかかわらず、利上げの決定が事前に報道され、あろうことか財務大臣がその報道を事実上肯定してしまうなど情報管理の面でも失格としか言いようがない失態が相次ぎました。特にこれは経済安全保障を掲げる政権としてはあってはならないことです。与野党問わず、国会議員は重箱の隅をつつくような質疑に時間を空費するのではなく、日銀の情報管理の問題を徹底的に追及してほしいものです。
陰謀論の台頭、国際情勢の緊迫化で、自由主義的な秩序が内外で揺らいでいる昨今ですが、現在の混乱は決して自由主義の失敗ではありません。むしろ自由主義から世界が遠ざかり、自由市場の原則を放棄していることからきています。例えば、身近な話題ですが、米価高騰にしても、農業保護主義、農水省の需要予測に基づく生産調整という統制経済の失敗がもたらしたものです。反グローバリズム、国家社会主義の道は破滅への道でしかありません。2025年の締めくくりとしてはずいぶん重い話題が続いてしまいましたが、2026年は明るい一年となることを祈りたいものです。
読者の皆様,今年も大変お世話になりました。2026年が皆様にとって素晴らしい一年となりますように。2026年も自由の灯火を高く掲げていきましょう!それでは、良いお年を!
*1:前半は主に体調の問題で、後半は単純に忙しかったせいです。特に3月頃はイベントや書評のご依頼などお引き受けしていながら、お断りせざるをえずご迷惑をおかけしてしまった皆様に心よりお詫び申し上げたいと思います。
*2:トランプ政権発足以降、移民関税執行局(ICE)によるレイシャル・プロファイリングに基づく捜査、令状なしの逮捕、米国市民を誤って強制送還するなどの人権侵害が大きな問題になっていますが、非正規移民大量強制送還は農業や建設業の労働力不足を招き、米国のインフレ率の高止まり要因になっています。
*3:そもそもトランプ関税が自由貿易に真っ向から反する措置なのは言うまでもありません。その他にも、インテルの株式取得、医薬品価格への介入等のトランプ政権の政策は自由主義というよりは社会主義で、従来の共和党の路線からは大きく逸脱するものです。イーロン・マスク氏を招いて鳴り物入りの宣伝で設立されたDOGEは結局、マスク氏とトランプ大統領の対立で大きな混乱を招いた末に解体されました。米国経済の未来はあまり明るいものになりそうではありません。
トランプ政権の同盟国やウクライナ戦争へのコミットメントが揺らいでいる点も懸念されることです。米国が孤立主義に傾き過ぎないよう日米欧の関係を密にしていく必要があるでしょう。
*4:高市氏は政策重視の発言をされる方だと思っていましたから、奈良の鹿を外国人が虐待しているといった根拠の乏しい話を総裁選の演説会で話したのには失望しました。時間が限られている中でローカルな話題を話すのもどうかと思いますが、そもそも鹿を虐待する人は日本人でも外国人でも極めて少数で、国籍は無関係です。実際に事件は殆ど起きておらず、過去に逮捕された人物はいますが、日本人です(戯れ一転、頭突きに激怒 奈良の鹿死なせた罪、男に求刑 [奈良県]:朝日新聞)。殊更に外国人への偏見を煽るような話をするのはいかがなものでしょうか。一部の排外主義的ユーチューバーが騒いでいる根拠の不確かな話、しかも一部は捏造の疑いが濃厚な話を取り上げたのは極右に迎合したといわれても仕方ありません。高市氏は「外国人を逮捕しても通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ない」といった発言もしていますが、これも完全にデマです(「通訳が間に合わず不起訴」 高市氏の発言、捜査の現場はどうみたか [高市早苗首相 自民党総裁]:朝日新聞)。
*5:参政党の外国人排斥、専業主婦優遇政策、極端に規模の大きい150兆円の国債発行による財政政策、保護主義、郵政などの再国有化、農家の公務員化等の国家社会主義的政策の問題点についてはXやYoutubeのチャンネルくららの番組などでも指摘されていただいていますが、近いうちにまとめたいと思っています。
*6:なお、極右の方々はなぜか安倍元首相が好きですが、そもそも観光客を受け入れ、移民受け入れを大幅に増やしたのは安倍政権でしたし、女性活躍を掲げて女性の雇用を大きく拡大したのも安倍政権です。ヘイトスピーチ解消法を制定したのも安倍政権です。
*7:ただし、「日本成長戦略本部」では減価償却費の一括計上を認める税制改正など民間投資を増やす減税が議論されており、これは歓迎すべきことです。産業政策ではなく大胆な減税と規制改革こそ、大胆な成長投資を成功させる鍵です。