
スティーヴン・キングは世界中にいます。
スティーヴン・キングといえば言わずとしれたホラー小説の第一人者。“モダン・ホラーの帝王”と呼ばれ、ホラー小説というジャンルに新たな世界を築き上げた作家です。
キングが登場し、モダン・ホラーという形でホラー小説が現代小説としての地位を確立したことにより、彼に連なるホラー作家がアメリカのみならず世界中で生まれました。「幽霊ホテルからの手紙」の著者蔡駿も〈中国のスティーヴン・キング〉と称される作家です。
ある雨の日、警察官の葉蕭(イエシャオ)のもとを友人である周旋(ジョウシュエン)が訪ねてくる場面から物語は始まります。突然の訪問に驚く葉蕭の前に周旋はバッグから黒い箱を取り出し、彼が経験した木匣にまつわる奇妙な出来事を語り始めます。
「幽霊ホテルからの手紙」は、そのタイトルが示すとおり幽霊譚です。物語は、田園(ティエンユエン)と名乗る女性から黒い木匣を預かった周旋が“幽霊客桟”へと赴き、そこで奇妙な出来事に遭遇していくというストーリーになっています。
周旋は、偶然に乗り合わせたバスで血まみれの女性と出会い、彼女の自宅まで送り届けます。後日、彼女の存在が気になっていた周旋は彼女を再訪し、そこで彼女が田園という名前で女優をしていることを知り、彼女から黒い木匣を預かってほしいと頼まれます。訝しみながらも木匣を預かることにした周旋に田園は、「勝手に匣を開けるな」と釘を差すのでした。
ミステリアスな女性の存在。彼女が託した謎に満ちた黒い木匣。絶対に開けてはいけないという願い。序盤の流れですでに読者は不穏な空気を感じることでしょう。
田園から木匣を預かって数日後、周旋は三度彼女の家を訪ねます。そこで彼が目にしたのは、田園が亡くなっていたという事実でした。彼が仕事のために上海に出かけていた3日の間に彼女の身に何が起きたのか。周旋は、田園の突然の死に愕然とします。そして、彼女が彼の留守中に留守番電話に残したメッセージに気づきます。彼女のメッセージは、預けた木匣を幽霊客桟に持っていってほしいというものでした。
葉蕭から幽霊客桟が浙江省K市西冷鎮にあるらしいことを知った周旋はすぐに現地へ向かいました。ところが、地元の人々は「幽霊客桟はない」と否定します。「命を大切にしろ」と忠告までされてしまうのです。それでも周旋は幽霊客桟に向かい、その扉の奥へと足を踏み入れました。
ここまでが「第1部 謎の木匣」で描かれます。「第2部 幽霊ホテルからの手紙」では、幽霊客桟に滞在する周旋から葉蕭に宛てた手紙というスタイルで物語が進行していきます。幽霊客桟で周旋がどのような人たちと出会い、どのような経験をしたのか。彼が手紙に記す事柄や同封される写真は、何の変哲もない無害なものに思えますが、回を重ねるごとにその内容はジワジワと恐怖を感じさせるものへと変化していきます。そして、周旋から最後の12通目の手紙には、信じがたい出来事とともに「葉蕭、助けてくれ」の文字が記されていたのです。
12通目の手紙を不審に感じた葉蕭は、周旋の行方を追って幽霊客桟に向かいます。しかし、そこには周旋の姿はありませんでした。その後葉蕭は、西冷鎮の派出所で所長となっていた学生時代の同級生と再会し、彼から幽霊客桟で起きた3年前の事件のことを聞かされます。その内容は、周旋の手紙に記されていた幽霊客桟の宿泊者の名前、出来事と重なるものでした。
まさにスティーヴン・キングを彷彿させるホラー作品だと思います。現に作中でも登場人物の口から「まるでスティーヴン・キング原作、キューブリック監督の映画『シャイニング』みたいじゃないか」というワードが出てきます。著者がキングの影響を受けていると想像させるセリフです。
中国のホラー小説であり、かつゴーストストーリーということで、おどろおどろしさがもっと色濃い作品なのかと想像して読み始めました。そういう要素も多少はありますが、そこまでの湿っぽさは感じませんでした。ミステリーとしても読み応えのある構造になっていて、第3部はミステリーとしての真相も描かれていたように思います。全体的に読み応えのある作品でした。