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清水正『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(7)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(7

 

三島由紀夫イエス・キリスト
――〈九〉の秘密――

 三島由紀夫イエス・キリストを意識していたことは『仮面の告白』を読めばわかる。『仮面の告白』の主人公は夜の〈九〉時に生まれている。問題は〈九〉である。古代ユダヤ人は午後三時を〈九〉時としている。この〈九〉時はイエスが十字架上で息を引き取った時である。『仮面の告白』の主人公が〈九〉時に生まれたという設定は、この主人公がイエスの死んだ〈九〉時に誕生したことを意味している。今まで誰も指摘してこなかったことだが、『仮面の告白』は「一九四九、四、二七」で終わっているが、この日付が問題である。
 日付で作品を終わらせているのは『天人五衰』も同じである。「昭和四十五年十一月二十五日」がそれである。これら二つの日付が重要なのは、これらを数秘術的減算(二桁以上の数を一桁に還元する方法)すると〈九〉になることである。わたしはかつて宮沢賢治論でこの〈九〉について徹底して言及したが、今回の『山川方夫三島由紀夫』でも〈九〉の発見があった。三島由紀夫が割腹自殺したのは〈昭和四十五年〉で〈九〉、〈昭和四十五年十一月二十五日〉(45+11+25=9+2+7=18=1+8=9)で〈九〉、『天人五衰』で本田繁邦は六十年ぶりに月修寺を訪問するが、その時の年齢は〈八十一歳〉で〈九〉である。これだけ〈九〉が重なるとこれを偶然とみなすことはできない。三島由紀夫は『仮面の告白』の頃から、イエスの死と復活を念頭においていたことがわかる。
 三島由紀夫の「天皇陛下万歳」三唱の後の割腹自殺に、イエスの十字架上の死と三日後の復活が重なる。現人神を返上し、人間宣言した天皇に〈死と復活〉の秘儀はない。三島由紀夫は〈現人神〉の復権を自らの自決を通して体現しようとした。が、一度返上された〈現人神〉が〈神〉となることはない。明晰な論理の人であった三島由紀夫は自決の茶番をだれよりもよく認識していたであろう。四十五歳〈九〉で死んだ三島由紀夫は、同時に〈九〉(八十一歳)の本田繁邦として生き続けている。
(詳細は『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫』の第二部「三島由紀夫の事件と文学」の11「〈八十一歳〉になった本田繁邦」と12「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎」に書いてあります)
2026/01/16 16:47

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(6)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(6)

 

 山川方夫は三十四歳で交通事故で亡くなった。高校時代の一年後輩のSは妊娠七ヶ月の妻を残して交通事故で亡くなった。Sは高校の二階校舎のテラスの上を歩いたり、その頃から死の毬を抱き抱えていた風であった。車の免許を取ってすぐにSはわたしをドライブに誘った。筑波山を昇る途中、崖から落ちそうになった。かろうじて死は免れたが、死はいつもSの傍らにあった。Sは写真家をめざしていたが、どこまで本気だったかはわからない。わたしが二十歳前後の頃、深夜、よくSの部屋を訪れた。Sの部屋でわたしは何枚か写真を撮られた。その一枚を紹介しておこう。ドストエフスキーで頭をいっぱいにしていた頃のわたしである。



 高校入試の日、中学時代の恩師Iが交通事故で亡くなった。Iは数学の教師で、四時限目を担当していた。授業が終わるとわたしはIを相手に「時間は繰り返す」などを話した。Iはいつもわたしの話を黙って聴いてくれた。わたしはIに「私が望む教師像」の作文を書いて渡した。Iの交通事故死を聞いてわたしは呆然とした。
 山川方夫の小説を読み、批評しながらわたしはSとIのことを思い出していた。人生の途上で命を失う者がある。事故死とはなんだろう。Sの場合、それは事故死を装った自殺のようにも思える。Iの場合はまったく検討がつかない。わたしは自分の話に夢中で、聞き手の心中を察する余裕はなかった。おそらく三十前後であったろうIの教師としての前途を思えばひどく無念である。
 彼ら二人に共通していたのは孤独である。孤独に死の衣装をまとわせたような雰囲気を漂わせていた。生きることよりも死の方へと引き寄せられる何かを抱えていた。山川方夫の存在にも共通したものを感じる。
2025/12/25 14:36 

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(5)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(5)

 山崎行太郎の『小説山川方夫伝』は山川方夫の文学を愛する者の必読の著作である。わたしはこの著作を読んでわたしなりの山川方夫論を書こうと思った。この著作に出会わなければ『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫』の執筆はなかっただろう。わたしはそれまで内村鑑三を中心にした批評を展開していたのだが、それを中断して山川方夫論にとりかかった。
 わたしとしては、『山川方夫三島由紀夫』を読む前に是非とも山崎氏の著作を読んでもらいたいと思う。それに山川方夫の作品のうち『海岸公園』と『最初の秋』の二作品も読んでおいてもらいたい。
 副題に「ドストエフスキー文学に絡めて」とあるように、わたしの山川方夫論、三島由紀夫論には、ドストエフスキーの作品が頻出する。『地下生活者の手記』『罪と罰』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』などを読んでいれば理解は深まるだろう。
 今回、山川方夫の宿痾(てんかん)についても考察したが、ドストエフスキーの初期作品にはてんかん者が多く登場する。日本においてドストエフスキーは詩人(萩原朔太郎)、小説家(横光利一坂口安吾椎名麟三)、評論家(小林秀雄埴谷雄高)など多くのひとに読まれてきたが、あんがい初期作品は読まれていない。ドストエフスキー研究をライフワークに掲げた小林秀雄すら初期作品を批評することはなかった。
山川方夫三島由紀夫』では詳しく語ったが、ドストエフスキーてんかんは〈緑色〉と深く関わっている。山川方夫の作品にもてんかんを連想させる〈緑色〉が出てくる。ドストエフスキーてんかん病理と初期作品との関係に関しては二十代の時期に徹底して考察したので、わたしは山川方夫の描かれざるてんかんと〈緑色〉に注目したが、おそらくふつうの読者はもちろんのこと「山川方夫と私」を書いた江藤淳も気づくことはなかっただろう。おしなべて江藤淳の批評方法では山川方夫の水平的磁場に秘められた秘密を発見することはできない。小林秀雄江藤淳の肉眼的眼差しは対象の深淵を直観することはできても、それをまざまざと具体的に見ることも語ることもできない。
 小林秀雄は文学青年を巧妙にたらしこむレトリックを駆使してドストエフスキー論を展開したが、こういった批評方法ではドストエフスキー文学の深淵に直面することはできないのである。不可避的に小林秀雄ドストエフスキーから離れていかざるをえなかった。晩年、小林秀雄ドストエフスキー研究から離れた理由の一つとしてキリスト教が分からなかったとこくはくしているが、要するにこれは小林がキリスト教と闘うことを回避したことを意味している。こういった点に関して詳しいことを知りたいひとは、わたしの小林秀雄論を読んでいただきたい。
2025/12/19 13:18 

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(4)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(4)

 

 スマホやパソコンで動画を見ているぶんには精神を緊張することはない。最も精神集中を必要とするのは原稿執筆、次いで読書ということになろうか。
 今年の六月に村上玄一氏から彼の編集した『太宰治非戦小説集』(幻戯書房)が送られてきたので、暇な時に気まぐれに眼を通している。太宰治は高校時代に読んで影響を受けたが、その後腰を据えて読むことはなかった。例外は「津軽」でこれは結婚して子供ができた頃読んだので泣けた。太宰治の小説には深く心に訴えかけてくるものがある。
 今日は風呂上がりに「メリイクリスマス」を読んだ。「いつの時代でも本当の事をいったら殺されますわね、ヨハネでも、キリストでも、そうしてヨハネなんかには復活さえ無いんですからね」という箇所に鉛筆で傍線を引いた。わたしが常日頃考えていることと同じで共感したからである。
 村上氏はあとがきで太宰治三島由紀夫野坂昭如について次のように書いている。

  三島由紀夫(一九二五―一九七〇)が、自分の書いた小説世界の中を生き、その小説世界を追いかけるように死んでいった作家だとすれば、野坂昭如(一九三〇―二〇―五)は、小説を書くために生まれてきたような作家だ。そして太宰治(一九〇九―一九四八年)は、小説を書くために生き、小説を書くために死んだ作家だった。

 村上氏は学生時代から野坂昭如の文学に心酔し、卒業後は編集者として野坂の本を多く刊行している。日芸の教員時代は三島由紀夫研究のゼミ雑誌も刊行している。村上氏とわたしは日芸の同期生で、いわば同じ時代を生きてきたわけだが、文学に対する好みで共通するのは太宰治だけである。ふしぎなことだが、わたしは彼と太宰治をはじめ、三島由紀夫野坂昭如の作品について語り合ったことが一度もない。わたしが「「江古田文学」編集長時代はしょっちゅう酒を飲んでいたのに、である。
 尤も、わたしが酒席で話す小説家はドストエフスキーのみで、ほかの小説家の出る幕はなかった。
 今回、村上氏のあとがきを読んで野坂昭如山川方夫と同じ昭和五年生まれであることを知った。その意味では二人の小説家の共通性もあると感じたが、それを確認する気持ちはない。ただ、あとがきを読んで太宰治の『晩年』だけは半世紀ぶりに読んでみようかと思った。
2025/12/18 19:30
 

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

 

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正著『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(3)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(3)


近況報告に絡めて
 今のマンションに住むようになって丸十二年になる。二ヶ月ほど前にエアコンが故障してしまった。急遽、自宅から掛け布団を運んでもらったり、ヒーターを購入したりしたがほとんど部屋の暖房には役に立たない。動画で派手に広告宣伝していたヒーターを二台(約一万円)購入したが、届いた現物を見てアゼンとした。まるで百円ショップで売っているようなシロモノだった。ここまでくると怒りよりも笑ってしまった。検索してみると、怒り心頭に発して裁判に訴えている者もいる。ネットでの詐欺広告の取り締まりもこれからの課題となるだろう。
それにしても近頃、動画やティックトックの映像を見ていると事実とAIの区別が難しくなっている。先日(十二月十三日)、我孫子のレストラン、コビアン2で新著『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫』の出版パーティも兼ねて教え子三人が集まってくれたが、その席でもAIのことが問題になった。レポート執筆にAIを使用するのは当たり前のことになっているらしい。パソコンが流通し始めた頃にも同じような問題が取りざたされたが、AIの急速な進化によって知的職業(医師、弁護士、裁判官、教師、著述業など)に就いている者にとっては脅威となるだろう。知識量とそれに基づく判断は、人間の頭脳よりAIの方がはるかに優れている。
 これからの人間は、自分よりもはるかに優秀なAIに向けてどのような問いを発するかにかかっている。要するに〈問い〉を考え出せない人間は、AIの奴隷的位置に甘んじるしかない。
 さて、故障したエアコンのことだが、実は今日、業者が来て一時間ほどで新品と交換していった。ありがたいことに、これで快適な暮らしを取り戻すことができた。わたしは左腹部の神経痛で冬でも上半身裸で暮らしている。下着や上着を身につけるとこすれて痛みが増すのである。エアコン故障中は上着を二枚も着込んで寒さをしのいでいたが、今日でこの煩わしさからも解放される。
 わたしは湯船につかっての原稿執筆以外は、大半の時間を床に横になっている。パソコン各種動画、スマホ各種動画、読書に時が流れていく。起きるのは一日に二回の食事時と洗面トイレの時のみである。前にも書いたが、一年かけて『山川方夫三島由紀夫』を書き上げたはいいが、校正で疲れ果てたので、今しばらく原稿執筆は控えている。とは言っても、湯船では次に出版予定の本の校正をのんびりとやっている。
 わたしが愛用しているポメラには、執筆したままで発表していない原稿が千枚ほどある。これらの原稿もいずれ何とかして発表にこぎつけたいとは思っているが、どうなることやら。
 さて『山川方夫三島由紀夫』だが昨日15日に予定通り発売の運びとなった。どういうひとたちが読んでくれるか明確な予想はできないが、山川方夫の文学に興味と関心を抱いているひとには是非読んでもらいたい。山川方夫の抱え込んでいた〈虚無の白い風〉は、敗戦後八十年経った今も多くの日本人の内部世界に吹いているはずである。
 山川方夫三島由紀夫の文学世界をドストエフスキーに絡めて批評したので、彼らの文学の深淵をのぞき込むことも可能だろう。
2025/12/16 16:09

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

 

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正著『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(2)

清水正の著作の購読申込、連絡、問い合わせなどありましたら下記のメールにご連絡ください。
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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(2)

  本書を執筆する直接的な契機となったのは山崎行太郎の『小説山川方夫伝』(反時代出版  二〇二四年七月)を読んだことである。このことは本書の最初にも触れたが、この山崎著がなければわたしが山川方夫についての本を上梓することはなかったであろう。
 それにしても一つの疑問は、なぜ山崎著が雑誌に発表されてから三十年もの長い間、単行本として出版されなかったのかである。山崎氏はあとがきで次のように書いている。

 

 『山川方夫の生涯』という評伝は、一部では、たとえば、朝日新聞の「文芸時評」(川村湊)に取り上げられるなど、好評だったが、他方では、つまり山川方夫の関係者や山川方夫をよく知る人たちには、不評だったらしい。かなりの顰蹙を買っていたようであった。(中略)アンタッチャブルで、サンクチュアリとしての山川方夫。そこに、ズカズカと土足で踏みこんでいこうとした《田舎者》の新参者が、私だったということである。私としては、早く本にしたかったが、お世話になった『三田文学』の先輩たちの《花園》を荒らすのを恐れて、踏み切れなかったというわけなのだ。

 

 「三田文学」関係者の根強い反対があったかのような書きぶりだが真相はわからない。が、山川方夫の宿痾(てんかん)について、奥野健男が冬樹社版全集の解説で触れたことに関して、江藤淳が「山川方夫と私」の中で生々しい感情を押さえきれずに不満をもらしているのを読むと、山崎氏の山川方夫論もそのまま素直に受け入れられなかった理由もそれなりに分かる。山崎氏の著作には山川方夫オイディプス的野望(父殺しと母子相姦)に触れた箇所もあり、こういった精神分析学的な批評は作者本人はもとより、肉親者や親友たちにとってはあまり気持ちのいいものではない。
 しかし私小説家はたとえフィクション混じりとはいえ、肉親や仲間を素材にして小説をものにするわけだから、そもそも身近な者たちにとっては厄介な存在である。作品を分析批評するとなれば、誰かが嫌な思いをするのを避けることはできない。山川方夫の〈てんかん〉についてすら、表だって話題にできないような雰囲気があったのだとすれば、江藤淳や「三田文学」関係者が山崎氏の批評を素直に肯定できず、単行本出版に際しての無言の圧力となっていたのかもしれない。それにしても、時局的な発言に関しては歯に衣着せぬ毒舌を吐いている山崎氏が「三田文学」関係者に遠慮していたのはどういうことだろう。もし、山崎氏が妙な忖度などせずに、むしろ積極果敢に「三田文学」関係者と論争でもしていたらおもしろかったのにと思うのだが。いずれにしても山崎氏の山川方夫評伝が雑誌発表から単行本出版までの三十年はあまりにも長すぎる。
 わたしは誰に遠慮することもなく、山川方夫文学の深層に踏み込み、そこに潜み隠れたオイディプス的野望を剔抉し、〈てんかん〉に関してもドストエフスキーのそれと絡めながら存分に批評した。山川方夫が三十四歳で事故死(昭和四十年)してから六十年も過ぎた今、彼の〈宿痾〉やオイディプス的野望に踏み込んでも傷つく者はいないだろう。その意味では、今年、昭和100年に山川方夫論を上梓できたことに特別の感慨を覚える。一人の小説家を批評の対象とするだけでも死後半世紀以上の年月を必要とするのだ。
 山川方夫は派手な小説家でなかったし、芥川賞すら受賞していない。わたしは名作『海岸公園』に芥川賞を授けることのできなかった当時の選考委員たちにあきれた。と同時に、山川方夫全集を企画し、それを実現した冬樹社の編集者に敬意を表したい。作品の真価を見定めることのできる編集者や研究者が存在したことに安堵の念を覚えた。
 

 

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

 

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 

清水正著『空っぽの時代に読む 山川方夫&三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(1)

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清水正

空っぽの時代に読む

山川方夫三島由紀夫

──ドストエフスキー文学に絡めて──』

四六判546頁 定価3800円+税  鳥影社

『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』発刊にあたって(1)
 11月28日午後一時、自宅に『空っぽの時代に読む 山川方夫三島由紀夫――ドストエフスキー文学に絡めて――』が届く。著書の刊行は、編著『ドストエフスキー曼陀羅――松原寛&ドストエフスキー――』(2021年2月 D文学研究会)『清水正ドストエフスキー論全集』第11巻(2021年5月 D文学研究会)以来、五年ぶりである。執筆活動は絶え間なく続けており、その大半は「清水正ブログ」に掲載している。が、前記二著の刊行をもってD文学研究会からの発行を停止していたので、今度の本は実に久し振りといった感じがある。
 わたしは執筆にはあまり苦労を感じないのだが、校正は相変わらず苦手である。自分の書いたものを読み直すというのが面倒だし、校正は誤字脱字を意識して探さなければならないのでかなり時間を要する。今回は、集中して校正に当たったのだが、何回読み返しても誤字や引用文の脱落などが発見される。最終の念校(第三校)が、思いもかけず間違いが多く、つくづく校正恐るべしを味わった。翌日、両足がパンパンに腫れていた。そうでなくても水疱性類天疱瘡の治療薬を毎日二回呑み、帯状疱疹後神経痛で一日の大半を横になって過ごしている身にとっては、今回の何時間にもわたる校正はからだに予想もしない負担となったのだろう。幸いにも両足の腫れは翌日には引いたのでホッとした。しばらく執筆を控えることにした。
 今の時代、自分の書いたものを発信するだけなら、「ブログ」でもいいし、電子図書もあり得る。が、著書の重みは紙を素材にした単行本に限る。出来立ての本は、血の通った赤ん坊と同じで、これは生みの親でなくてはとうてい味わうことはできない。この赤ん坊がこれからどのように成長していくのか。わたしは今、〈赤ん坊〉の頭をなぜたり、頬をツッツンしながら、母親の至福の時間にふけっている。

 

 

 

昭和100年(三島由紀夫生誕100年)におくる虚無の書

空っぽの時代に読む
山川方夫三島由紀夫
――ドストエフスキー文学に絡めて――

 

目次


山川方夫の深淵
――『最初の秋』と『海岸公園』を読む――

 1 はじめに――山崎行太郎『小説山川方夫伝』を読んで――
 2  家族構成と家族の確執
 3  母と父との確執
 4 祖父と母の確執
 5 〈私小説〉の事実と虚構――父の愛人と祖父の妾Sをめぐって――
 6 家族制度に呪縛された母と〈私〉の関係
 7 父の死をめぐって――私小説家の創作の秘密――
 8 父と〈私〉の関係――父の死の謎――
 9 〈父の死〉に隠されたドラマ――〈私〉と母の秘中の秘――
 10  〈秘中の秘〉を描く独自の技法1――脳溢血による〈父の死〉――
 11 〈秘中の秘〉を描く独自の技法2――〈意味もなく大声で喚きたい衝動〉に駆られる〈私〉――
 12 〈秘中の秘〉を描く独自の技法3――〈暗い納戸の中〉で交わした母と〈私〉の密約――
 13 〈秘中の秘〉を描く独自の技法4――〈秘中の秘〉と神の問題――
 14 〈秘中の秘〉を描く独自の技法5――母に〈父の死〉を告げる場面(イワンとスメルジャコフの対話場面を想起)――
 15  〈秘中の秘〉を描く独自の技法6――次姉の登場――
 16  〈秘中の秘〉を描く独自の技法7――〈ひどく美しい女〉――
 17  〈秘中の秘〉を描く独自の技法8――オイディプスとイオカステの濡れ場を想起――
 18 山川方夫と世界文学――山川の〈宿痾〉をめぐって――
 19 江藤淳の「山川方夫と私」をめぐって――〈宿痾の病〉と〈新しい文体〉――
 20 『最初の秋』に潜む〈てんかん〉――世界文学と関連づけて――
 21  〈てんかん〉をめぐって――ドストエフスキーの場合――
 22 山川方夫の〈緑〉――宿痾の秘密・ドストエフスキーとの関連において――
 23 次姉の存在をめぐって――【場面X】の恐るべき重層性――
 24 【場面X】――小津安二郎の映画技法にからめて――
 25 水平移動するカメラ――〈どてら姿の少佐〉――
 26 冷静な眼差しがとらえたもの――秩序崩壊と絶望――。
 27 妾と少佐――厳しい現実の受容――
 28 帰途につく沈黙の家族
 29 〈その日〉と〈大晦日の火葬場〉
 30 〈父の葬式の直後〉に展開される醜態――描かれなかった二日間――
 31 海の見える場所――父との〈二人きり〉――
 32 〈膨大な海〉と水平描写に秘められたオイディプス
 33 母と祖父の口喧嘩――虚飾を剥がされた人間の裸像――
 34 母と祖父の対立葛藤――〈こわい女〉の感情の爆発
 35 父亡き後の〈私〉の役割と母の奮闘――〈ぎごちない平和〉の実態――
 36 〈山川家〉の家計の実態――水平的磁場で描かれた世界――
 37 家長としての〈私〉の使命――現実の山川方夫に照らして――
 38 描写の水平的磁場と批評の考古学――祖父からの手紙――
 39 厄介者で自己本位の祖父――調停役を演じる〈私〉――
 40 祖父の条件――調停役〈私〉の非力――
 41 〈エゴイズム〉と〈支配〉――プロレス観戦に見立てて――
 42 〈母〉の秘めたる〈踏み越え〉のドラマ――ロジオンの母プリヘーリアに重ねて――
 43 調停役〈私〉の置かれた現況――〈私〉を支配する〈死の観念〉――
 44 長姉と青酸加里――衝動的な〈思いつき〉・自殺衝動と演技――
 45 長姉の孤独――〈自分の冬のセーター〉――
 46 〈私〉の孤独――〈薄暗い裸電球〉――
 47 〈青酸加里〉と〈黄色い汚染〉――敗戦後の虚無――
 48 敗戦後の空漠さ――天皇一神教の神――
 49 〈自殺〉の回避――山川方夫ドストエフスキーの小説作法の違い――
 50 自殺劇後の〈私〉――長姉の縁談をめぐって――
 51 長姉の〈わがままと不決断〉――〈私〉と長姉の〈二人きり〉の秘密――
 52 一家心中の夢――夢の中の〈死〉――
 53 夢の中で死を免れた存在――友人Kの出現――
 54 〈夢〉から目覚めた〈私〉――家族内存在としての〈私〉――
 55 巨大な赤ん坊――グロテスクな九十歳の裸体――
 56 祖父とファマー・フォミッチ――ドストエフスキーが描いた〈カーニバルの王〉を想起――
 57 カーニバル空間での〈私〉の役割――立会人の〈決断〉――
 58 〈醜怪な我執のかたまり〉――祖父を妾Sの養子宅へ送り届ける〈私〉の煩悶――
 59 記憶の底から蘇る過去の女――やさしすぎる残酷さ――
 60 冷徹な〈私〉の自己分析――書くしかない人間の宿痾――
 61 〈姥捨〉を決意した〈私〉の深淵――〈無感覚な「死」の状態〉――
 62 〈私〉のトラウマをなす原風景――〈立入り禁止〉の海岸公園――
 63 養子夫婦の家にたどり着く――大幅に省略された養子夫婦―― 
 64  祖父を養子宅に届けるまでのプロセス――引っ越し前夜と当日の朝――
 65 引っ越し当日――Sにとっての〈新生〉、祖父と〈私〉の〈二人きり〉――
 66  祖父の狂歌をめぐって――感情の爆発――
 67  感情の爆発後の沈黙
 68  祖父の発した一言
 69  祖父を送り届けた帰り――〈私〉の不安と性の欲望――
 70  〈自分一人〉への逃走――ロジオン・ラスコーリニコフに絡めて――
 71  〈白い風〉が吹きめぐる光景――〈一箇の生けるシカバネ〉とポルフィーリイ――
 72 独りよがりの幻想家――過去の女Kとの思い出――
 73 強風の吹く冬の海岸公園――危機的実存の実相――
 74 私小説家の運命――山川方夫の〈事故死〉――
 75 空虚な実存――〈海〉〈空〉〈風〉〈虚無〉〈空白〉そして〈死〉――
 76 私小説の深淵と叙景――作品のみが〈行為〉――
 77 気丈な〈母〉の肖像――息子の格闘・万年芥川賞候補――

第二部
三島由紀夫の事件と文学

1 山川方夫から三島由紀夫
2 〈いい子〉の兵役回避
3 三島事件――〈檄〉と〈割腹自殺〉――
4 『英霊の声』を読む――天皇殺しと天皇復権――
5 『豊饒の海』を読む
6 本田繁邦――〈輪廻転生〉を信じる〈論理の人〉――
7 『奔馬』の飯沼勲――神風連思想を継承する行動家――
8 『天人五衰』の透――認識を超えて〈見る〉者――
9 〈七十六歳〉の本田繁邦
10 三島の行動美学の欺瞞 
11 〈八十一歳〉になった本田繁邦 
12 「昭和四十五年十一月二十五日」に隠された謎
13 自死の絶対化と延命の本田繁邦
14 『葉隠入門』――常朝のニヒリズムと三島の武士道――
15 『道義的革命』の論理――自分が神様になって所信を貫く――
16 敗戦後日本の大いなる欺瞞――人間天皇下の日本――
17 天皇をめぐる三島由紀夫の〈秘中の秘〉
18 「果たし得ていない約束」
19 天皇イエス・キリスト?――社会学者の論理と文学者の論理――
20 割腹自殺と兵役免除
21 〈いい子〉公威と父梓の関係
22 自分ではない何者かになりたいという欲望――〈空っぽ〉の欲望――
23 〈空っぽ〉の神と一神教の神――不信と懐疑の持続――
24 『地下生活者の手記』――「馬鹿ばかりが行動できる」――
25 『地下生活者の手記』と『仮面の告白
26 「馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ」――本田繁邦と透――

27 「私もひとつ自分の話をしよう」――〈意識的な拱手傍観者〉と〈冒険の案出者〉――
28 「意欲は全生活の発現」――三島事件と〈意欲〉――
29 精神の分裂を招き寄せない三島の〈理性〉と〈意欲〉――予定調和的な人物たち――
30 〈自由意志の法則〉と〈自由〉
31 〈二×二=四〉と〈二×二=五〉――〈AI〉と〈破壊と混沌を熱愛する人間〉――
32 人類滅亡の夢――〈理性と意志を賦与された旋毛中〉――
33 〈ツクリモノ〉としての三島小説――作者の統括下に置かれた人物たち――
34 「何もない」――本田繁邦が見る究極の光景――
35 空虚な実存――人間天皇平和憲法がもたらしたもの――
36 日本人の深遠な〈曖昧さ〉

第三部 
〈何もない〉敗戦後の虚無とピョートルの〈キョム〉
――山川方夫三島由紀夫からドストエフスキーの『悪霊』の世界へ――
1 山川方夫三島由紀夫
2 ピョートルの虚無
3 安永透とニコライとキリーロフ
4 〈見る人〉透と本田繁邦
5 キリーロフの自殺と三島由紀夫の自殺
6 日常化した絶望と虚無
7 対話で浮かび上がってくるドストエフスキーの人物像
8 ニコライの自殺は〈他殺〉
9 ドストエフスキーの人物と三島由紀夫の人物――ポリフォニック的人物とモノローグ的人物――
10 キリーロフの人神思想と三島由紀夫天皇
11 キリーロフの〈永久調和の瞬間〉
12 キリーロフの〈すべてはすばらしい〉とてんかん病理――ニーチェの汎神論的瞬間との近似性――
13 キリーロフと〈十字架にかけられた者〉――ニコライとの対話――
14 ニコライの〈告白〉――少女マトリョーシャ凌辱――
15 キリスト教圏内の小説家とわたしとニーチェ
16 ニコライの虚無とピョートルの〈キョム〉
17 ニコライの〈無限につづく欺瞞の列の最後の欺瞞〉
18 〈生温き人〉ニコライの〈自殺〉――作者の巧妙な仕掛け――
19 わたしの批評方法――テキストの解体と再構築――
20 犯罪行為と〈良心の呵責〉――ロジオンの場合――
21 少女凌辱と〈良心の呵責〉――ニコライの場合――
22 ニコライの夢に現出する〈マトリョーシャ〉――良心の呵責――
23 ロジオンの〈幻〉(видение)――愛による復活のドラマ――
24 思弁家ロジオンの〈復活〉への疑義――罪意識なしの復活――
25 〈観照〉(созерцание)の境地――〈神の風〉に襲撃されたロジオンと思弁にとどまる者――
26 〈本物の幽霊〉を求めるニコライ――現(うつつ)ではないマトリョーシャ――
27 ニコライの実存の特質性――〈自分の意志を完全に統御〉と〈発狂〉〈自殺〉――
28 作品に対する絶対的統括者――ニコライを〈復活〉させなかった作者――
29 ニコライの恐るべき試み――秘められたステパンとニコライの関係――
30 一神教の呪縛から解放された〈凡人の眼差し〉――〈キョム者〉ピョートルの眼差しに重ねて――
31  『禁色』と『悪霊』――南悠一とニコライ・スタヴローギン――
 




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