『ランニング・マン』を見た。スティーヴン・キングの小説の映画化で『バトルランナー』(1987)のリメイクである。
近未来(と思われるが、ソーシャルメディアが発達していなくて紙のジンやビデオテープを使ってるのにドローンはあったりして、1980年代レトロフューチャーみたいな感じの世界観である)のアメリカが舞台である。主人公のベン(グレン・パウエル)は組合活動や労働条件改善の訴えのせいで仕事をクビになり、小さな娘の薬もろくに買えず、お金の工面のためテレビの残虐リアリティ番組『ランニング・マン』に出ることにする。『ランニング・マン』は追っ手から逃げて生き残れば莫大な賞金が得られるが、見つかったら殺されるというショーである。ベンはあの手この手で隠れて生き延びようとするが…
個人的には『バトルランナー』はいかにも1980年代テイストのぬるいアクション映画で全然好みではなかったのだが、こちらは原作にもう少し忠実で、たいぶスティーヴン・キングっぽい映画になっている。テーマは企業の強欲や拝金主義なので大変現代にそっていると言えるし、国民皆保険がない社会で何が起こるかということでアメリカ社会に対する辛辣な諷刺でもある。もう少しうまくできたでしょ…というところはたくさんあり、車を乗っ取る終盤のくだりから一番最後までの展開はいろいろすっ飛ばしすぎだし、2時間以上あるので、もうちょっとクリアに整理すべきだと思う。また、これは『ジョーカー』でも思ったのだが、ソーシャルメディアが発達していていない世界観でバイラルビデオみたいなものを見せようとするのはちょっと無理では…という気もする。とはいえ、まあエドガー・ライトの諷刺アクションコメディとして悪くはない。『ラストナイト・イン・ソーホー』や『ベイビー・ドライバー』よりは面白かった。
ライトの映画っぽいと思ったのは、途中で最近のYouTubeテレビ番組考察動画に若干『スクリーム』フランチャイズのノリを足したみたいなビデオ番組シリーズが出てくるところである(どうやって頒布しているのか謎だが、地下レンタルビデオネットワークがあるのだろうか…)。このビデオ番組では『ランニング・マン』の大ファンが出演者を分類して分析しているのだが、出演者をHopeless Dudes, Negative Dudes, Final Dudesに分けており、ベンはFinal dudeだという会話がある。これは明らかに最近日本語訳が出たばかりで1992年刊行の『男と女とチェーンソー』に出てくる「ファイナルガール」に関する議論をもじったもので、さらに通常は女性であるファイナルガールのジェンダーを変えている。こういうちょっとメタなホラーオタク知識みたいなものが実にライトっぽいところだし、たしかにこの作品は80年代に作られた『バトルランナー』に比べるとだいぶスラッシャーホラーっぽく、「なんでそこでシャワー浴びるんだよ」「なんで全裸で逃げるんだよ」みたいな、明らかに昔のスラッシャーホラーで女性の身体がフェティッシュ化されていたことをパロっているような描写がある(シュワルツェネッガーの昔の映画とかもパロっている気がするが)。ベンがそのへんのワーキングクラスの若いお父さんにしては筋骨隆々すぎるのも、スラッシャーホラーの昔のファイナルガールが田舎町の垢抜けない女の子にしてはみんな巨乳で美人すぎることのパロディと言える…のかもしれない。このへんのジェンダーステレオタイプも含めたジャンル映画のお約束のパロディというのはライトがスリー・フレーバー・コルネット3部作や『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』では多少試したがその後はやっていなかったことだと思うので、そこはライトらしさが戻ってきたように思う。