2025年に読んだ本の中で、特に良かったものを紹介します。紹介順は適当です。
アメリカ社会の現在を知りたければ、必読の一冊だろう。福音派の歴史を丁寧に追うことで、アメリカの分極化を理解するための重要な視座を与えてくれる。保守とリベラルというよく知られた対立構図の背景には、原理主義を起源とする福音派の影響が強く認められることを把握できるだけでなく、福音派と呼ばれる人たちの間にも意見対立があり一枚岩ではないことを確認することができる。本書から得た知見をもとに、改めてアメリカの反知性主義について考えてみたくなる。
- 銭清弘(2025)『芸術をカテゴライズすることについて:批評とジャンルの哲学』(慶応義塾大学出版会)
本書は、分析美学の観点から芸術鑑賞と批評について論じた一冊であり、全体としてきわめて明晰かつ論理的に書かれている。日本では分析美学の研究が蓄積されつつあるとはいえ、批評というテーマについて体系的に書かれた著作はたいへん貴重である。また、本書は明晰であるだけでなく論争的でもあり、読者はトピックに関する自らの意見を持ちながら議論を追うことで、何倍も面白く感じられることだろう。分析哲学の手法に慣れていない読者には少し読みづらいと思われる記述もあるが、本書は現時点での日本国内における分析美学研究の到達点の一つであるといっても過言ではない。
- 仙波希望(2024)『ありふれた〈平和都市〉の解体:広島をめぐる空間論的探求』(以文社)
本書は、広島について考えるための足場となる一冊である。これまで広島が「平和都市」であることは自明視されてきたことを指摘しつつ、著者は「平和都市」の成立過程と存立構造を丹念に紐解いていく。広島で「平和」を訴えることはまだしも、「平和」とは何かを前提から問い直すことはタブー視されがちだった状況に抗い、「平和都市」という理念の解体を目指す著者の議論は非常にスリリングである。本書には「批判と応答」という対話形式の章が含まれており、そこでは想定される反論に対して何とか応じようとする著者の誠実な姿勢が見て取れる。ぜひ一読を薦めたい。
『メタ倫理学入門』(2017)の姉妹編として書かれた二冊。本書を読めば、メタ倫理学の歴史を丁寧に追いながら、メタ倫理学の理論がどのような背景のもとに成立したのかを理解することができるだろう。ただし、著者自身が「あとがき」で断っているように、本書はメタ倫理学史の「決定版」を提供するものではない。つまり、本書を読み通して歴史の見方を固定してしまうのではなく、むしろ著者とは異なる角度から歴史を自分なりに再構成することが求められている。『メタ倫理学入門』を手元に置きながら読むことをおすすめしたい。
『20世紀のオックスフォードでメタ倫理学はいかに発展したか』と並行して読むと学びの多い一冊。アンスコム、マードック、ミッジリー、フットというオックスフォード大学の四人の哲学者が、戦争の最中で道徳の基礎や倫理的な生き方について、どのように思索を深めていったのかを、手紙や日記などの膨大な資料に基づいて描いている。男性中心的に描かれがちな主流の哲学史像に抗して、女性が主体的に哲学する生き方を克明に記述する様は圧巻の一言である。
分析形而上学を学ぶための第一歩として薦めたい一冊。日本語で書かれた分析形而上学の入門書として、鈴木・秋葉・谷川・倉田(編)『ワードマップ現代形而上学』(2014)、柏端『現代形而上学入門』(2017)、倉田『現代存在論講義I・II』(2017)などの優れた著作が存在しているが、本書はさまざまなテーマの情報をアップデートしているのみならず、読みやすい語り口で読者を議論の最前線まで誘ってくれる。決して気軽に読める本ではないが、じっくりと腰を据えて読めば分析形而上学の面白さを実感できるだろう。
本書は、『哲学思考トレーニング』(2005)の倫理篇にあたる一冊である。本書が提示するのは協力的なクリティカルシンキングの方法だ。倫理的なテーマをめぐって相手を論破するのではなく、合理的な討論を通じて互いに納得のいく見解を目指して試行錯誤することが重要である。本書は倫理問題の難しさの要因が多岐にわたることを確認しつつ、「論証図」や「対論図」といった協力的に討論するための技法についても丁寧に説明している。クリティカルシンキングを暴走させないための処方箋(無理のない範囲でクリティカルに生きよ)まで提示されている本書は、倫理問題を正しく考えるための出発点になるだろう。それなりに分厚い本だが、通読を薦めたい。


























