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宮城県の宿泊税

昨年10月、宮城県及び仙台市で宿泊税条例が成立しました。条例では、1人1泊当たり6千円以上の宿泊者から宮城県内一律で1人1泊300円を徴収し、仙台市内は県が100円、市が200円で税収を分け合うことになっています。宿泊税を導入する理由について宮城県の村井知事は宮城県の観光振興のための安定財源として宿泊税が必要と主張しています*1。宿泊業者の意見を軽視した拙速な議論の進め方が問題になり、宿泊業者の方の団体等の反対運動がかなり盛り上がりましたが*2、結局条例は可決され、条例成立を受けて宮城県仙台市は今年11月にも宿泊税を導入する見通しです。

先日のニュースによると、村井知事はこの宿泊税の税収なども活用して、奈良時代から平安時代にかけて東北の政治と文化の中心だった多賀城の政庁を復元する方針を明らかにしたそうです*3。復元には数十億円から100億円の経費が掛かる見通しです。こういった使途に宿泊税を使用するのは妥当なのでしょうか。みやぎ減税会さんの以下の投稿をXで紹介したところ、負担するのは主に県外の観光客だから増税はそれほど問題ないのではないかという趣旨のご質問をいただきましたので、簡単ですがお答えしておきたいと思います。

観光税・宿泊税の問題点については以前こちらでも記事にしましたが、みやぎ減税会さんの批判は妥当だと思います。私は宮城県の事情に詳しいとは言えませんが、ざっと思いつく問題点を挙げておきます*4。宿泊税は観光客が払う税金で県民には関係ないと思われがちなので有権者の抵抗が弱くなりがちですが、こうした税は公平性の点からも効率性の観点からもあまりお勧めできない税金です。

しかも、これまでの宿泊税を課税している自治体の多くは京都等の観光都市で、オーバーツーリズムを大義名分にした課税であったのに対して、今回の宿泊税はオーバーツーリズムではなく観光振興を目的としています。このような税は外部不経済などの経済学的に合理的理由がある税ではなく正当化が極めて困難です。またその税収をこうした観光プロジェクトに使うのは問題が大きいと考えます。

そもそも、今回導入される宮城県の宿泊税は、県の内外からを問わず、1泊6千円以上の宿泊料を払う人に課税される税ですから宮城県民も負担します。宮城県の居住地別宿泊観光客数をみると*5、関東地方29.3%や東北地方(宮城県を除く)18.1%から来た旅行者も多いですが、宮城県民が28.7%を占めています。宮城県民は関係ないわけではないのです。

これも重要な点ですが、税の負担は支払う人だけが負担するわけではありません。宿泊税の負担の一部は宮城県の宿泊業者に転嫁されます。宿泊業者は他県に観光客を奪われないようにする必要があるので、宿泊税を課されたからといって、宿泊料を簡単に値上げすることはできないからです。詳しくは以前の記事を参照していただきたいですが、税負担の一部は宮城県の宿泊業者に負担されることになるでしょう。

宮城県の観光産業はコロナ禍の打撃から立ち直りつつありますが、地域によって回復にはかなりばらつきがあります。例えば、令和5年度宮城県観光統計概要によれば、「特に大崎圏域においては、宿泊施設の廃業や、人手不足による客室稼働率の制限、施設改修に伴う客室数の減少などの要因により、令和元年比約7割の回復」に留まっているとのことです。宮城県内一律の宿泊税は困難な状況にある地域の観光にさらに打撃を与える結果につながりそうです。人気のある仙台周辺は打撃が小さいでしょうが、地域によっては打撃は大きいはずです*6

1人1泊当たり6千円以上の宿泊料金に一律300円という税金はそれほど低いとは言えません。むしろ他県の例と比較して高いと言えます。例えば、東京都の宿泊税は1人一泊10,000円以上15,000円未満の宿泊料金では100円、15,000円以上で200円です(宿泊料金10,000円未満は非課税)*7。他県と比較して圧倒的な優位性を持つ観光地とは言えない宮城県で、一律でこうした税金を導入するのは負担が大きいと考えられます。

宮城県が観光振興に成功すれば利益を受けるのは宿泊業者だから多少税金を負担してもいいではないかといった主張は現実的ではありません。関東圏の観光客が宮城県に観光に行く場合、交通の便や宿泊日数から言っても、1回に回ることが出来る場所はかなり限られているでしょう*8宮城県への観光では多くの人は仙台を観光先に選んでいます。例えば、2023年度の圏域別観光客入込数をみると57.7%が仙台圏を訪れています*9。観光税の税収を宮城県内の観光振興に充てる場合、仙台市の観光名所の整備に充てれば比較的成功しやすいでしょうが*10、その場合は仙台以外の地域の観光地の宿泊所を課税で不利にすることで比較的恵まれている仙台の観光振興を図るという納得しがたい結果になります。一方で全地域の観光地に満遍なく配るやり方をすれば税金の無駄になり失敗する可能性が非常に高いでしょう。観光地の整備による宿泊客増加よりも宿泊税による観光客離れの方が大きいという結果になる施設が多い結果になりそうです。どちらにせよ、満足のいく結果にはなりそうにありません。宿泊税の使途が多賀城政庁復元のような観光プロジェクトに使われる場合、宮城県内の納得しがたい所得再分配を引き起こす可能性が高いでしょう。

そもそも官僚が成功するような観光プロジェクトを効果的に推進できるかどうかは極めて疑わしく、観光施設の建設を民間ではなく政府がやらなければならない理由が見当たりません。何に使われても予算の無駄遣いに終わる危険性が高いといえます。観光予算の使い道として、その地域の観光地全体に恩恵を与えるようなインフラの整備*11に使うというのは公共財や外部経済の議論で何とか正当化できなくはないですが、増税するほどの予算が必要なのか疑問ですし、その予算が必要なら特定の業者への負担が重くなる税金に頼るべきではありません。観光振興のための宿泊税は正当化が難しいでしょう。

なお、誤解のないように断っておきますが、私は多賀城政庁の復元自体を否定しているわけではありません。それはロマンがありますしもちろん面白い試みだと思います。ここで問題にしているのは、その資金を安易に税金に頼ることです。

*1:宿泊税 - 宮城県公式ウェブサイト

*2:市長は意義強調も…宿泊業者「強く反対」 宿泊税めぐり批判続々 [宮城県]:朝日新聞デジタル

*3:知事 多賀城政庁復元に取り組む考え 10〜20年かけて|NHK 宮城のニュース 「たかが300円されど300円」宿泊税に宿泊事業者は困惑 宮城県と仙台市が導入を目指す | khb東日本放送

*4:宮城県の事情についてはみやぎ減税会さんをはじめとする皆さんの方が遥かに詳しいですし、ここで挙げた論点もすでに検討済みではないかと思いますが、あくまで感想として書いておきます。ご批判、ご指摘がありましたらご教示ください。

*5:居住地不明を除く。令和5年度宮城県観光統計概要

*6:宮城県大崎市周辺と言えば、鳴子温泉中山平温泉などが有名ですが、既に入湯税という税金もある中で、長期滞在の観光客が多い温泉地には宿泊税の負担は小さくないのではないでしょうか。

*7:宿泊税|レジャーと税金|東京都主税局

*8:観光庁「旅行・観光消費動向調査」によれば、日本人1人当たり宿泊数は2泊程度です。

*9:令和5年度宮城県観光統計概要

*10:あくまで「比較的」です。「成功する」とは言っていません。

*11:しかし、そのようなインフラは滅多になくそれほどの予算が必要ないものだというのも事実です。なんでも公共財や外部性で正当化するのは慎重であるべきです。




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