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【書評】村田沙耶香「消滅世界」(河出書房新社)-《クレイジー》と称される作家が描くこの世界はユートピアなのかディストピアなのか?

先日、「王様のブランチ」のブックコーナーに村田沙耶香さんが出演されていた。なんでも、朝井リョウ氏ら作家仲間からは《クレイジー沙耶香》と呼ばれているらしい。

その《クレイジー》な作家が描き出す特異な世界は、確かにぶっ飛んだ世界だった。本書「消滅世界」のこと。

 

 

「消滅世界」に描かれる世界は、家族という形態、性愛の概念がわれわれが生きる現実世界と大きく異る場所だ。この世界では、夫婦間でのセックスは近親相姦とされ嫌悪される。夫婦は家族として共に暮らす存在であり、セックスはそれぞれの恋人と交わすものだ。そして、その恋人は必ずしも生身の人間とは限らない。アニメのキャラクターを恋愛対象とし、キャラクターとのセックス(要するにマスターベーション)によろこびと快感を得る人もいる。

家族の形態、セックスの概念は、さらに変化し、ついには必要のない存在になっていく。この世界の中では、壮大な実験が行われていて、実験都市・千葉では固定的な家族の形態は存在せず、都市全体が大きな共同体として動いている。住民の生活は一人暮らしが基本であり、子どもは人工受精によって決められた時期(クリスマス・イブ)に、選ばれた男女が受精し出産する。妊娠するのは女性だけではなく、人工子宮の技術の発達によって男性にもその機会が与えられる。生まれた子どもは住民全員で育てる。みんなの子どもは『子供ちゃん』と呼ばれ、『子供ちゃん』は大人たちを(男女関係なく)『おかあさん』と呼ぶのである。

「消滅世界」に描かれる世界は、きっとディストピアだ。その世界には、現実世界が有する幸福の象徴たる家族が存在しない。女性が愛する夫とのセックスによって授かった我が子を、自らの手で産み育てることもない。そんな世界がユートピアとは考えられない。

だが、その一方でその世界が現実にも存在しているのではないかという思いもある。

今の世界に、本当に幸せな家族を営んでいる人がどのくらいいるのだろう。生身の人間との恋愛やセックスを恐れ、2次元や2.5次元を恋愛対象としている人がリアルに存在しているのも今の世界では事実だ。誰かと会って話したり、誰かと幸せを共有したり、誰かと暮らすことよりも、「おひとりさま」という言葉が市民権を得ているように、ひとりでいることにやすらぎや幸福を感じる人がいることも事実だ。

つまり、本書「消滅世界」に描かれる世界は、実は現実の世界で現実に起こっていることを、ちょっとだけ大げさな物語に仕立てあげた世界なのだ。もしかしたら、この世界は作家の妄想による産物ではなく、近未来の日本が現実に迎えているかもしれない世界かもしれない。

そんな恐ろしい近未来の世界を描き出した村田沙耶香。なるほど、彼女が《クレイジー》と称賛される理由がわかったような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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