昨年2024年7月に、テレビ朝日「テレメンタリー」で、名古屋テレビ放送(メ〜テレ)制作のドキュメンタリー番組「入管ドクター」が放送された(以下のリンクからyoutubeで視聴できる)。
youtu.be
この番組については、以前このブログで批判的に紹介した。
sarutora.hatenablog.com
ブログで書いたように、この番組は、名古屋入管の医療体制が改善されはじめているかのような印象を与える演出になっており、入管法改定を経ても入管の根本的問題点がなんら変わっていないことを隠蔽する役割を果たしてしまっていた。
そして、この番組の続編とも言えるドキュメンタリーが、2月14日に「メ~テレ」で放送されたようだ。こちらもyoutubeで視聴できる。
www.youtube.com
こちらのメ〜テレのサイトでは上記番組の内容がまとめられている。
www.nagoyatv.com
さて、この番組を視聴してみたところ、この番組は、昨年放送された「入管ドクター」と同じく、入管の問題点を批判的に描いているように見えて、逆に入管の根本的問題点を隠蔽する内容になってしまっている、と感じた。
番組の中で、「入管ドクター」間渕医師は、次のような「恩師」の言葉を紹介している。
入管の医師を引き受けた時、恩師の勝屋弘忠医師からかけられた言葉がありました。
「本国に帰らざるを得ない被収容者に、十分な医療を展開して人権を守ることは、日本が世界の国の中で確固たる地位を得ることになるから頑張れと言われた。非常に心にしみた」(間渕さん)
また、別の箇所では、このようなナレーションもあった。
退去強制となり収容された人の健康を帰国の時まで守るのが(入管の医師の)仕事。
これらを見る限り、間渕医師も勝屋医師も、また番組制作者も、「入管問題」とは何かをまったく理解していない、と言わざるを得ない。入管がやってきたこと、そして今もやり続けていることはなにか。それは「本国に帰ることができない被収容者に、十分な医療を提供せず、人権を侵害すること」であり、「そのことによって諦めて帰国する気にさせること」である。これは意図的に行っているのであり、入管の根本的な「方針」なのである。
前回のブログでも紹介したように、2019年の大村入管でのナイジェリア人死亡の後、当時の入管庁長官佐々木聖子は「迅速な送還によって(つまり仮放免や在特や難民認定によってではなく、ということ)長期収容を解消する」と言う方針の継続を宣言している。また、ウィシュマさん事件についての入管の内部調査の「最終報告書」には、ウィシュマさんの仮放免を不許可にした理由が「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」と記載されていたのである。
入管の被収容者が外部の病院の診療を受けた際、付き添っている入管職員が、医師に対し「この人は国に帰る人だから治療は応急処置でいい」というようなことを言った、ということを聞いたことがある。間渕医師らは、そうした入管の態度を批判し、「国に帰る人だからといってちゃんと治療しないといけない」などと言うのだろう。それが医師の責任だ、と。番組はその医師をヒーローのように描く。しかし、間渕医師らの入管批判は、被収容者が全員「国に帰る(べき)人」だ、という前提を入管と共有している点で、入管問題の根本にはまったく触れていない。いやむしろそれを隠蔽する役割を果たすのだ。入管問題の根本は、退去強制とすべきでない人(難民、家族が日本にいる、日本で生まれ育った、長期に日本で働き本国に生活基盤がもはやない、等々)に退去強制令書を出し、その人達を「送還忌避者」などと呼んで、何が何でも帰国させようと固執すること、である。
冒頭でリンクを貼った昨年の番組「入管ドクター」のラストで、間渕医師はこう言っていた。
実際日本で暮らしてくださる外国人、これから増えてきますよね。増えてこないと日本の社会が成り立たなくなってきている。それは皆さん感じていると思うんですけど、そこの中で、やっぱりこういう人はちょっと日本に居てもらっては困るという人が出てくるわけですよ。そういう人たちをじゃあどうしたらいいのか、社会の制度をどういう風にしていくのか、というのを国民全体でもっと考えるような材料を提供しないといけないんだろうなと思いますけど。これって申し訳ない、医者の役目じゃないですね。
間渕医師は、入管に収容されている人はすべて「ちょっと日本に居てもらっては困るという人」だと思っているのだろうか。たとえ「そういう人」だとしても、十分な医療を提供して人道的に扱うことで、日本は「世界の国の中で確固たる地位を得る」と……。だが、繰り返しになるが、入管問題はそんなところにあるのではない。ウィシュマさんをはじめとするおびただしい犠牲者を生んだ入管問題の原因は、「長期収容」にあると入管も認めていた。だからこそ、長期収容を解消するためという名目で反対を押し切って強引に入管法を改定した。だが、長期収容は、退去強制となった人のうちの数パーセントにすぎない「帰国できない人」を帰国させることに固執したこと(送還一本やり方針)で生じた問題だ。「帰国の時まで」無期限に収容できるから、と「帰国の時」がこない人を収容し続ければ、当然長期収容となっていく。
収容施設の中での医療を改善するのは当然のことだ。しかし、入管が、収容施設の中での医療をなぜ、劣悪なままにしていた/いるのか、という意図を見抜かねばならない。そしてそもそも、収容すべきでない人を収容することをやめて解放し、在留資格を与えるべき人には在留資格を与え、医療を必要としている人には必要な医療を受けられるようにすること。こうしたあまりにも当然すぎることができるようになってから、「世界の国の中での日本の確固たる地位」などという戯言を言ってほしいものだ。いまのところそれは、100年早い、としか言えないだろう。
参考:「なぜ入管で人が死ぬのか ~入管がつくりだす「送還忌避者」問題の解決に向けて~」(入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合 事務局、2022年)