マックス・ウェブスター演出、ドンマーウェアハウスで上演された『マクベス』の映像版を映画館で見てきた。
美術はだいぶコーエン版『マクベス』の影響を受けている感じで、真ん中に真っ白な四角い台があるだけでほとんど小道具も使っていない。主要な役以外は、台の後ろに座っている役者たちがとっかえひっかえいろんな役をやる感じで、魔女なんかは全員で演じている。かなり音響をいじっているようで、役者は全員マイクをつけており、ライヴ上演でもお客はヘッドホンで音を聴くシステムだったらしい(これ、ライヴ上演で効果があるのかはちょっとよくわからない)。
一方でキャスティングについてはちょっとレイフ・ファインズとインディラ・ヴァルマのバージョンを思わせるところもある。ファインズとヴァルマは夫が妻より10歳くらい年上だったのだのだが、このプロダクションでもマクベス役のデヴィッド・テナントはマクベス夫人役のクシュ・ジャンボより10歳以上年上である。最近は夫よりも若くてゴージャスなマクベス夫人が年上の夫をそそのかして…みたいなのが流行っているのかなと思うのだが、テナントとジャンボのマクベス夫妻はファインズとヴァルマのマクベス夫妻とはだいぶ違い、最初は愛し合いよく理解しあっているのだが、次第にコミュニケーションがうまくいかなくなるみたいな感じで演出されている。とくにマクベス夫人が途中でマクダフ夫人と話すところは原作からはかなり変更されている場面で、この後にマクベス夫人は夢遊病になってしまうので、最初は野心満々だったマクベス夫人がだんだん事態が手に負えない状況になってしまったために心を病んで…というのがはっきりわかるようになっている。冷たいようでいてどこか愛らしく人間らしい気持ちが捨てられないマクベス夫人と、どんどん野心をつのらせて残虐になる一方、良心の呵責も抱えていて、それにねじれたユーモア感覚で対処しようとしているマクベスが対比されているというようなプロダクションだ。
テナントはマイケル・シーンと最近はずっと一緒に仕事をしているが、この『マクベス』はわりとシーン主演の『ナイ』に近いプロダクションである気がした。『ナイ』はウェールズの役者を使い、ウェールズの現代の英雄について語る物語である。『マクベス』はイングランド人が書いた作品だが、まぎれもなくスコットランドの芝居で、このプロダクションはスコットランド人であるテナントがスコットランドアクセントが主役を演じている。衣装や音楽もスコットランド風だし、現代的な演出であるわりにはスコットランドの歴史に関する神話を語っているというような印象を受ける。いずれもポストBrexitの時代の地域ナショナリズムに根ざした、イングランド人ではないアイデンティティに関するプロダクションだと思った。