東憲司翻案・演出による『リア王』の翻案『慟哭のリア』を配信で見た。
舞台は明治期の筑豊炭田地域である。炭鉱主として成功している室重セイ(岩崎加根子)は3人の息子たちを相続人として財産を処分しようとする。しかしながら息子たちの思惑や関心はセイとは全く違うところにあり、一家は崩壊に向かって突き進むことになってしまう。
話じたいはけっこう『リア王』に近いのだが、富国強兵の時代の日本を舞台にしており、日露戦争を控えた日本政府の意向や筑豊地域の貧困問題などが絡んでくるかなり複雑な翻案である。この種の翻案としてはかなりスケールが大きくて力の入ったもので、そのまんま大河ドラマかなんかになりそうなお話だし、方向性は違うがちゃんとした日本の歴史ものに…というところでちょっと黒澤明の『乱』も思い出した。先日の『リア婆』もそうだが、主役にあたるリアがおじいさんからおばあさんになっており、家母長として息子たちを守ろうとしてはいるのだが本人のわがままな性格もあってうまくいかず…というような展開になっている。しかしながら原作のリア王に比べると、セイはもう少し世間が見えているというか、頑固者で衝動的なところはあっても一応、息子たちの性格などは把握している感じがあり、そこが伝統的な肝っ玉母さんらしいとも言える。セイ役の岩崎の演技は大変良く、やはりリア王役は性別を問わずいろんな実力ある俳優が老境になった時にやってほしい役だと思った。
ただ、配信で見たのでところどころ暗い場面やたくさんの人がしゃべる場面などではややわかりづらいところがあったと思う。去年はアイルランドにいたので実演が見られなかったのだが、ライヴで見たほうがきっともっとずっと面白かっただろうと思う。