衆議院議員の米山隆一先生より私のXの投稿に対して、次のようなコメントをいただきましたので、お返事します。
所でドーマー条件 g>r が「恒常的に」成立すると政府債務の対GDP比が一定の値に収束するのは、経済成長に伴い税収も成長率gで増える(財政赤字はg以上に増えない)からですが、玉木氏は増えた税収は返すと主張しているので、財政赤字がg以上に拡大して、政府債務の対GDP比は発散してしまうと思われます https://t.co/aAb863oD3s
— 米山 隆一 (@RyuichiYoneyama) 2025年9月6日
コメントいただき大変光栄です。失礼ですが、いくつか誤解があると思います。
①ドーマー条件の説明の誤り
まず、「経済成長に伴い税収もgで増える」はドーマー条件の必須の前提条件ではなく、ご指摘は不正確です。ドーマー条件を議論する際に前提にされているのは、歳出拡大、歳出削減や増税、減税などの財政政策の組み合わせ方は何であれ、政府がプライマリーバランス黒字(赤字)幅を一定に保つ方針をとることだけです。たとえ税収が経済成長率と同じだけの速さで拡大しなくても、プライマリーバランスのGDP比が一定になる状況はいくらでも考えることができます*1。
なお、米山先生のご発言のカッコ内の部分「財政赤字はg以上に増えない」というのは(やや不明瞭な書き方ですが)プライマリーバランス赤字が経済成長率g以下の速さでしか増えない(もしそれより高ければ対GDP比は発散してしまうから)という条件をおっしゃっているのであれば妥当です。ですが、このプライマリーバランス赤字対GDP比が発散しないという条件と「経済成長に伴い税収もgで増える」という条件は明らかに異なります。
米山先生が「経済成長に伴い税収もgで増える」と「財政赤字はg以上に増えない」を同一視されているのは、米山先生が最近公表された動画*2の作成の際に以下の資料を参考にしたためであろうと推測します。
これはドーマー条件のわかりやすい解説ですが、このサイトに次のような記述があります。おそらく米山先生はこの記述を参考にされたのでしょう。
所得が大きくなれば、税収が増え、政府サービスの需要も増えるため、所得と基礎的財政収支は比例すると仮定します。ただ、ドーマー条件を想定するため、基礎的財政収支はマイナスで比例するものとします。
𝑃𝑡 = −𝑎𝑌𝑡 (𝑎 >0) ⋯ (3)
確かにこれ自体は正しい説明なのですが、この説明を「ドーマー条件 g>r が「恒常的に」成立すると政府債務の対GDP比が一定の値に収束するのは、経済成長に伴い税収も成長率gで増える…から」と理解するのは誤りです。これはただ単に𝑎(プライマリーバランス赤字の対GDP比:Pt/Yt)を一定に維持するという仮定をわかりやすく説明しているだけで、米山先生のような解釈はできません*3*4。
②玉木氏の発言の解釈の妥当性
理由は何であれ、プライマリーバランス赤字の対GDP比が一定なら、g>rであれば政府債務残高の対GDP比は収束します。国民民主党の玉木党首の主張する「増えた税収は返す」がその範囲内なら国債の債務残高対GDP比は発散しません。
確かに玉木党首は問題の動画の中で(来年度以降の)プライマリーバランスの黒字分を返すという趣旨のことを言っていますが、これはプライマリーバランスをゼロに保つという主張と解釈するのが自然です。この場合、プライマリーバランス赤字の対GDP比はゼロで一定になるので、g>rならば債務残高の対GDP比は収束します。
「玉木氏は増えた税収は返すと主張しているので、財政赤字がg以上に拡大して、政府債務の対GDP比は発散してしまう」というのは玉木氏の発言の妥当な解釈ではありませんし、減税すればすぐに債務が持続不可能になるかのような言い方はミスリーディングです。
ただ単にプライマリーバランスの黒字分を減税するというだけの玉木氏の発言を、プライマリーバランス対GDP比が拡大する政策を恒常的に*5とり続けるという意味に解釈するのはどう考えても拡大解釈のし過ぎでしょう。言ってもいないことを批判しても仕方ありません。
玉木氏の発言をそういう風に解釈されるのであれば、その根拠となる発言をお示しください。少なくとも、この動画内での玉木氏のPB黒字の意義の説明は基本的に正確ですし(プライマリーバランスの意義をやや軽視している感はありますが)、そうした解釈をする余地は全くないと考えます。
なお、私自身は短期はともかく長期的にはプライマリーバランスはある程度黒字を目指す方が安全と考えますが*6、玉木氏が同意見かどうかは存じません。そもそも私はこの動画を私の投稿の目的に関係する範囲で論評しただけですから関係のないご批判は困ります。私のXの投稿の趣旨は、池田信夫先生の玉木氏への批判の不当さを指摘したに過ぎず玉木氏の意見それ自体への賛否を書いたものではありません(最初からそのように明記しています)。玉木氏への批判があるのでしたら、玉木氏本人に直接書いていただければと思います。私宛にこういった意見を書くのは理解に苦しみます。
*1:さらに言えば、税収がgを下回る成長でも歳出の伸びがさらに小さい状況ではプライマリーバランスの赤字幅は時とともに縮小します。理論的に成立する条件について述べる際には不正確な言明は避けるべきです。
*2:米チャンライブ「【ニッポンの財政】日本の財政は良いのか?悪いのか? プライマリーバランスから読み解くと」資料|米山隆一
*3:ここで言っている「税収が増え」るというのは、プライマリーバランスが一定になる話をイメージしやすくするための説明の一部です。税収だけでなく、政府支出も所得に比例して増えるのでプライマリーバランスの黒字の対GDP比は一定にとどまるというところまで説明しなければ(Economeさんはそこまできちんと説明していますが、米山先生はしていません)説明として不正確で誤りになります。
*4:9月8日追記:その後のやり取りで、米山先生から、ドーマー条件の内容は誤解しておらず、「ドーマー条件 g>r が「恒常的に」成立すると政府債務の対GDP比が一定の値に収束するのは、経済成長に伴い税収も成長率gで増える…から」という不正確な内容を書いたのは、単にXの「文字数で割愛し」たのだけなのだというお返事をいただきました。しかし、米山先生の意図がどうであれ、この表現が不正確なことに変わりはありません。そもそも、本文で述べた通り、「経済成長に伴い税収も成長率gで増える」こと自体は必要な条件では全くありません。税収も政府支出もgで増えるというのは、単にプライマリーバランス赤字の対GDP比が一定になる状況の特殊ケースに過ぎません。税収だけでなく、「政府支出もgで増える」という肝心な前提を割愛してしまうと、この条件は意味をなさないことになります。
*5:米山先生は債務が発散しないのは、ドーマー条件 g>r が恒常的に成立する場合だけだが、g>rが恒常的に成立するかは疑わしいという意図から、わざわざ「ドーマー条件 g>r が「恒常的に」成立すると」と書いておられるのだろうと思います。動画(米チャンライブ「【ニッポンの財政】日本の財政は良いのか?悪いのか? プライマリーバランスから読み解くと」資料|米山隆一)ではそう指摘していますからこの推測は妥当でしょう。そんな仮定は非現実的だと言いたいわけでしょう。なるほど、それはいくらかもっともな意見ですが、それなら玉木氏の政策で財政赤字が発散すると主張するのも非現実的です。そのようになるのは、玉木氏が「恒常的に」財政赤字を名目経済成長率以上の速度でどんどん拡大していく政策を支持している場合だけです。そんな推測を正当化する根拠は全くないですし、それはg>rが常に成り立つという仮定と同程度に非現実的です。
*6:私もドーマー条件が恒常的に成り立つとは思っていませんから、プライマリーバランスは長期的にはある程度小幅の黒字を目指すのが望ましいと考えます。その点では米山先生とそんなに意見は違いません。国債の負担や財政赤字のあり方については私は以下の書籍の岩田先生の説明と同意見ですので、興味ある方はこちらをご参照ください。岩田規久男(2021)『資本主義経済の未来』夕日書房,420-422頁.