彼〔ディオゲネス〕が日向ぼっこをしていると、アレクサンドロス大王がやってきて彼の前に立ち、「望みのものを何でも言うがよい」と言った。すると彼は「日陰になるからそこをどいてくれないか」と答えた。*1
古代ギリシャの哲学者ディオゲネスは、樽の中で暮らしていたというかなりエキセントリックな人ですが*2、独立と自由の精神をもっていたようです。他はともかくとして*3、こういう姿勢は見習いたいものです*4。
レッセフェールという言葉があります。自由放任などと訳されますが、元の意味は「放っておいてください」というような意味です。ルイ14世の時代のフランスで活躍したルジャンドルという商人の言葉だといわれています*5。財務総監のコルベールから「何かしてほしいことはないか」と尋ねられた際、ルジャンドルは「私たちを放っておいてください(Laissez-nous faire!)」と答えたのだそうです。
コルベールは重商主義を推進し、補助金と規制をフランス中に張り巡らした人物です。そういう人物に向かって、「補助金をください」でも「参入規制を作ってください」でもなく、「放っておいてください!」といったのですから、この話が事実だとすれば、ルジャンドルは誇りを持った自由人だったのでしょう*6。
政府の補助金は実にありがたいものに思えますが、そもそも政府は、そのありがたい恩恵を一体どこから施してくれるのでしょう。少し考えてみれば、政府が私たちの生活を助けているというよりは、多くの場合、邪魔していることに気が付くでしょう。
政府に矢鱈に保護を求めるのではなく、「日陰になるからそこをどいてくれないか」、「私たちを放っておいてください!」といえるような有権者が増えれば、利権団体やその投票をあてにしている政治家にとっては厄介な事態でしょう。政府から規制や補助金をもらい、成長戦略を立案してもらおうなどと考える代わりに、多くの人がこんな精神で行動してくれたらと思わずにはいられません。
*1:ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシャ哲学者列伝』第6巻第2章
*2:ディオゲネスとその弟子は、犬のような暮らしをしていたというので、キュニコス派(犬儒派)と呼ばれました。世間のルールをあざ笑う言動が多かったので、キュニコス派はシニカル、シニシズムといった言葉の語源になっています。
*3:ディオゲネスについて伝えられているいる話を読むと、かなり迷惑な話が多く、全部マネするのは決してお勧めしません(笑)。
*4:このエピソードが史実かどうかはもちろんわかりませんが、史実だとすれば、当時のギリシャはマケドニアの占領下にありましたから、これは占領軍の司令官に向かって言い放った言葉ということになりますから相当な勇気です。
*5:もっともこれを最初に伝えている文献はルイ15世時代のものなのでこの挿話の真偽は今となっては確かめようがありません。
*6:今年はフランスの重農主義の経済学者フランソワ・ケネー(1694-1774)の生誕330周年で没後250周年に当たる記念の年ですが、ケネーたちはこのルジャンドルの言葉にヒントを得てレッセフェールをスローガンにフランスの重商主義に反対し自由貿易を求めて戦いました。