『サタンがおまえを待っている』を見た。
1980年代に北米で起こった、悪魔教信徒が子どもを組織的に虐待しているというデマから起こったパニックを扱ったドキュメンタリーである。ミシェル・スミスという女性が催眠によって思い出した虐待の記憶をローレンス・パズダーという精神科医が聞き取って本にした『ミシェルは覚えている』という本がきっかけでそういう話が広まった。この話は大々的にメディアで取り上げられ、各地で同じような虐待を訴える人が出て、保育園などで逮捕者が出たり裁判が起こったりしてえらいことになったらしいのだが、後にほとんどが虚偽の記憶であるとわかったらしい。
この映画はその過程を追っているのだが、流産で精神が不安定になった女性、変わった症例で有名になりたい医師、目新しい治療で手っ取り早く儲けたいが能力も医療倫理もあまりないセラピストたち、スキャンダラスなことが好きなメディア、自分たちの影響力を高めたいカトリック教会の思惑が絡んでおおごとになったという感じである。一番えらいめにあったのはもちろん虚偽記憶のせいで逮捕された無実の人たちなのだが、たぶん次に迷惑を被ったのはわけがわからないうちに子どもを虐待していることにされたサタン教会(アメリカでちゃんと宗教法人として活動している)の人たちで、この作品でもサタン教会の重鎮だったブランチ・バートンが出演して『ミシェルは覚えている』に訴訟を起こした話などを披露している。
複雑な思惑の絡み合いを見せていてけっこう面白いのだが、一方でちょっと掘り下げられていないと思うところもある。まず、もっとカトリック教会をツメるべき…というか、自身の影響力を増すために社会不安を煽ったカトリック教会がめちゃくちゃ悪いし非常に腐敗しているように見えるのだが、ちょっとこの映画はそのへんのツッコミが甘いように思った。当時のカナダのヴィクトリアにおける宗教的な背景とかにも言及して教会のやり口をもうちょっと明らかにしたほうが面白いと思う(カナダのカトリックだということに何かポイントがあるような気がする)。また、保育園で子どもが虐待されているとかいう話しが広まったのは、女性が子どもを保育園などに預けて働くことへの反発が背景にある気がするのだが、これもほぼ触れられていない。