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『スラデック言語遊戯短編集』ジョン・スラデック

Keep the Giraffe Burning(1977)John Sladek

 この短編集の原題を直訳すると「キリンを燃えし続けろ」(サルバドール・ダリの「燃えるキリン」が響いている)となります。
 絶対、その方がよかったのに、なぜ『スラデック言語遊戯短編集』(写真)などという、堅苦しい邦題をつけてしまったのでしょうか。もしかすると「最もスラデックらしくないタイトルこそ、スラデックに相応しい」という逆説なのかも知れません……。

 ジョン・スラデックはSFブームのとき、ミステリーばかりが邦訳され、SFの単著はこれが日本で初めてでした。その後、長編や短編集がぽつぽつと出版され、最近まで続いているという不思議な作家です。短編集としては、ほかに『蒸気駆動の少年』があります。
 サンリオSF文庫でいうと、R・A・ラファティの系列になるでしょうか。彼らは、一般の読者が好むような「異色作家短篇集」やアンソロジーとは縁がなく、特殊な趣味の持ち主にのみ熱狂的に迎えられるタイプ。

 当時、高校生だった僕には理解不能なSFが沢山ありました。余り面白くないSFはそれ以上に多くて、子どもながらに「この作家は長続きしないだろう」などと生意気なことを考えたものです。
 スラデックは前者だったものの、不思議と詰まらなくはなかったことを記憶しています。

 ただし、半分以上は何をいっているのか分からず……というよりも、なぜこんな変なことを書くのか分からないといった方が正確ですね。何十年ぶりかに読み返してみても、印象は変わりませんでした。
 とはいえ、スラデックのような作家が存在すること自体が、英米のSFの奥深さであると今は思います。正気を疑うようなおかしな小説を書く作家がいて、それをありがたがる読者がいたなんて、どれだけ幸せな時代だったでしょう。
 二十一世紀の人々は、彼の小説に時間を費やす余裕なんてないのかも知れません。いや、案外、熱烈に歓迎されるような気もするので、若い方で興味を惹かれたとしたら、ぜひ読んでみてください。

義足をつけた象」Elephant with Wooden Leg(1975)
 オリノコ研究所に勤める者は皆、精神をやられ、行方不明になったり、自殺したり、施設に収容されたりしています。唯一まともだと思ったヘンリー・ラファージですが、ゴキブリが進化するために協力することになって……。
 ストーリーは分かりやすいのですが、キャラクターとか展開とか会話とかが少しずつおかしいので、最終的に変な方向にいってしまいます。でも、登場人物は誰もが楽しそうです。

人間関係ブリッジの図面」The Design(1968)
 アンドローズは、橋の設計で有名な建築家の伝記を書くため、関係者に会いにゆきます。しかし、殺人事件やスパイに関係する人物が続々と現れて……。
 ごく短い短編ですが、非常に凝っています。大長編のアイディアになりそうなのに、簡潔なメモのような体裁で発表したのが潔いです。僅か数頁で膨大な人物が登場しますが、彼らの関係を図示すると橋の設計図になる点も面白い。さらに、それを用いたオチも効いています。

顔人間」The Face(1974)
 ある日、公園に、体も後頭部もない「顔」が落ちているのがみつかります。これは果たして人間なのか、それとも別の生物なのか、はたまた神託なのか。生物学者、医師、宗教団体などが勝手な主張をしますが、真相はみえません。
 ケクレ構造を提唱したアウグスト・ケクレがウロボロスの夢をみたのと同様、落ちていた顔は語り手のアンダースンのもので、蛇が自分の尻尾を咥えるように、自分の顔を顔に重ねたのでしょうか。ダメだ。自分でも、何を書いているのか分からない……。

マスタープラン」The Master Plan(1969)
 将軍の人生を、九つの異なる時代や書式をバラバラにしてからくっつけたもの。原書は、それぞれ書体が異なるそうですが、邦訳はカッコの使い方が理解できずチンプンカンプンでした。

平面俯瞰図」Flatland(1973)
「人間関係ブリッジの図面」と似ています。多くの人物を描写した断片が組み合わされることで、何となく全体がみえてくるといった短編。パズル好きのスラデックは「囚人のジレンマ」の答えを出していますが、選択肢に死刑がある場合は安全策を取るため、こうはならない気がしますね。

時空とびゲーム」A Game of Jump(1971)
 子ども向けの英語学習用辞書に掲載されている三百の単語と、七つの固有名詞を用いて書かれた短編です。原文をチェックしていないので何ともいえませんが、それが本当なら、小さい子どもも知っている簡単な単語で殺人やセックスを描くのがミソなのですから、翻訳も同じようにして欲しかったです。「関の山」とか「ひと肌ぬぐ」といった表現を使ってしまっては興醒めです。

悪の槌」The Hammer of Evil, or Career Opportunities at the Pascal Business School(1975)
 話はさっぱり分かりませんが、ここでもいくつかの「囚人のジレンマ」が登場します。A、B、Cの三人の囚人がいて、ふたりは絞首刑になり、ひとりは釈放されます。Aは看守に尋ねます。「吊るされる方のひとりの名前を教えてくれ」と。BかCが吊るされると答えた場合、Aが生き残る確率が三分の一から、二分の一になります。看守が答えなかったとしても、ひとりは必ずBかCなので、やはり生き残る確率は二分の一です。果たして、これは正しいでしょうか?
 モンティ・ホール問題と同様、「情報の非対称性」の問題です。どちらもポイントは「事情を知っている第三者(看守や司会者)が、意図的に情報を操作し、質問者本人または当たりを除外して開示している」点です。もし看守が、Aのことなどお構いなしに、三人の名前が書かれたカードからランダムに「絞首刑のひとり」を引いて、それがたまたまBかCであれば、Aが釈放される確率は二分の一に上がります。

密室」The Locked Room(1972)
 スラデックはミステリーになると、俄然読みやすくなります。フェントン・ワースという捜査の専門家がこの度、挑戦するのは現実の事件ではなく、推理小説です。過去に自分が解決した事件を思い返しながら、謎解きを始めるものの……。こちらは密室がテーマだけあって、三重のチャイニーズボックス(入れ子構造)になっています。

いま一度見直す」Another Look(1975)
 既に生命が存在しなくなった惑星の砦に残った暦や本をみている「彼」。やがて、寓話のなかの消しゴムがあらゆるものを消してゆき……。

神々の宇宙靴」Space Shoes of the Gods: An Archaeological Revolution(1974)
 神話や遺跡は、古代に地球へやってきた宇宙人観光客が残したものだという説が展開されます。アルカジイ&ボリス・ストルガツキーの『ストーカー(路傍のピクニック)』みたいな話ですが、遥かに俗っぽいのがポイントです。宇宙人のジッパーとか、サウナとか、おはじきとか……。

アイオワ州ミルグローヴの詩人たち」The Poets of Millgrove, Iowa(1966)
 自分が生まれた町で講演をする宇宙飛行士。といっても、生を受けただけで何の思い入れもない土地です。町の素人詩人が宇宙飛行士を讃える詩を朗読し、飛行士はとても口に出さないような汚い言葉で演説をします。

書評欄」The Commentaries(1969)
 架空の書評といえば、スタニスワフ・レムの『完全な真空』(1971)を思い浮かべますが、スラデックはもっと混沌としています。著者名が微妙に異なる同名の書籍、執拗な回文、作家、批評家、登場人物による剽窃合戦など、何のことやら分かりません。

十五のユートピアの下に広がる天国」Heavens Below: Fifteen Utopias(1975)
 ユートピアに関する、数行から数頁のごく短いショートショートが十五本。スラデックらしく、パズルあり、シュールあり、「普通に」面白いものもあり。

いなかの生活情景」Scenes from Rural Life(1975)
 ロンドンで国際経済アドバイザー会議が開かれ、各国の政治家、経済専門家、記者などが集まってきます。群像劇ですが、何を諷刺しているのでしょうか。

古くなったカスタードの秘密」The Secret of the Old Custard(1966)
 近未来の監視社会(?)。電子レンジのなかからみつかった赤ん坊は敵のスパイで、古くなったカスタードには地図が隠してあったのです。ガソリン戦争勃発前夜の物語……って、何のこっちゃ。

非十二月」Undecember(1966)
 時間は流れているのではなく、静止しているのだから、現在の暦に非十二月を導入して解決しなければいけません。非十二月にはあらゆる記念日が含まれています。17、11、16、8と並ぶ非十二月の記念日をひとつひとつ解説しています。

メキシコの万里の長城」The Great Wall of Mexico(1973)
 米国は、麻薬やポルノ、性病、安い労働力が入ってくるのを防ぐため、メキシコの国境に万里の長城(ハイウェー付)を築く計画を立てます。ほかにも、盗聴好きで暇な老人ホームの入居者を採用した監視システム、暴動の大半は政府の証拠でっちあげ隊の仕業など、荒唐無稽なアイディアが盛り沢山ですが、冷静になってみると、現代と余り変わらない感じがしますね。結末は「万里の長城で核爆発が起こり、老人居住区と精神病棟の人々が何万人も亡くなる。一方、国境は核のバリアで強化される」というブラックなものです。

あとがき」Afterword
 トマス・M・ディッシュとの共同ペーンネームであるカランドラ・ナイ(女性)名義のあとがきです。象は橋に似ていて、それに足や尻尾をつけると亀になったり、象の鼻を輪っかにすると蛇になったりします。この短編集にぴったりな「あとがき」ですこと。

スラデック言語遊戯短編集』 越智道雄訳、サンリオSF文庫、一九八五

→『黒いアリス 』トム・デミジョン

サンリオSF文庫、サンリオ文庫
→『マイロンゴア・ヴィダル
→『どこまで行けばお茶の時間アンソニー・バージェス
→『深き森は悪魔のにおい』キリル・ボンフィリオリ
→『エバは猫の中
→『サンディエゴ・ライトフット・スートム・リーミイ
→『ラーオ博士のサーカス』チャールズ・G・フィニー
→『生ける屍』ピーター・ディキンスン
→『ジュリアとバズーカアンナ・カヴァン
→『猫城記』老舎
→『冬の子供たち』マイクル・コニイ
→『アルクトゥールスへの旅デイヴィッド・リンゼイ
→『旅に出る時ほほえみを』ナターリヤ・ソコローワ
→『』ロザリンド・アッシュ
→『浴槽で発見された手記スタニスワフ・レム
→『2018年キング・コング・ブルース』サム・J・ルンドヴァル
→『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ
→『パステル都市』M・ジョン・ハリスン
→『生存者の回想』ドリス・レッシング
→『マラキア・タペストリ』ブライアン・W・オールディス
→『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ
→『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル
→『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア
→『ジョン・コリア奇談集』ジョン・コリア
→『コスミック・レイプシオドア・スタージョン
→『この世の王国』アレホ・カルペンティエル
→『飛行する少年』ディディエ・マルタン
→『ドロシアの虎』キット・リード




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