オズ・パーキンズ監督『ロングレッグズ』(Longlegs)を見てきた。
舞台は1990年代(ビル・クリントンが大統領だった時代)のオレゴン州の田舎である。新米のFBI捜査官リー(マイカ・モンロー)は非常に優れた直感(作中では何か超能力的なものであることが示唆されている)があり、長年続いている殺人事件の捜査を担当することになる。この地方は父親が家族を殺害して自殺するという奇妙な事件が継続的に発生しており、現場では必ず「ロングレッグズ」という署名のある暗号で書かれた手紙が発見されていた。リーはロングレッグズを追う捜査を進めるが…
1990年代の話なのだが、1970年代頃に起こった事件が中心なので、そのあたりの出来事をフラッシュバックで描く描写も多い。その点では2000年頃の時点で80年代のことを振り返る『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』と構成がちょっと似ている…のだが、『ロングレッグズ』のほうがお金がかかっていないと思われるものの、こちらのほうがホラーとしてはずいぶんよくできている。リーを演じるマイカ・モンローは華やかさを封印して田舎の地味な捜査官役かつちょっとひねったファイナルガールという役を抑えた演技でうまく表現しているし、ロングレッグズ役のニコラス・ケイジはちょっとしか出てこないのにものすごいインパクトである。全体的に音響で怖がらせる演出がとても巧みで、たぶん音がいい映画館で見たほうがずっと面白いタイプの映画だと思う。
そしてこの音響にかかわっているところなのだが、なぜか音楽が極めてT.レックス推しである。「ゲット・イット・オン」が最初と最後に使われているし、「ジュウェル」もとても印象的に出てくる。途中でマーク・ボランやルー・リードのポスターが貼られている部屋も出てくる。ロングレッグズの白塗り・長髪のヴィジュアルはマーク・ボランとボブ・ディランがヒントだそうだ。グラムロックを意識的に使っているのにオカルト好きだったデヴィッド・ボウイは外し、子どものためのおとぎ話みたいな音楽性を持っていたT.レックスを持ってくるところにこの映画の特徴がある…というか、全体的にこの映画のシリアルキラーであるロングレッグズは子どもを狙う魔法使いみたいな存在だし、ところどころオフビートなユーモアが発揮される映画でもあるので、ユーモアと民話風味が特徴だったT.レックスはたぶんそれにあっているんだろうと思う。ロングレッグズはサタニストなのだが、音楽の趣味が良いことも含めてちょっと『羊たちの沈黙』のレクター博士を思い出してしまった。シリアルキラーが聴いている音楽などというのはネガティブなものとして表現されそうなものだが、この映画ではT.レックスはたぶん純粋に楽しくて趣味がいい音楽として表現されていると思うので、ちょっとねじれがある。少なくともこの映画ではサタニストは音楽の趣味が良い。
映像的には白へのこだわりがちょっと気になる。ロングレッグズは白塗りの白人男性で、言ってみればハイパー白人である。一方で被害者はラテン系とかが多い(途中で被害者の身元に関する書類が写るところがある)。真っ白な雪の中にロングレッグズがあらわれるくだりもある。別にこの映画は人種に関する映画ではないのだが、オレゴン州は白人が多い地域でもあり、ある意味で「白いアメリカ」、つまりわりと均質でたいした事件も起こらなそうなアメリカの田舎で、明確ではなくても異分子の排斥や子どもの虐待などが起こっている状況を不気味に象徴している作品なのかもと思う。