昭和レトロなラブホテルを巡り始めて6年になる。昨年どうしても見ておきたいというベッドを見てひとつ区切りがついてしまいこれから先のモチベーションの保ち方について少し悩んでしまった。
まだまだ行ってみたいホテルは多々あるのだけど、何年も恋焦がれ旅程を組みやっと見られたときのあの興奮をそう何度も味わえないという現実となんとなく向き合ってしまったのである。それほどに輝かしいホテルたちを見てきたのだなと思う。
2月、とある未訪のホテルが閉業すると知った。
ホテル名については伏せておく。
閉業から解体まで時間があったホテルが荒らされてしまったことがあり、荒らされず静かに眠らせてあげたいという気持ちがあるからだ。
もちろん閉業するホテル名を公開するしないは個人の自由なので誰も責めるつもりもこうしろというつもりもないと断りを入れておく。
私がぼんやり悩んでいる間にも時代は流れ昭和が終わっていく。うかうかしている場合じゃないと冷や汗をかいた。閉業の報を聞くまでなぜここに行かなかったのかと自分を恥じる。
はじめまして、じゃあさようならというのは散り際の顔を冷やかしに来たような気がしてしまう。ホテルへの引け目を感じたためせめてもの誠意を見せようと思いここに泊まることにした。
今まで訪問してきた昭和レトロなラブホテルは全て休憩で利用している。「泊まれば?」「なんで泊まらないの?」と聞かれることが多々ある。
ラブホの部屋に一晩籠もることにちょっと抵抗感がある。
空調が効かなかったり水回りがちょっと苦手だったり潔癖症な部分が受け付けない部分がしばしばあるし、窓がない部屋というのは結構な恐怖だったりする。
ビジホや観光ホテルの大浴場に行ったり自販機で物珍しいものを買ったり外を散歩してみたり夜風に当たったりするほうがいい。
そういう理由で避けてきたことを、このホテルで初めて経験してみようと思った。実際泊まれるか?という自問自答は2日ほど続いて覚悟を決めた。
閉業まで勤務の都合で1日しか休みが合わせられず、職場の最寄り駅のコインロッカーにスーツケースを詰め込み定時ダッシュを決め新幹線に飛び乗った。
闇夜に現れる城のような外観。

ムード歌謡が似合いそうな昭和のお城。

これから朝までこの部屋で過ごすわけだけど不思議と圧迫感も違和感も何も感じなかった。長い良い夜の始まり始まり。
空調があまり効かないことを伝えると従業員さんが毛布と掛け布団を追加で持ってきて下さった。昭和の母のような世話焼きでとてもありがたく何度お礼を言っても足りない。
冷えるので浴槽にお湯を溜め入る。

見慣れぬナイーブのボディーソープがよかった。
浴室の窓を開けていると通路からいきものがかりのSAKUSAが聞こえてきて過ぎてきた時間の重さを感じた。浴室内の真っ白な湯気に包まれてタイムスリップしたような気分。
風呂上がりに持参したナイティを着てベッドに横になる。昭和ラブホとやっとちゃんと向き合って肌を合わせられた気がした。

毛布と布団の重みを感じながら目を閉じる。少し寝ては目が覚め寝返りをうち微睡む夜。ふと見た夢はラブホに行く夢だった。眠れないだろうと想定して行ったので夢をみたのには驚いた。時間の流れもよく分からないまま気づいたら窓の外が明るかった。

やっとここまで来られたという達成感に満足している。少しだけ距離をとろうとしたラブホに身を預ける心地よさを痛感した。

朝シャワーを浴び、簡単な朝食をとって支度をし、一晩の城に別れを告げる。1分1秒たりとも取りこぼしたくない貴重な時間だ。
ここで一晩過ごしてみて思っていた以上に快適に過ごせたのは日々この部屋を丁寧に清掃していることがよくわかったから。古い建物といえどこんなに快適に過ごせるのは従業員さんたちの努力の賜物だろう。これがどんなにすごいことか声高に語りたいくらいだ。人の丁寧な仕事というのは美しい。そういう部分に触れられたこともよかった。
帰り際「長い間ありがとうございました」と閉業前の挨拶を頂き、長い間素敵な空間を維持してくださりありがとうございましたと答えたかったが言えなかった。時代の流れを悔やむことも止めることも何もできない無力さをずっと抱えている。自分の責任で守りきれないものに対して寂しいと言うことすらおこがましい。
積み重ねた時間だけが愛だとするなら丁寧に向き合いたい。ここをずっと守ってきてくれた人、導いてくれた人、色んな重なりがあって過ごせた夜をずっとずっと忘れないでいたいの。
