ニコラス・バーター演出『ピグマリオン』をブリリアホールで見てきた。
『ピグマリオン』は原作の展開と違う形に魔改造され、ヒロインのイライザがヒギンズとくっつくという戯曲を素直に読むとあり得ない感じの展開で上演されてしまうことも多いのだが、これは原作どおりである。それどころか全体にまったくロマンス風味がなく、ヒギンズ(六角精児)とイライザ(沢尻エリカ)の関係は擬似的な父と娘か、偏屈な親戚のおじさんと姪みたいな感じである。ヒギンズは初老の域に入り始めたソーシャルスキルゼロの変人なのだが、前からやってみたいと思っていた英才教育によく反応し、さらに自分の面倒もみてくれる賢くて可愛い娘分が急にあらわれ、調子こきまくった末にどんどんダメ親父になる…というような感じだ。ピカリング大佐(平田満)は、いろいろ無知なところはあるがそれでももっと優しく若者に気を使える父親がわりという感じで、ヒギンズと2人で子育てしているみたいに見える。最初のイライザはまるでネグレクトを受けて育った子どもみたいな感じで年のわりに極めて幼いのに、最後は完全に大人の女性で、ヒギンズの性差別的で子どもっぽい面を理解してそれに反逆できるくらい成熟した知性と精神の持ち主になっている。全体としては子育てをしてこなかった男ふたりがちゃんと子育てされていなかった女性を教育するという、遅れてきた子育てみたいな物語に見える。
イライザ以外の女性脇役陣がかなり強いのも良かった。ヒギンズ邸の家政婦であるミセス・ピアース(池谷のぶえ)がかなりしっかりしていて、さすがのヒギンズもミセス・ピアースには一目置いていて、言うことはきかざるを得ない。ミセス・ヒギンズ(春風ひとみ)も上品だが性格のはっきりした世慣れた女性で、浮世離れした息子の問題点を冷静に指摘する。このふたりがイライザを助けてくれるという女性同士の連帯が強調されている演出だと思う。セットや衣装もしっかりしていたし、原作に忠実で現代的なところもあり、大変楽しめた。