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恩田陸『蒲公英草紙』

ひとの思いというのは不思議なものです。それぞれの顔は別のところを向いていて、なかなか正面からお互いの顔を見ることはできません。

恩田陸さんの『光の帝国―常野物語 (集英社文庫)』を読んだのはたぶんもうずっと前、学生の頃だったと思います。当時から続編があることは知っていたものの、読む機会がありませんでした。

夏休みの暇にまかせて『光の帝国』を読み直したのですが、素敵な、不思議な物語です。「常野物語」というシリーズには、この「物語」という言葉が一番ぴったりくると思う。

本書は、光の帝国の「春田家」の物語。実は、光の帝国をはじめて読んだときに「オセロ・ゲーム」の印象が強すぎて、この一家のストーリーが飛んでしまっていたのですが。(だからこそ読み直したんですけどね)

舞台はときをさかのぼって戦争の時代。はっきりと解説や解釈がくわえられないものの、記憶や歴史を「しまう」人々。“礼儀正しく、目立たず”けれど、寄り添うような彼らのスタンスはそれだけであたたかさを感じさせてくれる。余談ですが、春田の家の人々の名前には工夫があって好きです。

一人称で語られる「草紙」は、最初どうかなと思いましたけれど、一流の書き手は違いますね。記す力のある「常野」なのでしょう。実はちょっと泣きました。SFとかファンタジーと読めなくもないのでしょうが、人間の力を感じさせてくれる、いい作品だと思います。




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