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音はつき『はじめまして、夢交換手の川崎です』レビュー #PR

【※本記事は、MPエンタテイメントレビュアー企画として書かれたものです。】

book.mynavi.jp

 2025年の現代を舞台にした物語ではなかなか出会うことはありませんが、海外の古い映画を見たり、小説を読んでいると、ときおり登場人物が部屋にある受話器を手に取って、けれども電話番号を直接ダイヤルやプッシュしてかけるのではなく、いったんどこかの局に声がつながったのち、その受け手に「○○さんのところにつないでくれないか」と伝えるシーンに遭遇することがあります。

 申し出を受けた側は電話をかけてきた人の回線と、つなげたいと言われた人の回線を文字通り、ケーブルでつないでみせます。すると相手のところまで連絡が通じるようになり、ようやくほんらいの目的である通話がはじまっていく、といった手続きが挟まれるのでした。そして、この離れたところにいる人と人を仲介し、電話の線をつないでみせるのがかつて〈電話交換手〉と呼ばれた職業でした。

 ですがもし、ふだんわたしたちが眠っているあいだに見る夢、そこに知人や友人、恋人、あるいは家族が現われるという出来事もまた、見えない〈交換手〉の手によってつなげられた結果だとしたら、どうでしょうか。

 このような小さなイマジネーションから芽吹いたかのように、人と人のあいだにある、ふとすると夢のようにすぎ、次の瞬間には消え去ってしまう淡い関係の綾を、音はつき『はじめまして、夢交換手の川崎です』という作品は描こうとしています。

 タイトルにもある「川崎」という人物は、現代の日本において存在されていないとされる〈夢交換手〉という職業につく男性であり、この物語の主人公のひとり・川崎亘のことです。

 ここで語られる夢交換手の仕事とは、眠っているあいだに見る人の夢と夢とをつなぐことで、悩みやストレスを抱えている人間に立ち直るきっかけを、あるいは精神的なケアを(知らず知らずのうちに)与える行為です。作中ではとある人物から「マッチングシステムみたいな?」といった言われ方をしていますが、まさしくそのようなバランサーでありつつ、顔の見えない仕事でもあります。

 ただひとつ、夢交換手には、ふつうの人々とは異なる状態に置かれることも作中では語られています。川崎亘は、外面的には大きな商社の社員という肩書きになるのですが、しかし所属する課は社内においても知られておらず、彼自身も配属されるまで、その存在を知ることはありませんでした。

 なぜならば、夢交換手になってしまうと、ごく限られた相手(家族・同僚)を除き、その人はだれの記憶にも残らない存在となってしまうからです。

 現実に、面と向かって人と話しているあいだは認識されていても、その場から離れたとたん、相手の記憶からは霧散してしまう。川崎は、仕事の意義は理解しつつ誇りに思うことはできていても、いまだに自分がだれの記憶にも残らない存在である、という立ち位置の受け止め方に、いまだ迷っている人物でもあるのです。

 しかしそんな彼があるとき、夢交換手の仕事のなかで、とある人物の夢のなかに自分が「出張」する必要があると判断します。その相手こそ、この物語のもうひとりの主人公といえる、谷中凪沙です。

 彼女は生まれつき、自分の夢のなかにだれひとり他者が出てくることがない〈孤夢症〉という状態に悩まされていました。だれかとおなじ夢を見ることができない。そのような違いを、だれにも相談できずにいました。川崎は彼女の夢に現われて、タイトルとおなじように「はじめまして、夢交換手の川崎です」と挨拶をします。そしてこのふたりが夢のなかで出会うことで、物語にすこしずつ、変化が生まれていくのです。

 さて、本作に登場する印象的なフレーズに「雑誌で読んだけど、夢に出てきた相手ってね、自分に会いたいと思っている人なんだって!」というものがあります。これはおそらく平安時代の人々の「夢」についての感覚を念頭に置いた記述だと思われます。

 百人一首にも、この「夢」で会うことを歌ったものがあることをみなさんはご存じでしょうか。それは、藤原敏行朝臣によって歌われたとされる、

住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ

 という和歌です。解釈に自信がないため、複数のサイトを以下に貼ります。

www.karuta.or.jpogurasansou.jp.net

 平安時代にも〈夢交換手〉にあたる存在がいたかどうかは作中の記述からは判断できませんが、ひるがえって現代でのコミュニケーションを考えるとき、たとえばメッセージのやり取りや通話、SNSに写真をアップロードすることと、本作における「夢」というものの描かれ方はパラレルに置かれているように思えます。

 いま現在、インターネットや電話回線といった通信技術の発達、スマートフォンの普及は、多くの人と、即座につながることができる環境をわたしたちに与えてくれています。しかしそのいっぽうで、だれかとつながっていないことに対しても、より人々を敏感にさせたようにも思います。

 ほんとうに恋人が自分のことを思っているのなら、メッセージにすぐ気づいて、既読にし、n分以内にはなんらかの返事を送ってくれるはずだ、といった期待や、投稿から24時間で消えるSNSのメッセージ(そのじつ、読まれる/見られることを意識している)、あるいは友達だと思っていたのに、自分の知らないところで動いているチャットグループが存在していたことへのショックなど、さまざまなかたちで、つながっていることと、つながっていないことは、表と裏、同時に発生する事態だといえます。

 ですから『はじめまして、夢交換手の川崎です』はそのような、他者とのつながれなさを常に意識しながらも生きている人々の、ささやかで、けれどだれもが持っている切実な希求の物語である、といえるはずです。

 この文章を読んでいるあなたもぜひ、今夜はそのような夢について考えながら、眠りについてみてはいかがでしょうか。

 

 

エンディング:三浦透子Precious Memories


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