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蛇の道vsキリスト教~『ズートピア2』(ネタバレあり)

 『ズートピア2』を見た。

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 前作の直後、ウサギのジュディ(ジニファー・グッドウィン)とキツネのニック(ジェイソン・ベイトマン)は警察官としてパートナーシップを組むことになったが、潜入捜査に失敗した様子が報道され、ズートピアの笑いものになってしまう。ジュディは気象をコントロールするウェザーウォールの100年祭ガラにヘビが不法侵入し、ウェザーウォールを作ったエブニーザー・リンクスリーの日誌を盗もうとしているのではと推測する。ジュディとニックはガラに忍び込み、ヘビのゲイリー(キー・ホイ・クァン)が日誌を盗もうとしているところを見つけるが…

 『ズートピア』に比べるとちょっとコメディ色が薄くなっているようにも思えるし、あいかわらずノワールっぽいすっ飛ばしは健在で、なんでジュディがいきなりガラで日誌が盗まれるとわかったのかとか、雪まみれだったはずのレプタイル渓谷のお天気は最後にどうやって調整されたのかとか、いろいろ脚本に疑問点はあるのだが、バディものの警察スリラーとして楽しめる映画ではある。Burning ManならぬBurning Mammalフェスが作中で行われているところはけっこう笑えた。

 お話のほうは、全くそういうつもりはないと思うのだが昨今のパレスチナ問題を思わせるような展開だった。ヘビのゲイリーの一家は実は昔レプタイル渓谷に住んでいたが、金持ちのリンクスリー一家の策略のせいで爬虫類たちはみんなズートピアから追い出されてしまったため、ゲイリーが家族の名誉を回復し帰還するために工作をしているという設定である。これはイスラエルによるパレスチナ人の追放を思わせる一方、ジュディの声をあてているジニファー・グッドウィンはイスラエル支持者であり、「民が戻る」話だというのはイスラエル人としては自分たちの話に思えるところがあるのかもしれない。一方でアメリカ先住民の話なんかにも見えなくもない。かなり一般的な文脈の話であり、いろんな状況を想起させる展開ではある。

 しかしながら私が非常に気になっているのは、これが追放されたヘビを呼び戻す話だということだ。まずヘビというのは聖書でイヴを騙して楽園追放を引き起こした張本人であり、忌み嫌われている不吉な動物だ。私が4月まで住んでいたアイルランドにはヘビがいないのだが、聖パトリックがヘビを追い出したからいないのだという伝承があり、キリスト教の力によって排撃される対象である。さらに英語圏には「人間に変装したヘビ人間などの爬虫類型宇宙人が人類を支配している」というけったいな陰謀論も存在しており、とにかく爬虫類、とくにヘビというのは人間のコミュニティにこっそり入り込んで悪さをする存在という位置づけだ。

 一方で中国や日本など東アジア文化圏ではヘビは比較的縁起がいい…というか、怖がられている一方、脱皮して再生するので豊穣を体現する動物とされたり、抜け殻とか置き物なんかが金運アップに効果があるなどと言われていたりする。今年は巳年で、わざわざこのタイミングでヘビがプロットのポイントになる作品を公開し、さらに中国系・ベトナムアメリカ人であるキー・ホイ・クァンがゲイリーの声をあてている…ということは、この作品は明らかに中国など東アジアの市場を狙った作品だ。これは日本語吹き替えだとわかりにくいかもと思うのだが、キー・ホイ・クァン演じるゲイリーのしゃべり方は大変ソフトで不安そうで、実際のクァンの年齢からするとかなり若作りで、いかにも若くて未経験でちょっとナードな雰囲気の東アジア・東南アジア系の移民の若者という感じがする。そういうところを考えると、これはどっちかというとアメリカにおける東アジアや東南アジア系移民の苦労(チャイナタウンの破壊とか日系人強制収容、ベトナム戦争終結後の移民など)を想起させる話として出されていると考えてもいいような気がする。ゲイリーの曾祖母アグネスはウェザーウォールを開発した技術者だったのに功績を奪われたという設定なのだが、アジア、とくに東アジア地域の出身者についてはアメリカではテク系の才能があるというステレオタイプがあり、そのへんを下敷きにしているようにも見える。そう考えると『ズートピア2』は、東アジア・東南アジア系のヘビが聖書の楽園に等しいズートピアから騙されて追い出されたが、名誉が回復されて帰還する…という、キリスト教的なヘビ表象を読み替える復楽園の物語と言える。気楽に楽しめる話だが、実はわりと宗教的に入り組んだことをしようとしている話なのかもしれない。

 なお、一点非常に気になったのは陰謀論ポッドキャストをやっているビーバーのニブルズ(フォーチュン・フィームスター)のキャラクターだ。どういうわけだか最近のアメリカ映画では『ブルービートル』とか『ヴェノム:ザ・ラストダンス』とか、無害な陰謀論にだけハマっているオタクみたいなのが出てきてけっこうヒーローを助けてくれることが多い…のだが、実際に無害な陰謀論だけにとどまっている人がそんなに多くはないこと(だいたいどんどんヤバいのにハマる)、陰謀論は相当な実害を社会に及ぼしていることを考えると、こういう陰謀論者にもいい人はいるよ!みたいなのはどうなのか…と思う。なんというかたぶん陰謀論のロマンチックな部分というのはSFオタクなんかの興味を惹くものでもあるのでこうなるのだと思うのだが、あんまりいい傾向だとは思わない。




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