ゲン・ジュン監督の『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』を試写で見た。
舞台は中国のかなり北にある田舎町(たぶん監督の育った鶴崗市?)である。大餅の配達業をやっているシュー・ガンは若いボーイフレンドであるシャンチュエンに捨てられるが、ひょんなことから既婚者であるジャン・ジーヨンに出会う。一方、アブとリウ・インのレズビアンカップルはシャンチュエンとその新しいボーイフレンドを巻き込んで妊娠を計画するが…
ゲン・ジュン監督は黒竜江省のジャームッシュと呼ばれているらしいのだが、モノクロの画面といいオフビートなユーモアといい、まったくジャームッシュの子孫という感じである。この間『フォーチュンクッキー』を作ったババク・ジャラリ監督もジャームッシュっぽいと思ったが、ワールドシネマにおけるジャームッシュの影響というのは極めて大きいのかもしれない。また、ウォン・カーウァイっぽさが感じられるところも多少あると思った。
タイトルからわかるようにモーパッサンの『ベラミ』からも影響を受けているらしい…のだが、この映画には全然、美男美女は出てこない。そこらへんにいそうなあまりパッとしない風貌の人々が出てきて全然カッコよくないことをするのだが、そこに人間らしい魅力があるというような作品である。タイトルは逆説的なもの…というか、ロマンスものの映画が役者の見た目にこだわりすぎていることをちょっと諷刺するような意図が感じられる。
全体に中国における同性愛者への抑圧が色濃く反映されている作品で(中国では公開されないだろうと思う)、登場人物は自分が同性が好きであるというアイデンティティはそのまま受け入れている一方、世間的にはひたすらこれを隠さないといけないという厳しい事実となんとか折り合いをつけていこうとしている。とはいえ暗い作品ではなく、全体にユーモアあふれる内容だ。シュー・ガンとジャン・ジーヨンのロマンスは、こんなにアートハウスっぽいジャームッシュ風味でなければ、中年の恋を描いたちゃんとしたロマコメとして通りそうな感じで、かなりよく練られている。一方でレズビアンカップルの脇筋はちょっと戯画的…というか、大胆で強烈なアブとリウ・インが健康な精子を得るためとんでもない条件を課してくるというのはちょっとカリカチュアっぽいスラップスティックコメディになっていて、主筋のロマンスほど練られているわけではなく、若干トーンに差があって統一感は減っているように思った。とはいえ全体としてはよくできたクィア映画だと思う。