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「ウラジーミルPの老年時代」マイケル・ホーニグ/梅村博昭訳/共和国-認知症の元大統領と腐敗し混迷する国家。ふたつの要素がリンクするディストピア

 

 

高齢化が進む中で、認知症という病気への関心が高まっています。認知症とは、単に記憶を失う病気というだけではなく、日常生活や人間関係にも影響する病気です。個人の尊厳が失われ、家族や周囲の人々に大きな負担となることもあります。多くの場合、高齢にともなって発症しますが、若くても発症することもあります。深刻な病気ですが、その発症のメカニズムや治療法については研究の過程であり、詳しいことは解明されていないのが現状です。

「ウラジーミルPの老年時代」は、近未来のロシアを舞台に、かつて絶大な権力を誇った元大統領のウラジーミルPが認知症を患って隠居生活を送っているという設定で描かれるフィクションです。ウラジミールPは、認知症の影響で自分がまだ権力者であると錯覚しており、夜な夜なチェチェン人たちの亡霊に苦しめられたり、過去の政敵や彼の権力に媚びへつらってきた者たちとの記憶に興奮したりする日々を送っています。

本書の主人公となるのは、ウラジーミルPの世話をするシェレメーチェフです。彼は、腐敗したロシアの中にあって、唯一といっていい真面目で誠実な人間です。しかも、“バカ”がつくほどのレベルでです。周囲の人間が、自分の地位や立場を悪用して金儲けをしたり、権力を手に入れたりする中で、シェレメーチェフだけが真面目に職務をこなし、清貧な生活を受け入れています。彼には、他の人たちのように阿漕に生きようという考えがないのです。

彼は介護人として献身的にウラジーミルPの世話をしています。彼らが暮らす別邸という狭いコミュニティでも、権力や金儲けを巡って対立が繰り広げられている中、シェレメーチェフだけは相変わらず真面目で誠実に役割を担っています。ですが、そんな彼のもとにある問題が舞い込みます。彼の甥が政権批判をネット上に公開したことで不当に逮捕されてしまうのです。甥を救うためには、検事に賄賂を送る必要がありますが、シェレメーチェフにはそんなお金はありません。どうすればいいのかと思い悩む中で彼は、別邸には数百もの高級腕時計があることに気づきます。これらを売れば、甥を救うための資金を手に入れることができるのではないか。シェレメーチェフはウラジミールPの時計を盗むという罪を犯すべきではないという己の誠実さと、甥を救うためにはそれをするしかないという苦悩との間で深く葛藤します。

シェレメーチェフの葛藤する姿は、金がないことで正義すら曲げられてしまうロシアという国の理不尽さをあらわしています。そして、その理不尽が横行する国家を作り上げたのが、自分が世話をしてやらなければ生活もままならない認知症の元大統領であるという事実が彼の葛藤をさらに深めるのです。

私は、本書を現代ロシアを風刺したユーモア小説なのだろうと思って読み始めました。ウラジーミルPが認知症によって、過去の栄光であったり遺恨であったりといった妄想に振り回されたり、ウラジミールPのそうした振る舞いにシェレメーチェフが振り回されたりする姿には一種の滑稽さもあり、笑える場面もあります。しかし、読み進んでいくごとに、物語の背景にあるロシア社会の腐敗と暗部が浮かび上がり、その描写にどんどんと怖さを感じるようになりました。シェレメーチェフが重い決断を下し、でもそれすら思うようにいかない。失意の中でシェレメーチェフを襲う最後の苦しみと絶望のラストシーン。この終盤の展開には胸が苦しくなります。この作品は、ただのパロディ小説ではなく、ロシアという国の現実を映し出すディストピア小説としての側面を持っているのです。

本書は、もちろんフィクションです。ですが、その背景にはロシアが抱える様々な闇があり、その闇はリアルに存在しているのです。認知症を患った元大統領という設定は、彼が作り上げたロシアの闇を認知症による記憶の混迷とリンクさせているのかもしれません。最初は気軽な感じで読み始めましたが、読み込むうちにロシアという国家の闇深さを感じました。もし、これからこの作品を読もうとしているならば、滑稽さと同時に闇の部分を映し出す鋭さにも注目してみてほしいと思います。




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