ミッション・ビジョン経営みたいなやつをめちゃくちゃこき下ろしている本があると聞いて、両極端な知識を把握しておくと手札が増えて便利と思っているので読んでみることにした。
原著は2011年の本のようなので、今となってはそこそこ時間が経過してます。
書かれていた内容
結構長かったけど、書いてあることは要するに「ちゃんと考えろ」ということだったように思う。
良い戦略、悪い戦略は以下のようなものであるらしい。
- 良い戦略は、十分な根拠に立脚したしっかりした基本構造を持っており、一貫した行動に直結する
- この基本構造を「カーネル(核)」と呼ぶ
- 良い戦略がカーネルだけで成り立っているわけではない
- カーネルは、次の三つの要素から構成される
- 診断
- 基本方針
- 行動
- この基本構造を「カーネル(核)」と呼ぶ
- 良い戦略とは、最も効果の上がるところに持てる力を集中投下することに尽きる
- 良い戦略とは、自らの強みを発見し、賢く活用して、行動の効果を二倍、三倍に高めるアプローチに他ならない
- 悪い戦略は、次の四つの特徴から見分けることができる
- 空疎である
- 重大な問題に取り組まない
- 目標を戦略と取り違えている
- まちがった戦略目標を掲げている
著者の立場は、
今日では変化のペースが速くなっている、われわれは絶え間なく続く革命の時代に生きている、といったことがよく言われる。安定など時代遅れで、過去の遺物だというのだ。だがこれらはすべて、たわごとである。
という文章に凝縮されているように感じた。 世間的にはVUCAだ何だと言われているように思うので、逆張り感はある。
この文章を見ると理性主義者のようにも見えるけど、純然たる理性主義者なのかというとそういうわけでもない。
状況が流動的になればなるほど、先は見通しにくいからだ。したがって、絶えず変化する先行き不透明な状況では、むしろより近い戦略目標を定めなければならない。目標は将来予測に基づいて立てるものだが、将来が不確実であるほど、遠くを見通すよりも「足場を固めて選択肢を増やす」ことが重要になる。
や、
基礎的な知識やいわゆる常識も大切だが、それらは誰にでも手に入るので、決定的な要因にはなりにくい。最も価値のある知識は、企業にとって独自の知識、自ら発見あるいは開発した知識である。 企業は、これから進出する分野や強化する分野を積極的に開拓して独自の知識を収集する。科学でいえば、「経験主義」を実践するわけである。
ということも書かれている。 つまり、「考えれば分かることを、ちゃんと考えろ」ということだと自分は受け取った。
他に自分が気になった点としては、
権限委譲ですべてが解決するわけではない。とくに、行動の主体がそのコストを引き受けない場合、あるいは利益を手にできない場合には、権限委譲はうまく機能しない。
- 鎖構造
そしてほぼ全員が、自分が最初に注目した問題にこだわり、それを解決する戦略を提案している。
アイデアが思い浮かぶプロセスは自分ではコントロールできないのだから、そのアイデアがうまくいったら大いに喜ぶべきである。ただカーネルは、戦略が一つの要素では成り立たないことを思い出させてくれる。
といった点があった。
ミッション・ビジョン経営みたいなやつについて
もちろん目標やビジョンは人生において大切なものではあるが、それだけでは戦略とは言えない。
という記述もあるようにビジョンといったものの存在意義を完全に否定しているわけではないが、実際のところピーター・センゲを名指しでかなり激しめに批判しているので、こき下ろしていると言っても差し支えないように感じた。 ピーター・センゲの主張は自分が勉強してきたような知識体系では前提とされている節があるように思っているので、なかなか鮮烈だった。
批判の主旨としては、センゲの主張はいわゆる引き寄せの法則の焼き直しであり、この本が説いている「良い戦略」の欠如を促すものである、ということだと思う。
実際のところどうなのか、と言われると、正直自分にはよく分からない。 自分がセンゲの主張について知っていることは学習する組織 を読んだ - 下林明正のブログがほぼすべてだし、時間も経っているのでおぼろげにしか覚えていない。
強いて言うなら、直感的には、ルメルト的なアプローチとセンゲ的なアプローチの両方が必要という気はしている。
というのも、精度の高い「診断」をするには知能と知識が必要としたとき、特に知識については一般的に専門分業化が進んでいる都合上必要な要素だけでもすべてを把握するのはかなり難易度が高くなっていると思われるので、限定合理性の問題が顕著に現れる可能性がありそう(だから、知能と知識の両方を兼ね備えた天才的な存在の市場価値が高いという話でもある)。 なので、フィードバックをかける系として組織があってもいいような気がする。それが組織じゃなくても良いのかも知れないが、他に何なのかはパッと思いつかない。
また、戦略を実際に実行することを考えると、ルメルトはあまり戦略の実行に関して言及をしていないように感じているので、実際にはセンゲが指摘しているような問題は起きそうだし、対処が必要そうに感じる。
一方で、ルメルトが懸念しているような良い戦略の不在は、実際のところ起こっていて、決定的な要因にもなっているように思う。
今はそれ以上は考えられてない。
ちなみに
なんか昔近しいテーマの記事を読んだ気がするな、と思って探したら
という記事を発掘した。 別にルメルトが~センゲが~という話ではなさそうだけど、話題としては近そうなので貼っておく。
自分の感想
読み終わった感想としては、耳が痛い話が多く有益だった。けど一方で、煽り成分はやや高め、事後孔明感も拭えない、といった印象もあった。 また繰り返しになるが、戦略を実際に実行する難しさについてはあまり記述が無いようにも感じた。
あとは本筋ではないが、自説を補強するための歴史や事例の引用が多くて、個人的にはそれらも結構おもしろかった。
- マケドニアのアレクサンドロス王: ヒストリエじゃん
- GE: 良くビジネス書に出てくるヤツ。多分今自分が感じているよりも本国や歴史ではもっと重要なのだろうという雰囲気がある
- ニューソート運動: 自己啓発の教科書 を読んだ - 下林明正のブログでも見かけた
- スターバックス: そもそもコーヒーにまつわる文化的な違いを知らなかったのでおもしろかった
- 啓蒙時代: 最近チ。(アニメ)を楽しんでいるので、アレじゃんとなった
などなど、そんな調子で読んでた。
ただ、全体的にはやや補強の文量が多くテンポは良くないように自分は感じたので、読み進めるスピードは遅かった。 いい本だと思うけど、あまり軽い気持ちではオススメできない。
ちなみに、新作も出ているようだけど自分は未読。
本の帯を見るに、芸風は変わってなさそう。 また戦略について学んだり考えたりしたくなったら読んでみたい。