スパイク・リー監督『天国と地獄 Highest 2 Lowest』を見た。黒澤明『天国と地獄』のリメイクなのだが、もともと『天国と地獄』はアメリカの警察小説『キングの身代金』が原作である。
舞台は現代のブルックリンである。かつて音楽界を席巻したが、今はジリ貧のスタッキンヒッツレコーズ創設者であるデイヴィッド・キング(デンゼル・ワシントン)はビジネスで難しい決断を迫られており、会社を買い戻すために大金を工面したところだった。ところが息子トレイ(オーブリー・ジョゼフ)が誘拐されたという連絡が入る。しかしながらこれは人違いで、実際に誘拐されたのはデイヴィッドの腹心である運転手ポール(ジェフリー・ライト)の息子でトレイの親友であるカイル(イライジャ・ライト)だった。
リーは黒澤の真似は意図的に避けており、新しいサスペンス映画としてそんなに悪くはないし、ワシントンやライトの演技は良い。とはいえ、前半は鉄道を使ったサスペンス、終盤は戦後のヒロポン中毒の実態をけっこうリアルに描いたノワールみたいな感じで飽きさせない『天国と地獄』に比べると劣るな…と思えるところがけっこうある。とくにトレイの誘拐が人違いだとわかるまでのプロセスが長すぎて、捜査が本格的に始まってから人違いだと判明しており、いったい警察は何をやってるんだ…と思ってしまった。犯人周りの描写の緊迫感も黒澤の映画には負けると思うし、音楽映画でもあるわりにも序盤のクラシックの使い方とかがちょっとわざとらしい気がした。終わり方もいきなりやたらと歌が上手い歌手(アヤナ・リーという新人ミュージシャンらしい)が出てきてなんとなく綺麗にまとまったように見せて終わり…というのはちょっと強引ではという気がする。同じ黒澤リメイクでも、わりと忠実ながらもかなりイギリスらしい話にして新鮮味を出していた『生きる LIVING』には全く及ばないのではと思った。