以下の内容はhttps://s-taka130922.hatenablog.com/entry/2025/03/01/170614より取得しました。


「友だち」シーグリッド・ヌーネス/村松潔訳/新潮社-近しい者を失うこと。親しき者を失うこと。その喪失の悲しみは深く胸に刻まれる。

 

 

シーグリッド・ヌーネス「友だち」に描かれるのは“喪失”です。主人公である女性作家の一人称で紡がれるのは、尊敬し、そして誰よりも心を許せた男友だちを突然失った彼女の喪失からくる孤独の物語です。

「これは不思議な小説である」と、訳者はあとがきの冒頭をこう書き始めています。明確なストーリーがあるわけではなく、登場人物には名前もありません。語り手である主人公は“わたし”。わたしのかつての恩師であり心を許せた男友だちは“あなた”。男友だちの妻たちは、“妻1”、“妻3”などと、まるで記号のように記されます。

小説の始まりも、1980年代のカリフォルニアでカンボジア人女性の多くが心因性の目の症状を訴えたことがあるという事実を記し、その後に男友だちの死亡記事に関する間違いを指摘する描写などが続いていきます。とりあえず読者は、この小説の導入部分から男友だちが何らかの事情で亡くなり、“わたし”がその喪失から心にダメージを負ったのだろうということを想像して、この先の物語を読んでいくことになります。

あえてストーリーの展開を記すとすればこうなります。誰よりも心を許せた男友だちが突然に亡くなり、その喪失感から心にダメージを負った初老の女性作家(わたし)は、男友だちが飼っていた老犬(“アポロ”という名前のグレートデン)を引き取ってもらえないかと“妻3”から頼まれます。ペット禁止で狭いアパートに暮らす彼女ですが、致し方なく老犬を自分のアパートに引き取って生活をするようになります。いつ大家にアポロの存在がバレてアパートを追い出されるかという状況の中で、次第に衰弱していく老犬とともに暮らしていく中で、男友だちとの思い出や犬のこと、老いていくことについて、あるいは作家として書くということへの思いなど、彼女の記憶や心情などがとりとめもなく書き綴られていきます。

「友だち」が描くのは“喪失”です。“わたし”は、“あなた”を失ったことで大きな喪失感を覚え、“あなた”との思い出や自身の作家としての創作のこと、大学で教えている生徒たちのこと、社会のこと、世界のことを語り手として書き綴っていきます。それは、彼女の心にぽっかりと空いた穴からこぼれ出る喪失感を埋めるようにも思えます。溢れ出てくる様々な思いを書き記していくことで、喪失感と向き合い、生きることに歩を進めているとも感じます。

老犬アポロにとっても、“あなた”を失ったことは大きな喪失感となっています。“あなた”の帰りを健気に待ち続けるアポロ。犬にとって飼い主の存在がいかに大きいかを物語っています。老いて弱っていくアポロを世話する“わたし”にとっても、いつしかアポロの存在は大きなものとなっていきます。創作や人間関係に悩む“わたし”にアポロは寄り添い、“わたし”もアポロに支えられていることに気づきます。

守り合い、境界を接し、挨拶を交わしあうふたつの孤独。アポロとわたしは、わたしたちは、まさにそれ以外のなにものでもないだろう。

こうして、“わたし”とアポロの喪失と孤独を記してきた物語ですが、ラスト前の第11章で読者はある事実を知ることになります。

物語はどんなふうに終わるべきか? しばらく前から、わたしはこんな終わり方を想像している。

第11章はこんな書き出しで始まります。そして、この章で本書にある仕掛けが仕込まれていたことが明らかになります。ミステリ小説ではないので仕掛けの内容を書いてしまっても問題ないかもしれませんが、まっさらな状態で読んだ方が新鮮に感じるとも思いますので詳しくは書かないでおきます。

この仕掛けの受け止め方は読む人によって変わると思います。「訳者あとがき」には、読者は一瞬戸惑うかもしれないと記されていますが、私はあまりに自然な流れで読んでしまったがゆえにスッと読み進めてしまいました。人によっては違和感を覚えたり、驚いたり、がっかりする場合もあるかもしれません。こうした実験的な手法に対しては好き嫌いが割とはっきり分かれるように思います。

“わたし”の見たものや感じたこと、心の内に潜むものをひとつずつひっそりと記していくタイプの小説であり、私小説としても読めるし思想小説といえる部分もある。終盤の仕掛けをもって実験小説としての一面も見せてくれる。派手な展開があるわけではなく、強烈なエピソードが盛り込まれているわけでもない。エンタメ的な要素を物語に求めるとしたら、「友だち」という作品は物足りないと思います。ただ、喪失に向き合う孤独な女性と孤独な犬とのつながりから醸し出される雰囲気は、読んでいて不思議な感覚を覚えました。それは、癒やしというには少し違う、安心感というのがしっくりくる感じです。落ち着いた読書体験を味わえる作品だと思います。




以上の内容はhttps://s-taka130922.hatenablog.com/entry/2025/03/01/170614より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14