書きそびれていたので、また書く。
- 作者: 大島真寿美
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2016/11/25
- メディア: Kindle版
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むろん、現在残っている資料をもとにした小説であっても、わずかな文章からその人物の生い立ちをすべて書けるわけではないので(仮に周辺人物への聞き取りがあったとしても)、作者が架構した「ツタ」という人物造形はおそらく空想の部分が多いと思われる。女学校時代の話や、その後の教師生活、結婚生活。そのなかにときおり、不安定といっていいような熱のこもりかたをした心情が押し寄せ書くことへの情熱へとつながってゆき、しかしやがてそれも自分の周囲との温度差や軋轢によって失われていく。そういうと、どこかありきたりな言い分に聞こえてしまうのだけれども。
とはいえ、その一度終わったものを周囲が掘り返したことによって後天的に、あるいは決定的に与えられた称号がたぶん、現代を生きるひとにとってのツタ≒久志芙沙子のイメージで、それは同時にこの小説の肝ともいうべき部分にもなっている。けれども全体を俯瞰してみると、ところどころ見え隠れするように、彼女の感じたささいな違和や他者とのズレという部分はリフレインされているのであって、むろんそれは最後まで頁をめくった読者との間にも生まれている。
極論をいえば、彼女(作者でありツタ)が何度か記述している「ユタ」の概念を読者である自分は最後まで把握できなかったし、そこに代入するような概念も持ち合わせていない。それでも人物記としては成立するし、そのように消費できるのだと思う。
- 作者: 藤井光
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/03/09
- メディア: 単行本
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反対にいえば、それさえつかめればかなり刺激にあふれた内容の本だといえる。書名になっている「ターミナル」は駅ではなく国際線のある空港のことで、どの国であってもその内部で見ることのできる光景はあまり変わりがないという。たしかに、つるつるとした光沢のあるタイルに電光掲示板、コーヒーショップ、そして書店にはハルキ・ムラカミの文字。こうしたグローバル化した世界のイメージを糸口にして、藤井は「ターミナル言語」としての英語について言及する。藤井の訳す作家の多くは母語を英語としていない。第二言語で英語を使っているからだ*3。彼らはそうした英語を駆使して、いわゆる20世紀的なアメリカ像からすこし離れた、どこかポップで寓話的な物語を描き出している。
けれどもそのいっぽう、ポップな風景からすこしピントをずらすだけで、あまり希望の見えない世界が映ってくるということもいえる。それは荒れ地としてのアメリカだ。自己矛盾に満ちた行動原理や先行きの見えない状況、紛争地域での混乱。「俺はなにをしているのか?」という自覚的な問いかけは、『煙の樹』や『ビリー・リンの長いハーフ・タイム』(『ビリー・リンの永遠の一日』として昨年訳された)などの戦争を扱った小説で特にその顔立ちをつよくしている。残念ながら両者とも自分はまだ読めていない。『ビリー・リン』のほうは『ブロークバック・マウンテン』や『ライフ・オブ・パイ』のアン・リー監督によって昨年映画化されたが、日本での公開は未定とのこと。
- 作者: 東浩紀
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2016/08/05
- メディア: 文庫
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主な主張としては、ネットから離れることはできない、ましてやSNSは関係性を強めていくツールであるのだから、逆にこっちがネットをうまく利用していくためにはどうしたらいいか、という考えを、各国(おもにアジア諸国)を旅した経験をもとに語るというもの。モノに直接触れる経験(グーグルストリートビュー的な瞬時切り替え可能な経験ではない)を通して、一か所にとどまっているような生活では得られない検索ワードを手に入れることがその解決策として提案される。おそらくこうした態度が「観光客」の哲学につながっていくと思われるのだけれど、いっている内容はかなりまっとうなインターネットとのつき合い方であるので、どのように哲学としてつながっていくかは見当がつかない。
ただ、前述の藤井光先生は『ゲンロン0』を読んでどこか共感するところがあったらしいので、おそらく氏の提唱する「ターミナル言語」のもつニュートラルなツール的(あるいは意図的なズレをはかっていく)性質は、「観光客」の一か所から移動していく性質と似た側面を持っているのは比較的想像ができそうだと思う。
- 作者: 白鳥士郎
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2015/09/25
- メディア: Kindle版
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- 作者: 佐藤信夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/06/05
- メディア: 文庫
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- 作者: カツヲ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2015/04/24
- メディア: コミック
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- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2016/03/03
- メディア: Video Game
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*1:Webジェイ・ノベル|実業之日本社の文芸webマガジン -「J-novel」〈書くこと〉を物語に 大島真寿美-
*2:経緯については滅びゆく琉球女の手記:沖縄文学館で簡潔に書かれてある。
*3:いわゆる世界共通語的なニュアンスでの英語ではなく、表現ツールとしての言語に近い。