『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン 』を配信で見た。ライアン・ジョンソン監督のブノワ・ブランシリーズ新作である。
元ボクサーで試合中に人を死なせてしまった後、カトリックの神父になったジャド(ジョシュ・オコナー)はろくでもない同僚をぶん殴ってしまい、ニューヨーク州の田舎にある教会に配置換えされる。この教会ではカリスマ的な神父ウィックス(ジョシュ・ブローリン)の周りに保守的な信者たちが集まり、妙なコミュニティを形成していた。ところがウィックスが突然、殺されてしまい、ジャドが容疑者になる。そこに現れた名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は…
アメリカ特有の、カリスマで保守的な教会コミュニティを作るタイプのヤバいカトリック神父(イギリスとかアイルランドでヤバい神父というと『テッド神父』みたいな方向になると思う)が殺され、教会コミュニティの偽善性があらわに…という内容である。ブノワ・ブランシリーズ第1作目はニューイングランドの金持ち、第2作目はテク長者みたいな人たち、第3作目は保守的なカトリック教会…ということで、ライアン・ジョンソンはアメリカ社会の保守的で政治力がある連中をこのシリーズでとことん諷刺する路線を貫いているようである。しかしながら本作ではキリスト教じたいはバカにされていない…というか、ブランは無神論者みたいだし、カリスマや扇動に頼った伝道や不寛容につながる抑圧的な教会体制は徹底的に諷刺されているが、自信がないものの人に親切にしようという心がけはあるジャドは良い聖職者として描かれており、信仰を持つことじたいは尊重されている(そういう点では『ブック・オブ・クラレンス』なんかにも似ている)。とくにジャドは、前2作については美女がつとめていた、ブランが選んだ善玉アシスタント役として出てきており、真面目な信仰を持っていることがポジティブに描かれている。
なお、教会で殺人が…というのは英国ミステリの定番ではあるのだが、この作品に出てくる教会はニューヨーク州のアップステートのどこか田舎にあるという設定らしいのだが、全然建物がアメリカらしくない…というか、かなりイングランドっぽい。そういうわけで調べてみたところ、建物の外観はイングランドのハイビーチにある教会を使って撮影したらしい。このへんはアメリカっぽくしようという努力すらあまり見受けられず、英国ミステリに対する意図的なオマージュなのかもしれない。