ナショナル・シアター・ライブでロバート・ハスティ演出『ハムレット』を見た。
セットや衣装はたいがい現代風だが、ハムレット(ヒラン・アベイセケラ)は舞台上演の場面などではエリザベス朝風の襟をつけている。台本はカットが比較的少ないほうで、Q1にしかないガートルード(アイーシャ・ダルカール)とホレイシオ(テッサ・ウォン)がハムレットからの知らせを聞いて相談をする場面などが残してある。一方で劇中劇の黙劇がカットされていたりする。
全体的にけっこうあまり見かけない風変わりな演出も多く、好みは分かれそうなプロダクションである。ハムレットはちょっと中性的であまり男男していない現代っ子の王子様で、なぜかブロックバスタービデオのロゴ(アルメレイダ監督版『ハムレット』のオマージュだと思う)とか'Tobacco and Boys'(これはシェイクスピアの仕事仲間だったクリストファー・マーロウが生前、タバコと若い男に夢中だったという噂にひっかけてある)という文字が書かれた服をだらっと着ており、ホレイシオとはオタク仲間みたいな距離感だ。ユーモアのあるハムレットで、私が今まで見た中ではデイヴィッド・テナントとパーパ・エシエドゥの中間という感じがする。オフィーリア役は『モルフィ公爵夫人』が大変良かったフランチェスカ・ミルズが演じており、このオフィーリアは最初からちょっとハムレットとベタベタしていたり、かなり現代的なはつらつとした女性である。
いくつかあまり見たことのないけっこう面白い演出があり、全体的にハムレットが比較的まともな人…というか、狂気の度合いがわりと低めで、そんなにテンションが高くない優しそうな若者である。「尼寺へ行け」の場面では、序盤のハムレットが驚くほど優しそう…というか、通常はかなりイカれた感じで言うこのあたりの台詞をハムレットがまるで心底好きな女の前で困っているみたいな感じで言っていて、不穏な感じはあるがあまり暴力的な印象は受けない。ところがどこかにポローニアス(ジョフリー・ストリートフェイルド)が隠れていると感づいた時点でハムレットはオフィーリアに裏切られたとばかり、まるで火が付いたように怒り出すという展開で、ハムレットがオフィーリアに捧げている恋心がわかる一方、監視されたくないという気持ちが爆発するところとのギャップが良い。また、ポローニアスは役者達を紹介するところで歌まで歌っており、全体的にわりとおちゃらけた面白いおっさんである。ハムレットがポローニアスを殺すところはほぼ完全に事故で、ハムレットがびびって手当たりしだいに銃を撃とうというような身振りをしたら幕の後ろにいたポローニアスに当たってしまったみたいな演出になっている。ちょっと不思議な演出で、たぶんハムレット自身は撃った自覚すらないのになぜかポローニアスが死んでえらいことになるので、ここのハムレットはその前の場面に比べるとかなり精神が混乱していて自らの行為がよくわかっていないと思われる。