ウェクスフォードオペラ祭のコミュニティ公演で『愛の妙薬』を見た。ドニゼッティの有名作だが、初めて見た。この公演は90分くらいでだいぶカットされている。ソロの役柄はプロの歌手がつとめているが、コーラスは地元の人たちがやっている。演出はロゼッタ・クッチで、音楽はピアノの伴奏のみである。劇場ではなく、地元のイベントスペースみたいなところで上演され、第一幕は上の階のバーみたいなところ、第二部は地下のセラーで展開するので、お客さんは第二幕は立って見ることになる。
原作は田舎の村に軍隊がやってくる話なのだが、このプロダクションの舞台はヒロインのアディーナ(ローラ・アハーン)が経営するパブでである。パブの皿洗い係であるネモリーノ(パオロ・ネヴィ)はアディーナにぞっこんだが、アディーナはネモリーノの想いに答えてくれない。ネモリーノはあやしい薬売りドクター・ドゥルカマーラ(ローリー・マスグレイヴ)から愛の妙薬なるもの(実際はただのお酒)を買って飲み、アディーナの気を惹こうとするものの、今まで自分に惚れていたネモリーノが急に余裕を見せるようになったのに不満なアディーナはバイカーギャングのボスであるベルコーレ(デイヴィッド・ケネディ)と結婚してしまう。焦ったネモリーノはバイカーギャングに入ってその支度金でさらに愛の妙薬を買いこみ、飲み干すが…
恋の薬が出てくるお話というのは他人の自由意志を左右することになるので見ていてあんまり居心地が良くないことも多いのだが、この作品は他人に薬を盛るとかではなくネモリーノ自身がモテモテになる薬を飲もうとするという展開なのでそこまでイヤな感じがしない。さらに実際はこの薬じたいもニセモノで、つんけんしていたアディーナは実はちょっとネモリーノを可愛いと思っており、冷たくされると途端に不安になって最後は自分の気持ちに気付く…ということで、恋心の不思議を描いたかわいらしく面白おかしいロマンティックコメディとして楽しく見られる。ネモリーノは非常にぼーっとしたところのある人なのだが、アディーナを思う気持ちは純真で、あやしい薬にまで頼ろうとするところがおかしいやらかわいそうやら、かなり笑えた。
あらすじだけだと昔の田舎で起こったのどかな話という印象なのだが、ちゃんと現代的な演出でわかりやすく、面白いプロダクションにしているのは感心した。プロ歌手はもちろん、地元のアマチュアの人たちのコーラスもかなりちゃんとしていて音楽的にも楽しめる。バイカーギャングはなぜか中年~高齢の女性陣が演じており、これもまたおかしい。