ブリッジシアターでニコラス・ハイトナー演出『リチャード二世』を見てきた。
現代の服装による上演で、リチャード(ジョナサン・ベイリー)は序盤はスーツに冠をかぶっており、終盤ではグレーの囚人服みたいなしょぼくれた格好になる。たぶんコカインを思われる粉末でしょっちゅうハイになっており、場面が少しカットされていることもあって王妃よりも男性の寵臣とイチャイチャして過ごすほうが楽しいと思っているように見える。めまぐるしく気分が変わる王様で、この気分の変化がちょっと面白おかしい…というか、最初の決闘をいきなり止めるところなんかでも笑いが起こっており、ムードの緩急やギャップでおかしさを醸し出すみたいな演出である。
全体的にはこの『リチャード二世』はギャップを強調をする演出と言っていいかもしれない。ベイリー演じるリチャードは、着ているものはわりと真面目で地味な感じなのに、私が今まで見たリチャードの中でもとくにものすごく大げさで芝居がかっている…というか、衣服に似合わない派手な台詞回しとかスーツからこぼれ出るキャンプなカリスマ性みたいなものがかえって面白いし、なんとなくリアルでもある。ベイリーのリチャードは、ちょっと風変わりな美しさにこだわるところがあったデイヴィッド・テナントはベン・ウィショーのリチャード二世に比べると、見た目はスーツの真面目な王様として王座に適応しているのだが、特権に浸って育った末、自分にはこれが許されるはずだ…という確信に裏付けられたわがままさとか甘えみたいなものがある。
このギャップが強く出てくるのがイングランドに上陸する場面である。ここは久しぶりに祖国の土を踏んだリチャードが感動する場面…であるはずなのだが、このプロダクションでは上陸する浜辺がゴミだらけのきったない吹きだまりみたいなビーチである。こんなところでリチャードが心底嬉しそうに地面を触って喜びの台詞を言うのが、リチャードの自分を演出せずにはいられない派手な性格を感じさせてとても可笑しいし、一方でイングランドが全くないがしろにされている不穏な情勢(海洋ゴミの掃除すらちゃんとされていない)をも感じさせる演出で、けっこういいと思った。
そしてこれは完全にネタバレになるのだが、リチャードがなんと頭突きで鏡を割るのは見たことがない演出で、個人的には極めて面白かった。わざと自分の顔を傷付けるような行為をするというのが、このプロダクションのリチャードの気分が安定しない感じには非常にピッタリである。最近、この場面のこの演出について論文を書いたばかりなので余計興味深かった。