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「とるに足りない細部」アダニーヤ・シブリー/山本薫訳/河出書房新社-事実を冷静に淡々と描くことで浮かび上がってくる真実の物語

 

 

中東情勢の不安定さにはいくつかの要因がありますが、イスラエルの存在がそのひとつであることは間違いないでしょう。1948年に建国されて以降、第一次中東戦争から現在に至るまで戦争の火は絶えることなく続いています。イスラエル建国以降、イスラエルパレスチナの対立は無数の悲劇を生んできました。そして、これからもこの状態は継続していくのでしょう。

アダニーヤ・シブリー「とるに足りない細部」は、パレスチナ出身の著者による作品です。この作品は、アラビア語で出版され、世界各国に翻訳されて高く評価されました。全米図書賞翻訳部門最終候補、国際ブッカー賞候補にも選出されています。また、2023年にはアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、アラブ世界の女性作家による作品を対象とするドイツのリベラトゥール賞を受賞しました。授賞式は、フランクフルト・ブックフェアで行われる予定でしたが、直前の10月にハマースなどのパレスチナ武装勢力イスラエル領を奇襲、その報復としてイスラエルガザ地区への攻撃を行う事態となったことで無期限延期となります。その後、リベラトゥール賞の主催団体がイスラエルへの連帯を表明したことで世界各国の作家や出版関係者から抗議の声があがり、そのことで著者であるアダニーヤ・シブリーが注目される存在となったことが「訳者あとがき」に記されています。

「とるに足りない細部」は2部構成の作品です。第1部はイスラエル建国のすぐあと、1949年を舞台にイスラエル軍将校側の視点で描かれています。アラブの灼熱の砂漠に設営された宿営地で、抵抗するアラブ人の残党を一掃する作戦行動に従軍する兵士たち。そのリーダーである将校を中心に淡々と事実のみを書き記していくスタイルの物語となっており、その客観性こそが、そのときそこで起きたベドウィンの少女に対するレイプ殺人事件の残酷さや、将校や副官、兵士たちが事件を起こすに至るまでの状況の異常さを際立たせているように感じます。複雑な心理描写や派手な展開があるわけではなく、ただ客観的に冷静に事実を積み重ねる。下手に演出されるよりも、緊迫感があります。

第2部は、2004年のパレスチナに暮らす女性の一人称視点で描かれます。彼女は、パレスチナに暮らし、パレスチナのオフィスで働いている平凡な市民です。第2部のはじまりでは、彼女が暮らす部屋での光景が描かれ、職場では同僚たちと同じように働いている日常が描かれます。どこにでもある日常のように思えますが、彼女が生きる世界はパレスチナであり、当たり前の日常の中に戦争が隣り合わせに存在するのです。

ある朝、彼女はある新聞記事に目をとめます。それは、第1部に描かれたベドウィン少女レイプ殺人事件に関する記事でした。ただ、彼女が気にとめたのは事件そのものではなく事件が起きた日付です。その日付は、事件が起きてから四半世紀後に彼女が生まれた日でした。

私の注意をあの記事に最も惹きつけたのは、そこに書かれていた事件の発生日時に関する詳細だった。事件が起きてからちょうど四半世紀後の、同じ日時に私は生まれた。もちろん、ただのナルシシズムだと思われるかもしれない。でも実際、私をあの事件に惹きつけ、夢中にさせたのは、痛ましいとしか言いようのないほかの主要な細部と比べた時の、こうしたとるに足りない細部なのだ。

こうして彼女は、あの事件の真実を求めて身元を偽ってイスラエルへと足を踏み入れていきます。常に戦争と背中合わせでありながらも当たり前のように生活する日常、ベドウィン少女レイプ殺人事件の発生日時が偶然自分の誕生日と同じであるというとるに足りない細部への興味とその真実を求めた彼女の行動。そうした事実の積み重ねが彼女の一人称視点で淡々と記されていく。人称視点の違いはありますが、第1部と同様に起きている事実を淡々と記していくスタイルは、物語に客観性を与える効果を生んでいるように思います。

本書の事実を客観的に冷静に記録するような語りは、第2部の終盤で語り手の彼女が70歳代の老女を車に同乗させる場面からインパクトのあるラストへと続くストーリー展開を読者に強く印象づける効果もあるように思います。語りが冷静であるがゆえに、物語としての緊張感と同様に、パレスチナイスラエルとの緊張関係もひしひしと伝わってくるのだと思うのです。

本書を読んで、私はとても深く考えさせられました。1949年に実際に起きたイスラエル兵によるベドウィン少女レイプ殺人事件は、長年隠蔽されてきた事件です。こうした歴史の暗部を知ることは、私たちに過去の過ちから学ぶことの重要性を教えてくれます。イスラエルパレスチナの対立の問題は、現在進行形の国際問題であり、この先もいつ終わるかわからないまま続いていくであろう問題でもあります。簡単に答えが見つかるはずもない問題ですが、本書をはじめとする様々な文学作品が、平和へとつながるきっかけとなればと思いますし、文学にはそういう力があると信じたいと思います。




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