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キム・チョヨプ『派遣者たち』

異星からの菌類「氾濫体」によって地上は人類が住める場所ではなくなり、人類は地下都市での生活を余儀なくされている。主人公のテリンは、地上への探索任務を担う「派遣者」になるための試験を受けるが、自分の頭の中に生じた謎の声に悩まされる、というSF長編。


チョヨプ作品は以前、キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』 - logical cypher scape2を読んだことがあり大変面白かった。本作については【今週はこれを読め! SF編】地下都市の秘密と菌類が覆われた地上の奇観〜キム・チョヨプ『派遣者たち』 - 牧眞司|WEB本の雑誌において

さまざまな様態をした氾濫体が蔓延る地上の光景が圧倒的だ。オールディス『地球の長い午後』の菌類バージョン、あるいはマックス・エルンストの傑作「雨後のヨーロッパ Ⅱ」を彷彿とさせる奇観である

という紹介のされ方をしていて、気になっていた。


色々面白い作品だったが、読み終わってからブログ書くまでに時間があいてしまって、うまく言語化できなくなってしまった。
どこからどう読んでも紛うことなきSF作品ではあるけれど、SF設定をゴリゴリ説明するタイプではないし、物語のプロットも起伏に富んでいて(全部で4パートに分かれた構成がそのまま起承転結になっていて、かつパートごとにちゃんとアクションがある)、するすると読めるタイプの作品である。
また、文字通りのお話として読むことも出来るし、共生をテーマに寓話的に読むこともできるのではないだろうか。

プロローグ
第一部
第二部
研究日誌
第三部
エピローグ

物語は全部で三部+α構成になっている。
まず、主人公のチョン・テリンが派遣者試験を受けていく過程を描く第一部、第一部のラストでとんでもないことを起こしてしまったテリンが、非常に危険な任務を受けて地上に出ることになった第二部、テリンの過去が明らかになる+α部分(「研究日誌」という章になっている)、そして、ここまでで明らかになったことが積み重なってクライマックスへと至る第三部である。


主人公のチョン・テリンは、子どもの頃に、ジャスワンに預けられた孤児である。
ジャスワンのところには同じような事情のソノがいて、テリンの姉のような存在である。
テリンは、イゼフ・ファロディンという派遣者のことを「先生」と呼んで慕っており、いつか先生とともに地上に赴くために、派遣者を目指している。
地上には、氾濫体と呼ばれる菌類のようなものが跋扈しており、これに感染すると氾濫化する。地上の動植物の多くが氾濫化している。人間が感染すると錯乱症という病気になるため、人類は地上で暮らすことができなくなっている。
人によって氾濫化への耐性の程度が異なり、耐性が高いと派遣者になることができる。
ソノとテリンは2人とも耐性が高い。


テリンは、成人後は一人暮らしをして派遣者になるための試験勉強に励んでいる
ソノは、地上や派遣者に対する憧れは特になく、ジャスワンのもとで暮らしているが、氾濫体に対する鋭敏な感覚があり、子どもの頃から、地下都市の周縁部などを探検して遊んだりするのが好き
第一部では、テリンが幻聴のようなものを聞き始めるところから始まる。幻聴だけでなく、脳内に何かがいるような触覚的な感覚もある。この世界では、多くの人がニューロブリックなる記憶補助装置を付けているが、テリンは手術をつけたが不適合であったため、これの残滓が悪影響をもたらしているのではないか、と仮説をたてている。
一方、ソノは、最近、謎の振動が都市の外から来ていることを察知しており、これの正体を子どもの時からのノリで調べようとしている。
テリンは、脳内の謎の存在に対して、「ソール」という名前をつけて対応することに。
ソールは時折人知を超えるアドバイスのようなことをして、テリンの試験を助けてくれることもあったが、基本的には、テリンにとっては邪魔な存在である。
そして、最終試験でテリンはソールによって決定的な問題行動を引き起こされてしまう。


拘束されたテリンだが、イゼフの尽力により、なんと派遣者試験合格者として扱われることになる。
その代わり、死ぬ可能性もある危険な任務にアサインされる。
ベテラン派遣者であるマイラ、派遣者であるが専ら地下で研究任務に従事しているネシャットと3人で、テリンは、地上基地の候補地となる場所への調査に赴くことになる。
目的地として知らされていた座標は誤っているものであったが、テリンは、振動が別のところから来ていることを感じる。
沼に到着するとそこには、氾濫化しているにもかかわらずなお生きている「沼人」たちがいた。
そこにはかつて行方不明になった、ジャスワンの弟、スーベンがいた。
テリンは、氾濫体と人間との間に共生の可能性があることを知っていくことになる。
そして、ソールの正体についても……。


氾濫化しても錯乱症にならないことがある、というのは、過去、子どもの事例があり、それをもとに極秘の実験施設が作られていた。
テリンやソノはそこの出身であり、イゼフは一時期、そこの実質的な責任者となっていたことがあった。


第二部や研究日誌は、ほとんどテリンの話で、ソノはあまり出てこなくなるけれど、第三部で再びテリンとソノの話になるのが、よかった。
地下都市というのをうまく使った動きのある話でもあった。


「午後のおしゃべりルーバックス」というラジオ番組(海賊放送?)が、物語の中でうまく使われている。


氾濫体や沼人のネットワーク的な知的生命体のあり方についての描写はもう少し踏み込んでほしい気もしたが(でもリーダビリティという点では必要十分だとは思う)、一方で、テリンの脳内に居着いたソールという存在の描き方は独特で面白かったと思う(脳内で声が聞こえる、というのはよくあるが、脳内で触覚的に存在を感知する様子はオリジナリティある描写のように思った)
派遣者が、氾濫化した地上に対して相反する感情(憧れと憎しみ)を抱く、というあたりもなんかよかったなあ。イゼフが、最後はまあ、敵役のポジションになってしまうわけだけれども、彼女の動機の善性みたいなものは保たれていて、単純すぎず、複雑すぎず、登場人物のキャラクターや感情が描かれていたなあ、とか。




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