新国立劇場で『ヴォイツェック』を見た。ゲオルク・ビューヒナー作の有名な戯曲をジャック・ソーンが翻案したもので、髙田曜子翻訳、小川絵梨子演出である。仕事の関係で招待だった。
かなり原作の設定が変更されており、舞台が冷戦中のベルリンになっている。北アイルランドからベルリンに配置換えになった隊の軍人ヴォイツェック(森田剛)は、アイルランドから連れてきた内縁の妻マリー(伊原六花)と生まれたばかりの赤ん坊とともに、肉屋の上にあるボロボロの貸間で暮らしている。ヴォイツェックはあまり精神の状況が良くなく、不安に苛まれているが…
えらい深刻な話で、見ていてかなり憂鬱な芝居である。全体的にめちゃくちゃ嫌な雰囲気で、ショッキングな場面もそこそこあるのだが、個人的にはとくにマリーのところに上官の妻マギー(伊勢佳世)が訪ねてくるところは別に暴力とかは無いのだが本当にいたたまれない…というか、絶対に家に来てほしくない人だと思った。原作は痴情のもつれに関するもうちょっとメロドラマチックな作品なのだと思うのだが、この翻案はメンタルヘルスやトラウマの話になっていてあまりメロドラマっぽさは無い。
ただ、ひとつ設定で気になったのは、1980年代にイングランド人のイギリス兵がアイルランド人の内縁の妻をドイツの駐屯地まで連れていけるのかな…ということだ。正式に結婚していないので軍人宿舎に住めないという設定なのだが、そもそもシェンゲン協定もない時代に、長期にわたって住む場合は結婚していないとビザが出ないのではという気がしなくもない。このへんの時代考証は正確なんだろうか…