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「極北の海獣」イーダ・トゥルペイネン/古市真由美訳/河出書房新社-ロシア、アラスカ、フィンランド。時代を超え、場所を変えて展開する物語。絶滅したステラーカイギュウを軸に描かれるフィンランド文学の注目作

 

 

現在、世界にはおよそ158万種の動物がいる。そのうち、絶滅の危機にあるとされる動物種の数はおよそ4万7千種に及んでいる。

イーダ・トゥルペイネンの長編デビュー作にあたる「極北の海獣」は、18世紀ロシア、19世紀アラスカ、そして現代フィンランドへと3世紀にわたる壮大な物語だ。そのストーリーの中心に存在するのが絶滅した巨大海棲哺乳類“ステラーカイギュウ”である。本書の帯には“冒険譚”とあるが、読み進める中で浮かび上がってくるのは、人間のエゴや欲望がいかにして動物たちを絶滅へ追いやるのかという現実である。

「第一部 栄光か、破滅か——一七四一~〈ロシア極東・カムチャッカ半島〉」は、ヴィトゥス・ベーリング率いるロシアの探検隊の物語。アラスカに向けて航海に出た彼らは遭難し、名も知らぬ島に漂着する。探検隊に同行する博物学者ゲオルク・ヴィルヘルム・シュテラーは、漂着した島で巨大でおっとりとした海獣“ステラーカイギュウ”に遭遇する。ステラーカイギュウは、探検隊の生存のために乱獲され、彼らはその肉と油で命をつなぐ。シュテラーは、限られた状況下で可能な限り観察を行い、詳細な計測データを残すが、骨格標本を持ち帰ることは叶わなかった。この遭遇と記録が、後の物語へつながっていく。

「第二部 征服——一八五九~〈アラスカ南東部〉」は、第一部からおよそ100年後のアラスカが舞台。ロシア領アラスカの総督に任命されたハンプス・フールイェルムの妻アンナは、夫とともにアラスカに渡るが、厳しい自然環境と孤立した生活の中で孤独に苛まれる。極限状態で追い詰められていくアンナの姿が痛々しい。

この時代、すでにステラーカイギュウは絶滅しており、ハンプスは褒賞金をかけてその骨を探索させる。そして、発見された全身骨格は本国に持ち帰られることになる。

そして「第三部 命あるものたち——一八六一、一九五〇、二〇二三〈フィンランドヘルシンキ〉」で舞台はフィンランドに移る。画家であるヒルダ・オルソンは、フォン・ノルドマン教授に才能を認められ、節足動物(クモ)の精密な標本画を描く仕事を任されるようになり、やがてステラーカイギュウの骨格標本図を描くことになる。

後半はヨン・グレンヴァルという標本修復師が登場する。彼は、鳥類の卵の復元に関して当代随一の腕を持つが、卵の修復を行う中で、人間が希少な鳥類を乱獲し、絶滅させていることに心を痛める。彼は兄弟たちとバルト海にある4つの島とその海域からなるアスパシャールに拠点を構え、そこに生息する鳥たちの保護活動をはじめる。そして、標本管理士としては、90年前に組み立てられたステラーカイギュウの骨格標本の再構築に取り組むことになる。

1741年にシュテラーたちによって発見されたステラーカイギュウは、わずか30年弱で絶滅したとされている。肉は食用として、脂は燃料などに利用するために乱獲されたことが原因だ。おっとりした性格の動物であり、繁殖力が極端に低いことなども簡単に絶滅に至った要因である。ベーリング探検隊は生き延びるためというやむを得ない理由でステラーカイギュウを狩ったが、それが欲望を満たすための乱獲に発展するのは時間の問題だった。ステラーカイギュウが発見からわずか30年弱で絶滅したという事実は、人間のエゴや欲求の恐ろしさを如実に表している。

3部構成の物語は、各部それぞれで舞台となる時代も場所も人物も異なるが、全体を通して中心にあるのは、人間のエゴや欲望が簡単に動物たちを絶滅に追いやるという現実である。ステラーカイギュウという存在は、単なる絶滅種としてだけではなく、人間の浅ましさを映す鏡なのである。

帯の惹句をみて、ステラーカイギュウを巡る波乱万丈、荒唐無稽な海洋冒険活劇的な作品を期待して読み始めた。だが、読み進める中で、本書は私たち人間がそのエゴと欲望で簡単に自然の乱獲者になってしまうのだということを考えさせる作品なのだと感じるようになった。静かで地味な作品かもしれないが、その静けさが読後に強い余韻を残すのだと思う。こういう作品こそ広く読まれていい。

 




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