ヨアキム・トリアー監督『センチメンタル・バリュー』を見た。
オスロで激しいステージフライトに悩みつつ舞台女優として活動しているノーラ(レナーテ・レインスヴェ)と幸せな家庭を築いている研究者アグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)の姉妹は母を亡くす。長年会っていなかった父親で有名な映画監督であるグスタヴ(ステラン・スカルスガルド)がこれをきっかけに久しぶりに戻ってきて、ノーラ主演で新作映画を作りたいと言い出す。父とうまくいっていないノーラが断ったため、グスタヴはハリウッドスターであるレイチェル(エル・ファニング)主演で英語で映画を作ることにするが…
トリアーとレインスヴェが組んだ『わたしは最悪。』は正直全然好みではなかったのだが、これは断然良い…というか、「若い女性の人生をリアルに描きます」ぶったところがなく、きちんとしたアンサンブルキャストの家族ものになっていて引っかかりがなく見られた。ただ、メインの女性キャラクターよりも男性キャラクターのほうが複雑で面白いキャラクターなのは前作と同じ…で、たぶんキャラクターとしてはグスタヴが一番複雑である。グスタヴはたぶん素晴らしい映画監督で、撮影中は役者やスタッフに対してとてもサポーティヴだし(いわゆるハラスメント監督ではない)、できた成果物としての映画も出来が良い。しかしながら父親や友人としてはかなりダメで、ちゃんと娘たちの面倒をみなかったし、小さな孫の誕生日プレゼントにギャスパー・ノエの映画のDVDをプレゼントするというようなイカれたじいさんである。映画に家族を出演させるとか、家族が主題の映画を作るといったことをしないと家族や親しい人に対して気持ちを示せないし、撮影が終わるとそのままフェードアウトしてしまう。つまり自分の芸術の中にだけ人生を見出している人である。これは娘たちのみならず撮影監督ペーター(ラース・ヴァーリンニェル)に対するなかなかひどい態度にもあらわれている。そんな男がそれでも家族が出る家族についての映画を作ることでなんとか家族に対する一種の愛情を表現しようとするというのがこの作品の面白いところだろうと思う。言ってみれば全てがホームムービーに収斂するみたいな映画である。