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民主主義の危機

今年は世界でも日本でも重要な選挙がありましたが、懸念されていたように極右政党、権威主義的政治家が政権を獲得する事態が相次ぎました。2020年の大統領選で不正選挙陰謀論を主張し議会襲撃事件を引き起こした張本人であるトランプ元大統領の当選は象徴的出来事です。日本も他人事ではありません*1。先の衆院選では議席数では僅かとはいえ、極右政党が国政に進出を果たしましたし、最近の地方選挙では相次いで極右の支援を受けた候補者が当選しました*2

これら一連の選挙結果をどう見るべきでしょうか。「民主主義が危機にある」というのは決して”左翼”とか”主流派メディア”のから脅しではありません。トランプ元大統領のような根拠のない陰謀論を説き選挙の正当性を認めない政治家が民主主義への脅威であるのは客観的事実です。たとえ”冗談”であろうと、独裁者になりたい等と口にし、職権を乱用するような政治家は確かに危険です。

しかし、民主主義が危機にあることを訴えて選挙戦を戦った中道リベラル派の候補者は相次いで敗退しています*3。例えばトランプと戦ったハリス候補は民主主義を守ることを訴えましたが支持が伸び悩み、一般投票でも敗退しました。民主主義を訴えたはずの政党が有権者の支持を得られなかったのは何故でしょうか。

有権者が民主主義を守ろうという訴えに振り向かなかったのは、その大多数が民主主義を否定しているからでも極右だからでもないでしょう(もちろん、そういう人も間違いなく一定数いますが)。にべもない言い方になりますが、多くの有権者にとって、民主主義は争点の一つに過ぎなかったということです。有権者は四六時中、民主主義のことだけを考えて生活してはいませんから、生活改善を約束してくれない、展望を描けない候補者には期待しなかったのでしょう。たとえ極右でも減税や経済成長を訴える政党が生活実感から支持されたということです*4

「極右が台頭しているのはSNSがデマを広げているからだ」というのは一理ありますが、民主主義への脅威だからとSNSを闇雲に規制するのは、それこそそう言っている自分自身が民主主義を脅かすことになりかねず本末転倒な話です。極右の人気やSNSのデマだけで説明するのは一面的な見方です。もちろん、ルーマニアの選挙で親露派の極右が躍進したのが良い例ですが、そうした要素が皆無とは言えません。SNSは確かにデマの宝庫ではありますし、日本でもSNS上のデマが一部の候補者の当選に役立ったのは明らかです。とはいえ、そうした効果はあるとしても限定的なものでしょう。デマを流して選挙を操作しようとする政党は今に始まったことではなく昔からあります*5陰謀論や極右的主張がそれだけの支持を得られるというのは単なるSNSの効果ではなくもっと深い理由がある場合が多いのではないでしょうか。

中道派や左派政党は、有権者を催眠術にかかっているとか詭弁に騙されている等と見下して馬鹿にするのではなく有権者が実際に求めている政策は何か真摯に分析して、早急に態勢を立て直して欲しいものです。相手候補に投票した有権者はバカだと見下していては次も勝てるはずがありません。「お前はバカだ」という相手に投票したいと思いますか?極端な政策や発言があり、全く支持できない政治家が勝ったと思うのは別に良いのですが、相手候補に入れた有権者を愚か者扱いするのは敗者の戦略です。有権者の声を丁寧に聞くことなく、○○候補支持の有権者は愚かで極右などと言っていては負けて当然です。そういう態度では、別に全然極右でない有権者を極右に押しやることになるだけです。そうなってしまうのは悲劇です。

日本の場合、有権者が何を求めているのかは最近の一連の選挙結果や世論調査を見ればそんなに悩まなくてもわかるはずです。多くの国民が減税を望んでいるのは明らかです*6。先の衆院選の国民民主の躍進も名古屋市長選挙の結果も有権者は減税政策を支持しているのであって、特定政党の熱烈な信者は少数と考えれば合理的に説明可能です。極右政党が国政で獲得した議席は殆どありませんし、極右政党の当選者は減税で実績があった方です。減税以外の政策が強く支持されている証拠は乏しいといえます。減税を掲げる政党が複数あれば有権者は穏健な政党を選ぶでしょう。そうなることを強く期待しています。

誤解のないように念のため書きますが,選挙の勝因の分析は勝者の賞賛ではありません。「極右の躍進には理由がある」というのは別に「極右の躍進は喜ばしい」と言っているわけではありません。単純に有権者の行動には理由があると言っているだけです。多くの極右政党の経済政策には保護主義や移民排斥など生活費を押し上げ経済成長にマイナスになる要素が少なくありませんし、民主主義が揺らげば長期的には経済成長にもマイナスの影響が出てくるでしょう。「極右は民主主義への脅威だ」という見方には賛成ですし、国民の生活が大事で民主主義がどうでもよいなどというつもりは全くありません。そうではなく、むしろ逆のことが言いたいのです。民主主義を守るためには、左派、リベラル派政党自身が変わる必要があります。自由市場経済や経済成長を否定的にとらえたり福祉の充実は政府の仕事だからと増税一辺倒の路線を支持していたりするようでは、民主主義は極右に奪われてしまいます*7。人権を守り、マイノリティに寛容な社会を実現するには経済成長が必要ですし、そのためには自由な市場経済が不可欠です。理想社会のために負担増を叫んでも、既に高い税や社会保険料の負担に苦しんでいる有権者はうんざりするだけです。ですから、戦略を変える必要があるのです。一番簡単なのは、極右からお株を奪い、大胆な減税による経済成長を約束することです。

*1:ただし、日本の場合、極右は幸いにして国政では伸びていません。極右やその支援を受けた候補者の当選が相次いだ地方選挙の結果は、いずれも一定の実績を残した現職(やその後継)と新人の対立候補の選挙で、多少問題があっても実績を訴えた候補が支持されたと見る方が妥当でしょう。名古屋市長選はそのわかりやすい事例です。

*2:某政党を民主主義への脅威とみなすのはさすがに大袈裟ですが、差別的発言や根拠のないデマを繰り返し流し、党内の異論を抑え込む非民主的姿勢等は他の公約がどうであれ肯定的に評価するのは非常に難しいでしょう。

*3:フランスの7月の下院選挙では極右が第一回投票で躍進した後、第二回投票では選挙協力もあり極左が巻き返しましたが、いずれにせよ中道派は敗退しました。

*4:今回の選挙ではトランプ候補には白人票だけでなく、ヒスパニックの有権者も無視できない数が投票しています。

*5:例えば、ジョゼフ・E・ユージンスキ(2022)『 陰謀論入門: 誰が、なぜ信じるのか? 』(北村京子訳,作品社)は陰謀論には昔から一定の支持があり、今になって広まったわけではないことを説得的に論じています。SNSが意見の分断や先鋭化を招くという議論は必ずしも実証的に支持されているわけではないようです。

*6:減税を要求する人は税金をゼロにしろと言っているわけではありません。ちょっと税金が高過ぎやしませんか?と言っているだけです。極端な例を出して税金がなくなったら大変なことになるぞ!等と脅して市民の当然の疑問を黙らせようとするのはおかしなことです。まして単に減税を求める人を極右だとかカルトだ等とレッテルを張ったり、常識的に言って問題ないような質問や投稿に対して選挙妨害で訴えるなどと脅したりするのは真面目な有権者を侮辱し極右への招待状を送るに等しい愚策です。税金を使う立場にある人はもう少し謙虚であるべきではないでしょうか?

*7:私は選択的夫婦別姓同性婚などの実現に賛成ですし移民の受け入れも支持していますが、こうした政策の実現は国民が生活に余裕があり他者に対して寛容な雰囲気でなければ難しいでしょう。ベンジャミン・フリードマンらの研究が有名ですが(ベンジャミン・フリードマン(2011)『経済成長とモラル 』, 佐々木豊, 重富公生, 地主敏樹訳,東洋経済新報社)、通常、差別が減少し、人々が他者に寛容になるのは経済が成長しているときであって、脱成長している時ではありません。リベラルな社会を実現するためには経済成長が不可欠なのです。




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